第19話 聖騎士の無双
「任せろ」
最前線の下級魔獣とは違う。
明らかに格の違う、暴れ狂う森を突破する魔物が現れる。
それは一瞥した瞬間に負けを確信してしまうほどの強靭な肉体をもっており、結局森の中への避難を成功させた彼女たちも逃げる他ない。
それがまだまだたくさん控えていることに、恐怖と焦りを感じる。
あんな奴ら、誰がどうして勝てるのか。
「大丈夫かい?」
そんな疑問に答えるかのように、魔物の態勢が崩れ落ちた音が。
安心感を聞く者に与える声と共に、彼女たちを絶望させていた魔物が切り裂かれる。
何が起こったのか? 問う間もなく彼女らは前線から外されており、森の奥、更なる安全圏に連れてこられたことを遅れて理解する。
「怪我してるみたいだね。今治すよ」
おそらく今の変化を産み出した張本人。
彼は安全圏まで連れてきた後、それまでに負った怪我のケアをし始める。
挫いた足に手をかざすと、緑色の光が怪我しな部位を包み込んだ。
優しい光に当てられ、だんだんと痛みと腫れがひきはじめる。
なんと安心感のある人間に助けられたのだろうか。
絶望から反転、彼女たちは自分たちの幸運に心から感謝した。ついでにイケメン。
こんなもの。彼の正体はおそらく勇者。
そんなもの、白馬の王子さまよりも憧れるシチュエーションである。
しかし、そんなことよりも彼に伝えなければいけないことがある。
「勇者さま……ですよね?」
「うん。まあそう呼ばれているよ」
「相手は、魔力を吸収してくるらしいのですが……もし賢者さまにあれらの相手を任せているのであれば、不安なのですが」
ゴブリンが言っていたこと。
敵がそんな能力をもっているのならば、勇者さまにも加勢してほしいのも事実。
助けられた身が言えることではないのは、重々承知なのだが。
「ああ。それは……心配いらないと思うよ。それにぼくは、最低限の敵しか倒すなって言われてるんだ」
その心配は杞憂だと、何故か気まずそうに答える。
それがなぜなのか、その答えが偶然のタイミングで森の中に轟く。
「あっはっはははは。一太刀何体いけるなかあ!?」
どう考えてもイカれてる、心底愉快で楽しそうな声。
それが彼の言葉を詰まらせた理由であることはなんとなく分かる。
「ルィーズには、今では心強い仲間がいる。それにぼくから言わしてもらえば相性は最高だよ」
「最……高?」
そういうと、アベラルドは意味深に笑った。
***
舞台は変わってナタリアにもたれている俺。
敵陣に突っ込もうとしている彼女は剣の姿である俺を大きく振りかぶると、力強い踏み込みを見せ。
「一太刀何体いけるかなあ!?」
イカれた台詞を叫ぶ。
その声に魔獣や魔物の視線が一気に彼女に集まる。そして__。
瞬間、目にもとまらぬ美しい剣の軌跡が、彼らの急所を的確になぞる。
速すぎる斬撃は仮定すら吹き飛ばし、それを見たいのであれば残された結果から仮定を導きだす他ない。
魔物や魔獣の大量の死体。その結果から、彼女の剣が暴れた仮定を。
「九十体か……もう少しの大軍勢だったらもっといけたかな」
そしてその結果を数え、ナタリアは不満を口から漏らす。
一太刀九十体。彼女からするともう少しいけたような気がするらしい。その数字だけでかなり規格外なのだが。
「ナタリア~!! モタモタしてるとやっちゃうよー」
と、そんなナタリアに空から声を掛けたのはアサエルだ。
彼女は天使専用武器である光の弓矢を構えると、真上に発射。
それは上空で分裂し、矢の雨となって魔王軍を襲う。手の届かない上空から広範囲攻撃をしてくるだけでかなり厄介だ。
一騎当千のナタリアと広範囲攻撃を続けるアサエル。
二人の活躍により陣形が完璧に崩れ去る。
「はっはっははは。この軍団の主はどこだぁ!?」
「よくも暴れてくれたな。私がこの軍団の主、エルトラドだ」
「良かった!! 一番美味しいものは最後にとっておくタイプでな!! 間違えて倒さなくて良かったぞ! では最後の一体になったらまた会おう!!」
「え? え?」
ナタリアの呼び掛けに名乗りを挙げたボス格。
見た目は人型。全身が真っ白に発行している魔者、といった感じだ。
両腕のかわりにうねうねとした触手が三本あり、それらがいろいろな形に変形できるようだ。
輪郭にはシュモクザメのような、両側に長方形が生えており、顔はない。
結局人間型が一番怖い、いかつい見た目の魔物や魔獣を引き連れている者がそれらよりもオーラや品格、存在感を出していることがそれらを証明していた。
しかしそんな人間型よりも怖いのは本物の人間、というかナタリアだ。
この有象無象に紛れて倒してしまうことを恐れていた、ということをナタリア伝えると、残存している魔王軍へと向かっていった。
そんなナタリアに困惑する敵のボス。
なんか、彼がかわいそうに思えてくる。ルィーズの魔力を吸収し、かつてないほどの力を手に入れたエルトラド。
自陣で暴れている彼女を見て、その力を使えると思っていたのに、いざ接敵して見れば彼女の口から出てきたのは滅茶苦茶な侮辱。
敵に心配されたことなど今までに経験などあるはずもなく、成すすべなくやられていく自分の軍も相まって怒りはマックスだろう。
ああ。でも、一番かわいそうなのは俺ね。
だってここ最近ずっと、ナタリアに剣として振られ続け、雑に落ちに使われているのだから。
ああ。今回も吐きそう。
異世界チートヒロイン ~最強の仲間たちと異世界で無双します~ 悠遠奏音 @SASAyomu5788
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