第55話「大規模侵攻当日」


グレイブヤードを出て翌日の夕方。

住民の了承を得て王都周辺の村や町に王都への避難勧告や龍脈を利用しての結界を張った後、俺はヴェルンドの村に来ていた。

フェンリル達、もしくはスルトが伝えたのか……、ドワーフ達、それとエルフと人魚達はいつ大規模侵攻が来てもいい様にと既に構えていた。

村を訪れていた冒険者達も、ドワーフと一緒になって魔道具や武器の整備を行っている。

そして、俺の姿を確認したガウフがゴドーを連れてやってきた。


「おう、アルシア。来てくれたのか!」

「ああ。って言っても、すぐに王都に戻るけどな。心配だから一応見に来たんだ。」

「ありがとうな。取り敢えず、出来ることは全部やってるよ。女子どもも、これから地下の隠し部屋に避難してもらう予定だ。」

「残ったのは、ドワーフ族と一部のエルフ、人魚達か……。」


俺が呟くのを聞いて、ガウフが頷く。


「ああ。ただまあ、悪い事ばかりじゃねえ。同盟連中に回す予定だった分の武器も此処で使えるんだ。生き残る可能性は上がる。」

「何か、出来ることはあるか?」

「平気だよ。フレスベルグ様が結界を張ってくださってる。おめえは、おめえのやらなきゃいけない事をやれ。」

「………そうか。分かった、サンキューな。」


それだけ言って、俺はガウフとゴドーに背を向けるが、袖を引っ張られて振り返ると、幼いゴドーが不安そうに俺を見ていた。

俺は淡く微笑んで、その頭に手を乗せる。


「心配すんなよ。フレスが結界を張ってるって事はよっぽどの事が起きなきゃ壊されない。それに、ドワーフ族だって滅茶苦茶強いからな。だから……、」

「アルシアは………」

「ん?」

「アルシアは、しなないよな?」

「………ああ。」


子どもながらの不安げな不安そうな表情に、どう答えるか少し迷い、それだけ返したあと、ゴドーの頭を撫でて、今度こそ背を向け歩きだす。

ここに来るまで、何度か言われた事だ。


「アルシア!」


今度はガウフが呼び止める。

俺は振り向かず、立ち止まってそのままの状態で来る言葉を待った。


「死ぬんじゃねえぞ……っ。」


まるで子に伝えるような、願うような言葉に俺は肩越しに振り返って微笑んで返し、また歩き出した。

一瞬だけ見たガウフとゴドーの顔に、少しだけ心が痛む。

彼らは恐らく気付いているのだろう。

俺が生きて帰る気など、欠片も無いことを。




◆◆◆


その後、俺は途中の村の宿で泊まり、王都までの道のりの村にも事情を話して結界を張っていき、王都に辿り着いたのは更に翌日。タイムリミットまであと数時間というところだった。

結界を張らせてくれた村の住民が困惑しながらも、それでも落ち着いて話を聞いてくれ、協力してくれたのは本当に感謝しかない。

王都の入り口ではアルバートが待機していた。

自前の騎士団が戦闘準備をして、尚且つ冒険者達やギルド職員とも話してる辺り、情報は伝わっているのだろう。

俺はアルバートに駆け寄りながら声を掛ける。


「アルバート。その様子じゃあ、もう………、」

「ああ、知っている。フレスベルグ殿が使い魔で知らせてくれてな。今、ギルドや冒険者達にも協力を仰いでいる。」

「ヴォルフラムの軍は?」



やはりと言うべきか、その問いにアルバートは顔を顰め、静かに首を横に振り、その後に城への入り口に目をやった。

そこでは、大勢の人間が押し寄せて怒号を上げていた。


「昨日、負傷したマグジール達が王都に帰還した。かなりの深手を負っていてな。普段は彼らを毛嫌う王都の住民がさすがに心配して駆け寄ったところ、『魔王ロキを討ち倒したあと、裏切り者であるアルシアに襲撃をされ、この有様だ。』と答えたらしい。」

「……なるほど、それで?」

「その住民と、後から集まってきた者が全員、烈火の如く激怒してマグジール達に更に詰め寄ろうとしたそうだ。彼らはそのまま城に逃げ込み、それからずっとヴォルフラムと纏めて糾弾されている、といった状況だ。確認するが、本当にお前が?」

「事実だ。あいつらがロキを殺したのもな。」

「では………、」

「あと数時間だ。」


アルバートが息を呑む音が聞こえたが、俺は収納魔法から結界用の特殊な楔を取り出しながら続ける。


「時間が無い。アルバート、すまんが何人か貸してくれ。コレを今から伝える箇所に刺していってほしいんだ。」

「結界か?王都の結界では………、」

「それじゃあ間違いなく足りない。王都周辺の村にも結界を張ってるが、規模や出てくる魔族の強さによっては下手すれば一瞬で剥がされる。コイツは少し特殊な作りにしてある。時間と使える物が無くてな、コレしか用意出来なかった。」

「分かった、手配しよう。後はあるか?」

「まだ避難民も来ると思うから、迎え入れてやってほしい。あと、何とか城の入り口にいる住民を退かして中からヴォルフラムの兵も引っ張り出してくれ。俺は結界の再構築で動けないし、たぶん、アルバートが説得すれば住民達も納得してくれる。」

「了解した。すまないが、結界の再構築は頼んだぞ。」

「任せろ。それが終わったら、俺は城に入る。。」


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