妖怪屋始めました

ふもと かかし

妖怪屋始めました

 佐知子はスマホと睨めっこしていた。画面には飾り気の無い文字のみで構成されたページが表示されている。

 佐知子の気を引いたのは『解決しなかった問題の相談に乗ります』の文言だった。しかし、ページの頭に“妖怪屋”と表示されている為に、どうしても躊躇してしまう。

 相談依頼の文章は打ち込み済みなのだが、送信ボタンを押せずに彼此30分は経過していた。



『ピロリン』

 メールの着信をパソコンが知らせてくれる。昼間だというのにカーテンを閉めて惰眠を貪っている男は、智和と言う名のプータローだ。

「何々」

『拝啓、妖怪屋様。私はチサという名の25歳女性です。この度、貴社のサイトを拝見致しまして、是非とも相談したい事が有ります。私が至らない為に相談料がどの程度なのか見つける事が出来ませんでしたので、お教え頂けるでしょうか。因みに相談内容は付き纏いについてです。それでは宜しくお願いします。敬具』


 智和は口からポロリと、棒状のココア味のラムネ菓子を取り落とした。

「真面目かよ!」

 パソコンに向かい突っ込んだ。



『チャラララ〜ン』

 メール受信の音楽が流れる。

「返事が来たわ!」

『チカ様の質問の回答です。相談料はお気持ち次第で結構です。問題が解決した時に決めて下さい。口座振込でも直接事務所に持ち込んでも構いません。こちらからの質問です。付き纏いされる心当たりは有りますか』

 質問が返って来て相談が始まったと、スマホを持つ手に力が入る。

「いえ有りません。送信っと」

『相手の姿を見ましたか』

 直ぐに返信がくる。

「いいえ、見てないです。なので、警察も取り合ってくれません」

『誰かと一緒だと、現れないですよね』

 その通りなので『はい』と返す。

『それは、妖怪べとべとさんです。今度現れたら道の端によって、『べとべとさん、お先にお越し』と言えば解決です』



『チャラララ〜ン』

「うわっ!」

 突然、携帯の音楽が流れ、飛び起きる。

「あら先生ごめんなさい。マナーモードにしてませんでした」

「ああ佐知子君か。そう言えば、初めての依頼の夢を見ていたよ」

 佐和子がコーヒーを入れてくれたので、智和は一口飲んだ。

「それって私じゃないですか。結局は、詐欺紛いでしたけどね」

「解決しない問題の多くは思い込みだから、妖怪を当て嵌めれば解決する」

 問題が解決して、謝礼を事務所へと持って来た佐和子が、助手として居着いているのは、最大の謎だが。


 そんな感じに、妖怪屋の日常は過ぎて行く。

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妖怪屋始めました ふもと かかし @humoto_kakashi

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