魔王軍襲来編
第18話 魔王軍の襲来
「__走って!!」
「ごめん……足、くじいちゃった」
「なんでもいいから!! 背中に乗って!!!」
二人の旅人の女性。
探索を終え、王都に帰る途中に遭遇したのは、進軍してくる魔王軍だ。
どれほどの数か分からない。
ゴブリンやゴーレム、スライムなどの初級魔獣から後ろにはもっと大物が迫ってきている気配を感じる。
生半可な物とは思えないその軍勢。
そんなものに出くわした二人は自分たちの不幸を呪いながら必死に走った。
一人が怪我をし、若干の諦めを見せる。
見捨てきれないもう一人は必死に声を荒げながら、背中にのせてゴールを提示した。
「もう少しでログボナス領(ルィーズの姓)に入る。だから……あと少しだから」
「……入ったらすぐに助かるのかな?」
二人の希望。
視線の先にあるのは安全圏と呼ばれているあの森。あそこにさえ、あそこにさえたどり着ければと考えてはいるのだが、その瞬間に助かるということがあり得るのだろうか。
そんな不安も背負いながら、それでも必死に走った。
「着いた……ってえ?」
そうして森に入った瞬間、彼女らを追っていたゴブリンたちが暴れる木々によって倒された。
呆気にとられる二人。
しかしその衝撃から立ち直るとその光景に息をつき、自分たちが生き残ったことを確信した。
よかった。本当に。
「お前等本当に助かったと思っているのか?」
森の攻撃が届かない安全圏から、不意にゴブリンが話しかけてくる。
ここはもう安全。そこに間違いはないと思っていたのだが__。
「我々の主人は魔力吸収。ここの主とは、相性最悪だと思わんか?」
そのゴブリンはルィーズとの相性差をそこに宣言した。
***
「……魔王軍です」
「本当か?」
ちょうどアベラルドがいるときに来たのはまあなんというか、敵もついていない。
ルィーズだけで成り立っていたこの防衛機関。
そこにナタリアやアベラルドが加わってしまっては、突破など不可能だろう。
というか突破された時点で人類の存続の道は絶たれてしまう。
そのくらいの布陣だからこそ、緊張感などない。
「アベラルドは旅人の救出を。私たちはその間に作戦会議でもしますか」
「なに? 旅人がいるのか? それならばすぐに向かう」
「私の分もとっといてくれよ?」
「え? ああ。最低限の討伐数にしとくよ」
さすがのイケメン力と勇者力。
困っている人間がいると分かった瞬間に緊張感を持ち、その場に駆けつけることを即決する。
それに水を差すようにナタリアが注意事項を述べるが、それすら彼は快く受け入れた。
「じゃあ行ってくるよ」
と、要った瞬間窓を開け、大気を震わせながらその場所へと向かっていった。
そして彼が居なくなると、ルィーズはいるのかもわからない作戦会議を始める。
「数は?」
「おそらくは千いくかいかないか程度だと思います。相手のボス格はまあまあ強そうですけど、期待しすぎないことをおすすめします」
「ああ。分かった!! 他には?」
「一応相手は魔力吸収してきているので、最大まで吸収させちゃっていいですかね。たぶんそっちの方が強くなると思うんですけど……」
「私たちの魔力を奪う? まるで将棋だな」
「やめとけ。まじで」
ルィーズが教える敵の情報に、アサエルは危険でよくわからない例えを用いる。
それに反応しつつ、ナタリアの方を見ると目を輝かせてルィーズの問いへの答えを放った。
「もちろん、最大にしてくれ」
「まあ、以上ですかね。楽しんできてください」
ルィーズはにこにこと手を振りながらそんなナタリアにもう話すことはないと伝える。
おおよそアトラクションなどに乗っている人間を見送る感じで言っているのだが、実際のところは戦場に向かうということ。
そのギャップに怯えつつ、目を輝かせているナタリアは待ちきれないと言わんばかりに構えている。
「ちょっと私もいこっかな。運動がてら」
「フム。私も足手纏いがいたほうがやる気もでるし、まあいいぞ」
「足手纏い言うな!!」
と、楽しみすぎてハスハスと鼻息を荒くしているナタリアについていくことをアサエルが宣言。
ナタリアも賛成し、誰もとめる人間はいないのだが__。
「へ? お前って戦えるの?」
俺はシンプルな疑問を口にだす。
一応ナタリアからは足手纏いって言われてるし、彼女は本当に戦えるのだろうか。
まあ俺より強いことは確実なのだが。というか彼女から戦闘に向かうことを宣言するということ事態ちょっと以外だった。
「舐めないでよ? 天使って結構強いのよ?」
「じゃあいくぞ!! シュウジ。初の実戦だな」
「え? あ。そうなるか……普通に考えたら」
危機感知不足。
魔王軍が攻めてきたとして、彼女が俺を使わないわけがない。
それに気付かず話しに入っていたのだが、彼女に言われて始めて自分のおかれている状況に気付く。そして__。
「いくぞ!! シュウジ」
「もう、やだ」
ピクニック気分のナタリアにより、俺は初めての戦場へと駆り立てられた。
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