強欲の女帝

人間とは根本的に違う者。

『妖怪』だけが棲まう世界なら人間の世界と『妖怪』だけの世界とは全く異なる文化や認識があることだろう。

だが、文明の力においては理由は解らないものの同じ様な建造物や乗り物は多数存在する。

それは人間から見れば良く見るであろう都市部の光景。

高層ビルが建ち並び、車と人が忙しなく行き交う明かりの消えない首都圏の光景だ。

同じ光景はあるものの、全てが同じではない。

やはり世界が違うのだ。

行き交うのは獣人や見た目からして人外の者。

コンクリートで舗装された道ではなく、砂が剝き出しの地面を走る車とバイクの横を平然と同じ『妖怪』を奴隷にした馬車や宅配サービスを受け持つ『妖怪』が往来する。

高層ビル群は権力と文明力を現すだけの象徴とされているただのモニュメントであり、ビルの前には平然と簡素で薄汚れたテント造りの露店が至る所に目に入る。

昼夜はあるが、時間帯に縛られる者はない。

空を見上げればペガサスたちやドラゴンたちが舞っている。

硬貨という物はあるが、大半の者は物々交換を優先する。

人間からしたら有り得ない光景だろうがそれが俺たちの日常だった。


『妖怪』の世界の某大陸の中央には巨大な城下を構え、強大な軍事力と高度な文明を持つ大国がある。

その国を囲むように海に面した四方の国があり、海の向こうには……海の向こうに何があるかは誰も知らない。

必要な物が最低限あれば良い。

この世界の『妖怪』は余計な好奇心や探究心より、警戒心が強く狡猾な生物だ。

しかし、中には例外も居る。

富、権力、名声、全てを欲する欲深い者。

そんな“彼女”が創りあげた国は四方にある他国へと見せつけるかのように巨大な石造りの西洋風の城とその城下を国の文明力を見せつける為にビル群で埋め尽くし、欲深さで争いを繰り返し、領土を拡げる事数百年。

ハリボテに満ちた煌びやかな城下町の郊外は同じ国の領土でありながら、すぐに巨大なジャングルへと姿を変える。

巨大な森林の中央に巨大な建造物が忽然と現れるのである。


──弱肉強食。


『妖怪』である俺たちはそれで他人の価値を決める。

大国を治める“彼女”が張りぼての地を広め、国の領土を広めるべく戦を続け、現状では一番の理想郷に仕立てたのが大陸の中央にある大国だったのだ。

そんな大国を四方の国が脅威に感じているのは言わずもがなであろう。

故に“彼女”は国の軍事力を重視した。

自らの国に棲むより強い『妖怪』を集め精練した部隊と、それよりも強い『妖怪』を更に厳選し守護神として自らの国を護らせた。

その軍事力に“彼女”の一言ですぐに造られる文明力の象徴群。

森を切り開き、その場に棲み着く者を排除してまで“彼女”は貪欲に何もかもを手に入れようとしていた。

それを俺は今でも異常であると思う反面、絶対的強者であるのは“彼女”だと本能的に教えられていた気がしてならない。

結局、俺も弱肉強食の世界の中に生きていた1人であったのだと。


そして、その“彼女”と俺が出会った時から既に崩落の未来は始まっていたのだと。

大国を治める“彼女”は強欲過ぎた。

それでも“彼女”は最期まで、あらゆる犠牲で成りたった国を愛し続ける事だろう。

“彼女”にとっての国民は蟻を眺めるのと同然で、行った全ての行為に罪悪感など1つも持ち合わせていないのだから。


そんな大国の郊外。

ジャングルの奥地にひっそりとある集落。

貧しいとも豊とも言えはしないが、食べるのにも生活にも困らない。

『妖怪』の家には様々な種類がある。

石造り、木製、洞窟、ツリーハウス、そもそも家を必要としない者。

種族は違えど1つの地区に集まれば自然と小さな集落が出来、其処が生活の拠点になる。

俺が持つ最も古い記憶は此の小さな村で成獣になるまでの数十年。

忌み嫌われ、集落の外れで隠れる様に腐った大木の洞の中、集落で採れた食料や入荷してきた物資を盗み成長した天涯孤独の少年時代の記憶であった。

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