第3話 街へ
「へぇ……思ったよりは酷くないな」
俺はリーゼを連れ、城下町を視察していた。
確かに、石畳の道はところどころひび割れ、家々は古びて、人々の顔色もよくはない。
それでも、焼け跡になっているはずの教会は無事だし、広場では商売をしている人もいる。
どうやら、まだ最悪の事態には陥っていないらしい。
「あ、あの……アルフレッド様、何か気になることがございましたでしょうか?」
まだ挽回可能な段階であることに、ほっと息をついていると、リーゼが恐る恐る話しかけてきた。
不機嫌だと思われてしまっただろうか?
「ああいや、少しな。街の様子は……まあ、アレだが。取り敢えず、見て回ろう」
俺はそう言ってリーゼに笑いかけた。
すると、リーゼは目を見開いて驚いたように固まる。アルフレッドがまっとうに笑うのは珍しいのだろう。
「あ、はい……」
リーゼは、まだ少し戸惑っている様子だったが、言われた通りに、俺の後ろをついてきた。
俺は街を歩きながら、周囲の様子を注意深く観察した。
店の看板、路地裏の落書き、道端で交わされる人々の会話……。
すべてがプレイヤーとしては得ることのできなかった情報だ。
「ん?」
そうやってしばらく歩いていると、酒場の看板が目に入った。
人が集まるので、情報収集といえばの定番の場所である。
あくまで俺の勝手なイメージだが……
「ちょっと酒場によるぞ」
「え? 酒場ですか?」
リーゼは明らかに困惑した表情を浮かべる。……振り回しっぱなしで申し訳なくなるな。
そもそも、貴族の身分でこういった店構えの汚い酒場に出入りする奴はそうそういないだろう。
ましてや、アルフレッドともなればなおさらだ。
「ああ。ちょっと話を聞きたい」
そう言って酒場に入ると、店内は薄暗く、酒と汗の匂いが混ざった独特の空気が漂っていた。
男たちが大声で話したり、笑ったり、歌ったりしている。
想像するファンタジー酒場そのものといった雰囲気だ。
俺たちの入店に気づいた客たちは、一瞬で静まり返り、そして一斉にこちらを振り返った。
彼らの視線は、好奇心、警戒心、そして――憎悪に満ちていた。
「……なんの御用でございましょう。アルフレッド様」
酒場の店主と思しき男が、カウンター越しに、低い声でそう言った。
取り繕ってこそいるが、その声には明確な敵意が込められていた。
「ああ、店主さん。少し話を聞きたいんだが」
俺はにこやかに笑いかけ、カウンター席に座った。
リーゼは、不安そうに俺の後ろに立った。
「……話、とは?」
店主は敵意をさらに強め、そう尋ねてくる。
えー……笑顔は逆効果か。まだ慣れないな。
「この街のことだ。何か困りごとはないか?」
俺はそう言って、店主の目を見据えた。
店主は俺の問いかけに、歯を食いしばりながら俯き、拳をギュッと握り込む。
だが、すぐに俺に視線を戻すと、重々しく口を開いた。
「……アルフレッド様。あなたが一番よく知っているでしょう? まさかご存知ないということは──」
「知らない。だから聞いている」
俺は店主の言葉を遮り、静かにそう言った。
店主は目を見開いて驚き、言葉に詰まる。
その隙に、俺は畳み掛けるように言葉を続けた。
「俺は今までのアルフレッドとは違う。詳しくは言わないが、変わるきっかけがあった。
だから、この街の……この領地のことをもっと知りたい。だから、教えてほしい」
俺は真剣な眼差しで店主を見つめた後に頭を下げる。
店主は、俺の言葉に戸惑い、言葉に詰まる。当然だ。アルフレッドが頭を下げるなど異常自体だろうからな
しばらくの沈黙の後、店主は小さく息を吐き出し、語り始めた。
「……この街は、アルフレッド様の悪政によって、疲弊しております。不当に高い税金、理不尽な徴収、そして密輸品の横行……多くの人々が路頭に迷っております」
店主は、苦々しい表情でそう言った。俺は静かに頷き、続きを促す。
「さらに、アルフレッド様は、気に入らない者がいれば、理由もなく投獄したり、拷問にかけたり……。街の人々は、アルフレッド様を恐れて、誰も逆らうことができません」
「なるほど……」
大体は俺も知っている通りの、アルフレッドの悪行の数々。
実害を受けている人から聞くと、さすがに胸糞悪いな……って、一応俺がやったんだけど。
ただ、店主さんの発言の中から一つ、でかい収穫があった。
彼は確かに、誰も逆らうことができないと言った。
ということは、反乱イベントは、まだ始まっていないということだ。
時系列がわからないが、おそらくは準備段階か、もしくはそれよりも前だろう。
よし! 今ならまだ間に合うぞ!
アイツの隠れ家は知っている。会いに行こう。
「だいたい分かった、ありがとう。それと、水を差して悪かったな、引き続き楽しんでくれ」
「え? もう、お帰りですか?」
店主は驚いたように目を見開いた。
もう一悶着あると思っていたのか、気が変わって処罰を受けるとでも思っていたんだろうな……やはり信用はない。
ここまで来ると、もう笑えてくるな。
「ああ。今日はいい話が聞けた。今度は客として来るよ」
俺は軽く手を上げて、酒場を後にした。
リーゼは、慌てて俺の後ろをついてくる。
「あの、アルフレッド様……なぜ急に」
「あの店主さんの話と、客たちの様子で俺の知りたいことは分かったし……やることが決まったからな」
「や、やる事、ですか?」
「ああ」
会いに行こう。
元騎士団長兼反乱軍リーダー。ゲオルグ・シュナイダーに。
鬱ゲー世界に悪役転生した過激派ハピエン厨 傘重革 @kasaegawa
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