第7話 ~蒼澄、腹が減ったってよ~

 街に溢れ返る魔物たちを避けつつ、みつるの家から数キロ離れたヤギムラマートまで、やっとの思いで辿り着いた俺たち2人は、そのスーパーの中で一休みしていた。


「発生源のダンジョンから大分離れたはずだけど、魔物たちはまだ全然いるな……」


「やっぱ数時間前の情報は当てにならんな。まだ奇跡的に魔物に見つかってないとはいえ、千葉全域に魔物が広がったらそっからは時間の問題だな」


「それにしてもみんなどこに隠れてるんだろうな。流石にまだ誰1人とも会わないのはおかしくないか?」


「あぁ、このスーパーになら何人か人がいると思って寄ったけど、まさか人っ子一人いないとは予想外だ」


 やっぱり千葉はもうダメなのか?いやそれでも、なんとしてでも生き残らないと、翠や母ちゃんが心配だ。


 しかしお腹が空いたな、多分気絶している間に勝手に能力が発動したんだろう……そういえば光が再生と勘違いしていたな、ただの自然治癒能力を高めるだけの能力なのに、いやもしかすると能力が進化した?何時間も気絶するほどの威力を喰らったおかげで、能力が進化値に達したのかもしれない、でも今は確かめれない、もし勘違いだったらめんどうなことになる。


「なぁ翔、腹減ってないか?」


「めちゃくちゃ減ってる……」


「だよな、それで今俺たちがいるのは?」


「……スーパーだけど」


「ちょっとくらい非常時なんだから良いよな?」


「まさか盗む気か!?」


「盗む?非常事態になに言ってんだ!それなら翔お前金持ってるのか?」


「鞄の中に入ってた……」


「その鞄は?無いだろ?」


「……よーし、ありがたくいただくとするか」


「そうこなくっちゃな」


 この人倫理観終わってるのか?と思いながらも空腹には逆らえないので、通常の5倍くらい食材に感謝してから食べた。


「さて、腹ごしらえも済んだところだし、引き続き下目指して歩いて行くぞ!」


 光の掛け声によって再び歩き出した俺たちは、警戒心を強めて魔窟と化した千葉を突き進んで行く。


 道中は小さい魔物がちらほらいるだけで、奴らはそこまで警戒していないのか、俺たちに気付くそぶりもなく一心不乱に死体を貪っていた。

 最初は見ているだけで食べたモノが胃から這い上がって来ていたが、今までが非現実的過ぎて、正直数回そういう場面を見たら慣れてきた。


 途中大型犬くらいの魔物と出くわしたが、光からもらった短剣が役立って、特に被害なく進んでいる。

 実際光の短剣が無かったら危ない場面も多数あったので、かなり助かっているが、探索者じゃないからしょうがないけど、本人はそこまで活躍をしていない。


「そろそろどこかで休憩しないか?」


「あぁ!賛成だ……っはぁ、もうちょっと運動しとけば良かったな。足の裏が痛ぇ」


 俺たちはあのスーパーから数キロ離れたところにある、コンビニで休憩することにしたが、周囲は既に暗くなりつつあるのでもしかしたらそこで一夜を過ごすかもしれない。


「食いもん食いもん~」


 ウキウキでコンビニに入っていく光の姿を見ていると、なにかもういろいろと吹っ切れてる奴だなという印象だ。

 それでも俺もお腹が空いているので、光に釣られてコンビニに入ると光が立ち止まってた。


「どうした?」


「く、食いもんが、ねぇ……」


「あ~魔物に全部いかれてんな……」


「ゆっるさねぇ!あんの魔物ども!取りやがって!!」


 心の中で思わずお前の飯ではねぇだろと突っ込んでいると、後ろから気配がした。

 その方向を振り向くと、2mくらいの蜥蜴っぽい人型の魔物が立っていた。


「光隠れて!」


「もう隠れてる!」


 店の奥からそう光の声を聞いた時は、流石に薄情過ぎてドン引きしたが、生存本能が高いと言えば良く聞こえるか……


 さて、コイツはどれだけ強い?俺らがコテンパンにやられたアイツよりは弱いと思うが、そのちょっと下だったらマズいな……こういう時に強い能力持ってたら楽なんだろうな。

 いろんな雑念が流れるが、それを振り解いて剣を構えて魔物と目を合わせる。

 少しの睨み合いのあと、先に魔物が動き出した。


「グガァァァアア!!」


 それと同時に俺は目に魔力を通して、相手の魔力の流れを見て対応する。

 右拳に魔力を通した……


「グガ!」


「ふっ!」


 魔力の流れの通り魔物は右の大振りをしてきたので、それを右に体重移動して上体だけで避けて、それと同時によろけた魔物の脇腹を剣で斬りながら、魔物が移動した後ろを振り向く。


「ウグッ!?」


「とどめ!」


 一瞬脇腹を庇う魔物を見逃さずに続けて背中を斬りつけるが、振り向きつつ斬ったせいか踏み込みが足りずに、背中の傷は浅かった。

 脇腹を庇いながらジャンプをしてコンビニの上に乗った魔物は、俺の様子を伺いながら脇腹に添えた手に魔力を込めた。


 すると、切り傷がみるみるうちに治って行った。


「グゲゲッ」


 それに驚いた俺の顔を見て魔物はニタっと口を歪ますと、口に魔力を溜めだした。


「グゲッ!」


 その数秒後に魔物は口から何かをこちらへ向けて吐き出した。

 魔力の流れを見ていた俺は、そういう攻撃だと薄々感じてたので、楽に避けれた。


「!?」


 だが、着弾を見て更に俺はビックリした。

 なんと魔物が吐き出した液体は一瞬にして、コンビニの駐車場のコンクリを溶かし始めたのだ。


「うわっ!……っと」


 俺が地面に注目した隙に、魔物は屋根から俺目掛けて飛んできていたのを、直前で反応して剣で引っ掻きをガードしつつ下がった。


 くそっ油断したらやられる!


 当たり前だが魔物とは命を賭けたやり取りをしている。

 そりゃ相手だって死ぬ気でやってくるし、そこに油断は言語道断だった。

 魔物は勢いを強め俺の剣を引っ搔き回してくる。


「そりゃ!……な!」


 また大ぶりの右が来たので、先程のように避けて脇腹を斬りつけると、再生した脇腹は鱗のようなモノに覆われていて剣が弾かれた。

 予想もしてなかった反撃のされ方で、後ろによろける俺を魔物は待ってましたと言わんばかりに頭を掴み、そのまま俺は地面に叩きつけられた。


「グゲゲゲ!」


 一瞬の視界の明滅のあと、魔物の口に魔力が溜まって行っているのがわかった。


 あの酸?のゲロを喰らったら、たとえ再生能力に進化していても死ぬ!

 ここまで来て負けてたまるか!


「ぐ、おらあ!」


 魔物が口を開けた瞬間に俺は半ば賭けでそこに剣を突き刺そうとしたが、その直前にそれに気づいた魔物が片手で俺を横にぶん投げた。


「うぉ!?」


 でたらめな力で投げられた俺は、空中で錐揉み回転しながら体勢を立て直し、まだ壁に激突していないうちに、地面に剣を突き立て減速して着地した。


「ふぅ、ふぅ……」


 強いっ……アイツみたいな馬鹿力はないが、コイツは瞬発力や騙し討ちとかを使ってくるから厄介だな……あとはあの酸だが、あれは避け易いからそこまで気にしなくて良無いな。


 両者決め手のないままただ傷が増え時間だけが過ぎていくが、流石に体力の限界が近い……魔物もきっとそうだろう、さっきみたいな動きのキレがなくなってきたな……だが、そろそろ決着をつけないときっと俺が先にやられるだろうな。


「グゲ!!」


 やはり最後も魔物から仕掛けてきた。


「ふぅっ!はぁ!」


「ゲゲ!ガア!」


 マズい、腕が上がらねぇ!もう限界だ……これ以上剣を振れねぇ!!


「グゲ!……グガァ!?」


「ん!チャンス!……オラ!!」


 ずっと様子を見て動かない俺にしびれを切らした魔物が、先に攻撃を仕掛けようとして前に全身した時、丁度そこにさっきできた酸の穴がありそこに躓いて魔物がよろけた。

 そのチャンスを逃すまいと、俺はその首に刃を通し切り切断した。

 そのまま魔物と俺は前に倒れたが、最終的に勝ったのは俺だった、酷い泥試合ではあったが勝利は勝利だ。

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