手紙
拝啓 ゆきちゃんへ
このような手紙を渡すことになってしまって、本当に心苦しいです。せっかく会えたのに正体を明かさず、君の思い出話もただ肯定するだけになってしまいました。
でも、嬉しかったです。ゆきちゃんが俺の事を覚えてくれていて。赤の他人だと思っていた人に話くらい、大事な記憶として残ってくれていて。
もし『なんであの時、明くんって分からなかったんだろう』などと思っているのなら、気に病むことはありません。俺も初めは、ゆきちゃんがゆきちゃんだという確証を持つことは出来なかったから。
本当はもっともっと話したいこともあったし、ゆきちゃんと一緒にタモダの街を、故郷を巡りたかったのですが、仕事の都合上、なかなかそうすることも出来ず……無念です。
それと、急に消えてしまって、ごめんなさい。言えない事情があったのです。それは今でも言うことは出来ません。ごめんなさい。
でも、俺はちゃんと生きてます。今は仕事もあって忙しく、上手く時間も作れない毎日だけど、いつかまた、きっとゆきちゃんに会いに行きます。髪も整えて、髭もそって、あの時のような顔で、ゆきちゃんに気づいてもらえるようにします。
そして、もし、俺のこの決意を信じてくれるのなら、もう1つお願いがあります。
タモダ駅より前の駅で降りてください。どれだけ前でも、どれだけ遠くでもいいです。そして、必ず、電車以外のものでタモダに帰ってください。理由は明かせません。でも、信じてください。
何年かかっても、必ず会いに行くから、だから、信じてください。
今日はありがとう。
あなたのことを愛しています。
明
夜汽車 大城時雨 @okishigure
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