3口目
彼女に膝枕をしてもらう。本来どきどきや安心が混ざる状況のはずだが、私の心の中にはそれ以外の感情が渦巻いている。
それもそのはず、彼女と私の関係は恋人、と言えるようなライトなものではない。今日は新しい
「顔こっち向けて?」
と、上から覗き込まれる。
まだ彼女の顔の良さを楽しむ余裕はあるようだ、なんて他人事のような感想が浮かんでくる。
「はい、お口開けてー。」
歯医者ですか?と思いながら口を開ける。
「んー、もうちょっと大きく。」
そう言われ割と限界近く開く。
…私は今どんな顔してるんだろ。きっと側から見たら無様なんだろうな。
「じゃあ行くよー」
なんて思考は一気に吹っ飛んだ。
とぽぽぽぽ
私の大きく開いた口に銀色の缶の中身が流し込まれる。
急に口内が液体で満たされ、鼻呼吸を余儀なくされる。
「飲み込んじゃダメだよ?」
内心かなり慌てている私に、とても楽しそうな顔をしている彼女が告げる。
いつも無意識に行なっている行為を意識して止めるのは中々苦しい、というありきたりなことを特殊すぎる状態で実感した。
「いただきまーす」
と、私の中の液体を彼女がストローで吸い取っていく。
その際に口内を掻き回され、なんとも言えない快感が生まれる。
半分ほど減ったところで、再度酒が注がれ、またストローで彼女が飲む。
それが数回繰り返され、自由に呼吸等ができない苦しさと、弱い快感が混ざり合って色々な意味で辛くなってくる。
『カッ…!?』
急に彼女が私の首筋に唇を落とす。
思わず体が反応してしまうが、なんとか体勢を崩さないようにする。
散々味わった後に、彼女は恍惚とした、それでいて嗜虐心が含まれたような笑みで私を見下ろしている。
伸びてきた彼女の手が、私の鼻を摘む。
呼吸ができない。
反射的に体を起こそうとしたがそれを見越したかのように反対の手で頭を押さえつけられる。
手を使ってどかそうとしたが、そもそも手が動かせる状況にない。
苦しい。
酒を飲み込もうにも、息を吐こうとする身体の行動と相まってうまくいかない。
苦しい。
苦しい。
急に頭の重りがなくなり、上半身が自由になる。
なんとか起き上がって呼吸を遮っていたものを吐き出し、咳き込む。
「あーあ、色々こぼしちゃって。」
「げほっ、はー、はー、」
呼吸を整えている私の前に彼女がしゃがみ込む。
「大丈夫?」
というとても愉しそうな声をかけられる。
酒と涙でぐちゃぐちゃになった顔を彼女に向ける。
あぁ、でも、きっと。
「っ! あはっ、何その顔」
私は今、期待に満ちた顔をしているんだろう。
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