第56話「死神の到来」
アルシアが王都に戻って大分経った後の事。
謁見の間にてヴォルフラムと、命からがら逃げ延びてきたマグジール達は焦りを隠そうともせず、対策を考えていた。
対策とは勿論、いつ暴動を起こしかねない国民をどうするかについてと、いずれ此処に来るであろうアルシアをどう対処するかについてである。
ヴォルフラムは初め、マグジール達がアルシアを仕留める事が出来ず引き上げてきた事に激怒したものの、彼らの怯えようと、その傷を見てそれをすぐに引っ込め、言いしれぬ恐怖を覚えた。
断言するが、アルシアは間違いなく此処に来る。
そして、如何なる手を用いてでも自分を殺しに来るだろうと。
自身の願いが叶うまであと一歩というところで、どう足掻いても回避する事の出来ない災厄に、ヴォルフラムは怒りと焦り、恐怖で震えた。
何か、何でもいい……、アルシアを必ず殺す手は無いか。
右の手の甲に刻まれた神の刻印を見た後、ヴォルフラムは静かに首を降る。
別に神なんてものを信じている訳でも、この忌々しい刻印を得た時に、確かに見たあの光景を信じる訳でもない。
ただ、もしこの刻印が本物でアルシアを殺せと命じて本当に叶った場合、代償として自分が死ぬ事は間違いないだろう。
そのリスクを考えれば、使う訳にはいかない。
更に頭を悩ませた時、片腕を失ったエドワードが青い顔で進言した。
彼は一時、生死の境を彷徨っていたが、リディアが空になるまで魔力を使って回復魔法を使った結果、一命を取り留めたのだ。
「陛下、軍を動かしましょう。奴を殺すには、大規模の軍勢で攻め続け、疲弊したところを狙うしかありません……っ。」
その顔には、つい先日までアルシアを馬鹿にしていた時の余裕も何も無い。
それは何もエドワードだけではない。
マグジール達も同様だった。
結果だけを見ても、マグジール達は手も足も出ず、惨敗した。
それも、アルシアは明らかに手を抜いて戦っていたというのにだ。
アーティファクトを使わせる事はおろか、彼が炎神から継承したという力の欠片も使わせる事も出来ず、一方的に蹂躙され尽くした。
あそこで炎神・スルトが来てアルシアを止めていなければ、自分達は間違いなく殺されていただろう。
もう一度戦う?
それを考えただけで、4人の全身に恐怖が駆け巡る。
無理だ。あの時はたまたま助かっただけ。もう一度戦えば、今度こそ生きて帰れないだろう。
マグジールはアルシアと戦う事を恐れ、エドワードに続いて口を開く。
「私も同意見です。正直なところ、それですら討ち取れるか怪しい。それでも、我々が生き残る為にはそれしかありません!」
「アイツは……人間じゃない。人の形をした……っ!」
自身の眼前に迫り、覆しようの無い力で一方的な破壊を齎した少年との戦いが嫌でも蘇り、ムスタは車椅子に座りながらガタガタと震えた。
異様な程怯えるムスタを見て、軍を動かす事を躊躇っていたヴォルフラムが眉間に皺を寄せ、少し考えた後、決断する。
「やむを得ん、か……。ファルゼア軍の全戦力を集め、アルシア・ラグドを――――、」
そう言いかけた時だった。
「その必要は無えよ。いや、遅かった、というべきか。」
彼らが一番聞きたくないであろう声が響き、続いて謁見の間の重く、大きな扉が粉砕される。
扉のあった場所が煙に包まれる中、コツ、コツと靴の音が鳴り響き、全員が青褪めた。
再び、少年の声が響く。
「粛清の時だ、ヴォルフラム。今度はお前が玉座をその血で染める番だ。」
煙を掻き分け、瞳に金色の鋸刃の輪を浮かび上がらせ、
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