愛と触手

I サバイブ

愛と触手

「り~~~つ♡ お~き~て~ 起きないとぉー ……襲うよ?」

「はーい 起きますとも」

 俺は佐藤律さとうりつ。睡魔が残る俺を強引な方法で起こしたのは、朝原日向あさはらひなた。激重な愛を俺に注ぐ現在3年目の彼女だ。

「くんくん、くんくん。はぁー♡ やっぱり朝の律の匂いは格別だよ」

「残念。もうパジャマは洗濯に出すから嗅げないぞ」

「何言ってるの? 朝の律の身体の匂いがすごくいい匂いだなーって言ってるんだよ?」


 ぞわっっっっっっっっ⁉


 俺の節操が全力で警鐘を鳴らす! まずい! 逃げなければ!


 ヒュルヒュルヒュル…… ガシ‼


 日向が俺を抱きしめてきた。ちょっ力強い! 力強いって!

「フフフっ もうちょっとこうしていたいなぁー♡」

「……ハハッ 分かったよ。じゃあもう少しだけこうするか」

そうして数分経った頃……


シュル…… スリスリスリスリスリスリスリスリスリスリ……♡


「あのー 日向さん。その体になって堂々とお尻や背中にセクハラするのやめてもらっていいですか」

「なーにー♡ 全然わかんない♡」


ムギュー♡


「………………………………」

日向の身体はとある理由で、触手を操る化け物になってしまった。そしてクソみたいな運命をぶっ壊して、何とか今の幸せを手に入れた。

「さあ、朝ごはん用意してあるから食べよう」

「おお。分かった」

触手で俺を抱きしめたまま、ダイニングへと向かっていく。



 「うーん‼ やっぱり日向の作ったご飯は絶品だなあ!」

「フフッ 嬉しい♡ はいこれ、あーん♡」

日向が触手で箸を器用に持ちながら、今すぐにでも襲ってやるぞと言わんばかりの蠱惑的な笑みを浮かべて俺を見ている。やばい、エロい。そして愛しすぎる。

「あーうまい。ほんっとうまい。一つ一つに想いがこもってて最高の朝食だったよ」

「もー そんなに言わなくてもいいのに~」

口ではそう言いつつ、うっきうっきでキッチンに戻っていった。触手もぴくん♪ぴくん♪とご機嫌にゆれている。


 「さて……」

今日は何をしようか。日曜だから何をしてもいい。日向と思いっきり遊ぶか、それとも家の中で静かに過ごすか。……それとも日向といいことをするか……

「うーん いつもなら遊びたいところだけれど、今日はちょっとそういう気分じゃない。家の中で過ごすのもいいが……やることがないからなー。最後はとても魅力的だが、ダメだ。毎回日向に搾り取られてもう体力の限界だ。うーーーんどうするか……」ブツブツ

「だったらいいことしよう?」

「うわあ⁉」

後ろに日向がいた。しかも心の中で言っているつもりがばっちり聞こえていたらしい。性欲が人間の頃から馬鹿強い日向にエッチをねだられている。だがしかし! こっちも譲れないものがあるのだ!


「なあ日向。夜まではしないようにするのはどうだ?」

「え、やだ。こっちは日ごろのストレスをエッチで解消してるのに……」

「まあ、そうだよな。でも一日中ってわけじゃない。今夜になったら好きなだけしていいからさ、明日は寝かせて欲しい……」

「…………うーーーーーーーん。分かった。彼氏の身体に無茶はさせられないし今夜まではスキンシップは我慢する」

「おいおい。スキンシップは別に」

「いいの。触れば触るほどエッチな気分になっちゃうから……」

「そうか、わかった」




「…………向………………日向‼」

「な、なに?」

「いや、今から洗濯回すから洗濯物入れといてって言ったんだけど。」

「わ、分かった。」






ポンッ


「ンひゃぁっ⁉」

「ごめんな日向。一向に呼びかけても返事しないからちょっと触った。……大丈夫か?」

「え……? うん。大丈夫だよ……?」

「もうお昼だぞ。ご飯俺が作ったから食べよう」

「う、うん! 分かったよ」


もきゅもきゅもきゅ……


現在日向は幸せそうな顔で俺の作った焼きそばを食べている。

「………………………………」

やっぱり日向の様子がおかしい。

おさわり禁止と日向がいってから明らかに挙動が怪しい。

「なあ日向。本当に大丈夫か? 今やめてもいいんだぞ?」

「ううん。大丈夫。もう収まってきたから。ごちそうさまでした」

「分かった。もう気にしないからな」


 日向と俺がペンを走らせる。一つは迷いなくペンが走り、サラサラという音さえ聞こえる。一方、雑なペンの音が本人の気持ちを表すかのように乱雑に走る。


俺達は高校生だ。あれだけの事があったがまだぴちぴちの高校生2年生だ。今宿題に取り組んでいる。三十分経つと日向は終わったのか肩の力を抜いてリラックスしている。ちくしょう、課題の量は同じはずなのになんでこんなに差が出るんだ。俺なんかまだ半分もいってないぞ。


ピンポーン……

「ん?」

突然インターホンが鳴る。勉強が終わっている日向がドアを開けると、そこには日向の母がいた。

「お、お母さん」

「久しぶり、日向。……よく生きていてくれました」

日向の母である朝原玲子あさはられいこさんは日向を抱きしめた。

「元々病弱だったあなたがこんなに元気に生きていてくれることが、お母さん一番うれしいわ」

「あ、玲子さん。こんにちは。お久しぶりです」

「あーりっちゃん! こんにちはー 元気してる?」


玲子さんを家に上げ、課題をやりながら俺はみんなの昔話を聞いた。


「そのりっちゃんっていうのやめてもらえませんか? むずがゆいです」

「いいじゃなーい。可愛いんだから」

「ちょっとお母さん! 律を可愛いって言っていいのは私だけよ‼ いい年こいたおばさんがそんな可愛い名前で律を呼んでんじゃないわよ!」

「あらあら、そんなに入れ込むようになったのね。お母さん嬉しいわ」


「んんッ‼」

「ウフフ……」


バチバチバチバチ……


うう……胃が痛い。早く課題終わらせて部屋に行こう。


30分後……


よし課題終わった! こんなところに長時間いられるか! 俺はトンズラ


「どこ行くの律ぅ?」

「どこ行くのりっちゃん?」


ダラダラダラダラダラ……


「はい。すみませんでした……」


やっぱり逃げれなかった……

それはそれとして昔話に花が咲いた。思った以上に楽しくて、玲子さんが帰るころには、すっかり夜中になってしまった。


 「ああ、玲子さん」

部屋に向かう途中で、ばったり玲子さんにあってしまった。

「あ、りっちゃん。ちょっと話したいことがあるの。2人きりで」

「え、俺は構いませんけど、大丈夫ですか」

「大丈夫、人の娘の彼氏を取って食ったりなんかしないわ。真面目な話をしたいの」

「ああ、分かりました」




俺の部屋のベッドに腰を掛ける。そして玲子さんは俺の椅子に腰をかけ、話し始めた。

「ねえ、りっちゃん。私はあなたに感謝してるんだ」

「へ?」

「一時の優越感で結婚して、でも夫がろくでもなくて、でもそこから宝物みたいな娘が生まれた。でも日向は愛を知れなかった。私が不甲斐ないせいで愛を教えれなかった……」

「ぁ……」

「ありがとう。娘に愛を教えてくれて。本当に、ありがとうございます」

「け、敬語なんて、そ、そんなこと……」

「これで、胸を張って日向を預けることが出来る。……ウエディング姿。楽しみにしてるよ」

そういって玲子さんは部屋を出た。

「こんな長々といちゃって悪いね。じゃあな、娘を頼むよりっちゃん」

「任せて下さい。玲子さん」


ガチャッ


 日向が俺の腕を抱く。でも、沈んだ顔をしていた。

「ねえ、私怖いの。私が化け物になったのを知ってるのは律だけでしょ? いつか他の人にも知れ渡って律やお母さんに何かあったら私……だから生」

「ダメだ。その先はいうな。生きてるべきじゃないってのいうのは本当に必要としてくれる人への冒涜以外の何物でもない。俺も玲子さんもみんなお前が大好きなんだ。俺は、どんなになっても日向が好きだ。愛してる。死ぬときも一緒だ」


チュッ


「……あ…… ああ……」

「あと、俺は世界中が敵になっても日向の味方だ。心配するな」

「…………………………ありがとう、律。」

「ううん。そんなこと当たり前」


ヒュル…… ガシッ‼ ギュウぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ♡


「……私も律のこと大好きだよ! まさか律の方からそういう風に言ってくれるなんて‼ どんな時だって私達の心は一つだよ! 死んでからだってずうううっと一緒‼ ありがとう! 私みたいな化け物を愛してくれて‼ ……今夜は寝かさないわ……覚悟しなさい……‼」






























…………朝の風が祝福するように二人の家を優しく、包み込んだ。

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