存在しなかった”はず”の人

昨日の常識が今日の非常識として機能する世界に振り回される語り部の実録小説のような所感は愉快で、序破部分の語りの巧みさに翻弄されるままに読み切ってしまった。急は理屈と種明かしを詰め込み過ぎに思えるが目は滑らない。1991年に放送された世にも奇妙な物語のエピソード『ズンドコベロンチョ』を思わせる作劇だが、本作は短編として落とし所をきちんと設けており、狂気に陥っていく世界と語り部の心理状況の併走がそのオチに説得力を持たせているようにも感じる。