第57話「発動する刻印」


「アル、シア……………、」


マグジールが俺を見て青褪めた顔で呟くが、それを無視して歩み寄ると、マグジールと同じ様な顔をしていたヴォルフラムが俺を見てハッと何かを思い出したような表情になり、声を荒げる。


「アルシア・ラグド。これは何のま―――――、」

「ライトニング・パルサー。」


真似だ、と言い切る前に、指先から圧縮された雷の光線を右肩目掛け撃ち込む。


「ひ!?あ、あがあぁぁああああっ!!」


右肩を貫かれ、しわがれた断末魔が謁見の間全体に響くが、続けて急所を外して数発撃ち込み、その身体を貫くとヴォルフラムは悲鳴を更に強くし、玉座を転げ落ちた。


「何の真似もクソもねえよ。言ったはずだ。あいつらに手を出せば、お前もそれに与する者も全員滅ぼすとな。今がその時だ。」

「き、貴様……、ふ、ファルゼア軍の1人でっ、ありながら………!」

「ファルゼア軍?コレの事か?」


袖に付いた国章を袖の生地ごと無理矢理引き千切ってヴォルフラムの目の前に投げつけると奴は目を見開いてそれを見た後、恐る恐る俺に視線を戻した。


「無理矢理軍に引き込んだお前に俺は一度も忠誠を誓った事など無いし、一度もファルゼア軍の人間として動いた事など無い。ましてや……、」


収納魔法からゲデを抜き放ち、ヴォルフラム達に歩み寄ると、全員逃げる様に後ずさる。


「俺を友と呼んで、信じてくれたロキを殺した貴様らを全員殺せるなら、ファルゼアに住む全ての人間を敵にしたって構わない。」


爪が食い込み、血が出る程強く握り込んだゲデを構えようとした時、ヴォルフラムが先に動いた。


「………忌々しき神々に、このヴォルフラム・ゴーランが呪われた刻印を持って命じる!!」

「……………ほう。」


瞬間、ヴォルフラムの周囲の空間が強く歪み、膨大な量の神力がその右手に集中する。

ヴォルフラムは自身に起きている現象に驚いた後、不愉快な笑みを浮かべ、更に叫ぶ。


「我が敵、アルシア・ラグドを殺―――――、!」

「神喰ミノ炎牙。」


ヴォルフラムが言い切る前に俺がそう呟くと、黒く染まった巨大な炎の牙がヴォルフラムの前に現れ、集まっていた神力ごと不吉な光を放っていたその右手を手首諸共噛み砕く。

黒い炎の牙は神の力をヴォルフラムの右手ごと灰にした後、ゆらりと陽炎を残して消失した。


「………っ!っ、ぐぁぎゃあああぁいいいいぃぃぃっ!?!!」


ヴォルフラムは消失した右手を意味が分からないとばかりにぽかんと見た後、思い出したかのように先程とは比べ物にならない悲鳴を上げた。


「その程度は読んでたよ。使う勇気があった事には驚いたがな。さて、これ以上茶番に付き合うつもりも無い。スルトの顔を立てるつもりで見逃してやったが、懲りずに殺そうと企んでるなら話は別だ。全員ここで沈める。二度と浮かばん様にな。」

「ひ、ぃ…………!?」


ヴォルフラムから、その周りにいるマグジール達に視線を移すと、まるで想像していなかったとばかりに全員、短い悲鳴を上げる。

余程命が惜しかったのか……、ムスタが震えながら、懇願する様に口を開いた。


「う、嘘……だよな。俺達、同じギルドの出だろ?仲間じゃないか……。」

「だからどうした?何もしないなら見逃してやるのも考えたが、少しは自分達の愚かさを呪う事だ。」


「ねえ?嘘でしょ、アルシア。殺さないでよ……。私は、貴方の事が大事で………、」

「……………。」

「……アルシア?」


不安気に、それでも縋りつこうとする視線と笑みを向けるリディアに、俺は明確に拒絶の意を向けながら、吐き捨てる。


「本当に前々から思ってたんだがな……。お前、何がしたいんだ?」

「………え?」


俺がこう言うと想像してなかったのか、リディアは大きく目を見開いて不思議そうにしていたが、構わず思っていた事を言い放つ。


「俺の為だとか何だとか、下らん妄想を押し付けて、仲間を傷付けやがった挙げ句、友人まで殺したお前に俺は何をしろってんだ?言ってる事が滅茶苦茶なんだよ。」

「違う……、だって!私………!?」

「これで最後だ。もう一つ言ってやる。ロキを殺して恍惚とした表情で笑ってたクソ野郎なんか、誰が何と言おうと近くに置きたくねえんだよ。」

「あ、ああ………っ、あぁああああああっ!!!」


意識してか無意識なのか……、どちらなのかは知らないが、あの場でロキの遺体を笑いながら見ていたコイツを許す事は断じて無い。

明確な拒絶の言葉を重ねて突き付けると、リディアは顔を覆い、叫ぶように泣き崩れたが、構わずゲデを握り込んだまま両手を目の前に突き出す。


「ブラッディノヴァ。」


掌から流れ出た血を触媒にして、赤い闇が部屋中の影を取り込んで目の前に集まり、金属同士が擦れ合うような音を立てながら巨大な魔力球を生みだす。


「地獄の奥底で、永遠に償いきれない自らの罪過に囚われ続けろ。」

「まっ、待て!待ってくれ、誤解だ!俺はお前を殺そうなんて………、冗談に決まってるだろ?!」

「くどい!耳障りだ、そこの老いぼれ諸々消え失せろ!!」


苦し紛れの、救いようのない嘘を叫ぶエドワードの言葉を切り捨て、ブラッディノヴァを放とうとした時だった。


「止まれアルシア。今、彼を殺されては私が困る。」

「………スルトの次は、アンタか。ニコライ。」


展開したブラッディノヴァを解除し、20人程の兵を引き連れ、何かを持ってこの場に現れたニコライに視線を向けながら、俺は深い溜め息を漏らした。

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災い起こしのアルシア〜終焉へのプレリュード〜 時計屋 @tubaki-k01

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