悪魔本転生

秋風のシャア

第1話

人々は魔女を恐れ、妬み、軽蔑し、悪しきものとして扱い、国々で魔女の追放が行われた。

住処を追われた魔女達は各地へと散らばる。東西南北に至るまで広範囲に。

だが、全ての人が魔女を見捨てた訳ではなかった。魔女と一緒に暮らす者達も現れた。

人は彼等を特別な敬称を込めてこう呼んだ

-ウィルフ。



「もう、大丈夫だからね。」

私にそう言ってくれる人が目の前にいた。

、その言葉は業火の中、お母さんが私に残してくれた言葉。特別な言葉。

特別であるがゆえに頭に張り付いて一種の呪いのように

「大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫…」

何度も何度も脳内で反芻される。

「あ、あ、あ、あーー」

鮮やかな青い髪をした少女はベッドの上で泣き出した。


まるで晴天の空のように美しい蒼く瞳には

今もまだ激しく燃える業火が映っていた。


とある森の奥深く、鬱蒼とした僻地に家を建てて暮らす者達がいた。

彼等こそ少女の同胞

―魔女である。

彼等はお得意の魔法を使いそれはそれは立派な集落を建てた。コンクリ造りの家、木で作った家、レンガ造りの家、はたまた物語ででてくるようなお菓子の家まで多種多様にな家がのき並ぶ。森の中であることが嘘のように築かれた街で私は育った。

私は人を知らない、ここで育ったから。

別にみたいとも思わない。怖いもの達だと習ったから。それに私はここが好きだったから。


「お母さん、これ読んで」

私の住む家はコンクリ造りの一軒家だった。

よく家ではお母さんが本を読んでくれた。

優しい声で、その声を聞くととても落ち着いたから毎日のように読んでもらっていた。


実は明日、祭りが開かれる。

ヒヨルフ祭と呼ばれるもので、会私の家と向こう側の家を挟んだ中央道で行われるもので

明日の朝から晩まで行われる。



「楽しみだね」

「うん」

「どこからいこうか。」

「私ね。フワフワモチモチのあれ食べたいの」


「カリシス。」

「そう、それ。あれもっちもちで美味しかった。」


私にははいなかったけどお母さんと行くのがとてもとても楽しみだった。


けれど、真夜中のことだった。


「魔女はおらんか。はよー、でてこんか。でてこんとダメぞー。ほらーはよーせんか」


と心の無い口調が真夜中の森に響き渡る。

今の今まではこんなことはなかった。

「人だ。人が来た。」

「早く起きろ」


魔女達はその言葉を聞いて急ぎ飛び上がる。


疥癬かいせん殿そう強く申しては出るものも出ますまい。」

家のまどから私達はその様子を眺めた。街といっても外部から訪問してくる人なんてものはなく灯りも夜は消していた。もし、外部からくる、それも夜となればそれは敵として認識するのが正しい。魔女達は注視してその様子を窓から覗いた。安易に明かりをつけたら逆にこちらが見つかる。見つかるといっても、家があるのだから見つかったも同然なのだが、つけるよりはましだ。


それに暗くて見えづらいといっても、相手は松明を持っているのでおおよそは視肉することができた。甲冑を身に纏うヒゲのはやした老人のような男、おそらく疥癬という者といかにも文官のような正装をした若い男がいた。


男は表情を変えず高笑いをする。

「ハッハ良いではないか。良いではないかせんよ。」

「いけませんよ。もっと寄り添った言い方をせねば」

「ほう、ではおんしがいうといい」

「はい、喜んで引受させていただきます。

さぁ、王自らの命令ですよ。おめでとうございます。魔女を根絶やしにせよとのことです。さぁ、大人しく出てきてください。優しく調理して差し上げますゆえ」

優しい声だったがすぐ悟る。

こいつの方がやばいやつだ。や、どっちもやばいと魔女達は思う。


「おんしもわるよのー」

「光栄にございます」


身を隠すにはうってつけの森の筈だったのに見つかった。なぜ、なのとそんな暇を与えてはくれない。


周囲から火の手が舞い始めたのだ。

そして、火はたちまち

住処を燃やし、直ぐ側まで火の手が迫る。

「 子供達を逃がそう。」

「あぁ、そうだな」


大人達はテレパシーで意志疎通をし、子供達を逃がすのに全力を尽くす。家を自ら壊し、それを煙幕として利用するもの。飛び下りるもの。


そして、お母さんのように我が子を抱っこし外まで運ぶもの。

「お母ちゃん、お母ちゃん。」


「花麗ちゃんはこれを付けて走って。」

母は優しい眼差しでペンダントが付いた黄色く光るネックレスを我が子にかける。

光り輝くそれによって母親の青い瞳とロングヘアの顔がしっかりと見える。優しそうな顔だ。


「でも、これお母さんの。一緒に行こうよ

ねぇ。」

駄々をこねる我が子を愛しそうに見つめ

「早くおいき。きっと、このお守りが守ってくれるから。いざというときはペンダントを開けて飲むだよ。」

と諭す。

「やだよ。やっぱり一緒に行こうよ。」

「大丈夫。私の子だもん。二ーって笑って」

「…」

「花麗ちゃん、大好きだぞ」

「私も」

愛の言葉を娘の肩に手を添えて言った後、母の顔が少しずつ変わっていく。

少しずつ黒く、頭からは角がそして固そうな体へと変貌していく。

それが、合図だということは分かっていた。

魔女はいざというとき異形の姿を表す。それは戦う時。


「さぁ、行って。」

母はそう言うと娘の体を回し背を押した。

小さな身体ではどうやっても抗うことができなかった。

目的地もなく、不安が押し寄せる中、整備されていない道を走る。

魔女の大人達は子供達が離れたのをみると火の手の方へと向きを変えつつ

姿を変えた。その黒い姿は闇夜に混じる。

「花麗ちゃん…」

そこにいない我が子を心配し、母は後ろを見る。

異形となっても優しい表情は変わらない。


その頃、花麗は森の中をひたすらに走っていた。


息を切らし、足をもたつかせながら精一杯走る。


見えるのはうっすらと枝木が直前で見えるのみ。視界と道の悪さ、恐怖心、焦燥感などが幼子の体には重くのしかかる。


次第に体が重く、足を上げるのがきつくなり、気持ちが悪くなっていく。

視界がぼやけていく。


口を両手で押さ吐くのを我慢し、足を引っ張りながら力を振り絞った。けれども、もう歩くのもやっとになってしまう。


「 グルじいぃ」と最後の言葉を放つと

倒れ込んでしまった。

しかし、天は見放してはいなかった。

「この子は…」

光るペンダントを見つけた人が少女を見つけたのだった。


あったかい。


温もりが少女を現在へと引き戻す。


ハグをされていることに気がついた。そのまま辺を見渡す。

真向かいには

本棚には沢山の本があった。

料理、コンピューター、そろばんととにかく沢山。


横にはトロフィーやら写真やらが飾られていた。

整理された小綺麗な部屋だった。 


「ちょっと待ってて」


その人は私の様子に気付くと部屋を出ていった。



「はい、どうぞ」

少し困惑したが、

優しく飲み物を渡してくれる女の人を見て悲しみが込み上げてきて泣いてしまった。


女の人は少女を抱きしめ、よしよしと背中を擦る。

温もりに触れ、安心したのだろうか再び目を閉じた。


起きると女の人もベッドで寝ていた。けれど、すぐに目を覚ます。

「おはよ。よく寝れた」

「はい」

少女はすぐ体を起こし女の人に話しかける。

「ここはどこです。」


「ここは、私の家だよ。私はね司瑠星蓮見というものです。

「森の中で倒れてるんだもん。心配だったよ。」


「なんで、なんで、助けてくれたのですか。

私、魔女ですよ。人間様ですよね。」

歳に似合わず礼儀正しい少女に関心したのか

「 えー、関係ないよ。でも、どうしたの。お名前は出身は」

と頭を撫でながら笑顔で聞いた。


少女は少し驚いた表情をしていたが、ことの経緯を話した。全部細かく。

「うう…大変だったね。」

少女の境遇が彼女の胸を貫き、感動の涙を浮かべる。

「助けてくれて…ありがとうございます。」

「いいって、いいって」


そして、予想だにしない言葉を返す。

「私の家にこない。」

「え…」


「ほら、寝る所もないんだし。せっかくだから」

「でも、ご迷惑に絶対になります。」

それに私はお母さんを探したかった。

内心ではやな予感しかしなかったがとにかく外に出たかった。

「家はね、息子と二人暮らしでちょうど娘を欲しいと思っとったんよなー」

と独り言の様に呟く。

「でも…私、お母さんを探したくて」

「絶対にやめといた方がいいと思うよ。あの辺りは今、危険だから。人間でもね。」

「何か、あったのですか。」


「王様が魔女狩りを始めたの」

私は泣き虫だ。その言葉を聞いた途端、もう泣き始めてしまったのだから。


「だから、私が守りたいの。」


私に選択肢などなかった。

「お、願いします。」

言葉を詰まらせながらそう言った。


「うん、宜しくね。花麗ちゃん」


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悪魔本転生 秋風のシャア @akikazenosyah

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