エピローグ
――無事、ダンジョンは攻略できた。
鼻腔をスープ特有の匂いが抜けていく。それだけでただでさえ空腹であったというのに、強調される。唾液が増してきて、今にも口に入れたい衝動が強くなる。とびきりのご褒美をお預けにされている気分だった。
「おまたせしました」
目の前に置かれたとんこつラーメンのチャーシュー増しに、バミィは目を輝かせた。
ヘアピンとゴムを取り出して、髪が落ちないように止める。隣ではフェクトが手を合わせていた。
「いっただきま〜す!」
レンゲでスープをすくい、軽く飲むととんこつの旨さが口いっぱいに広がった。疲れ切った体に染み渡るようで最高だった。麺を箸で取って、勢いよくすする。
「んまーっ!」
「……おいしそうに食べますね」
「そりゃもちろん!」
フェクトは微笑みながらラーメンセットを食べ始める。からあげ、チャーハン、しょうゆラーメンのセットだ。
からあげをつまんで一口食べる。
「うまっ」
「え、本当?」
「一個食べます?」
「いいの! ありがとう」
三つあるからあげを一つだけもらう。衣も中もジューシーで鳥肉の美味さを凝縮したような味だった。からあげだけでやっていけるんじゃないだろうか。
「はぁ、やっぱりいいなぁ」
「ダンジョン後のご飯っておいしいですよね」
「うーん……そうだね!」
Bランクダンジョンはひとりだと疲れ切ってしまって、すがるように食べるのは言わないことにした。
「しかし強かったですね。あのボス」
「B+……もしかしたらAランクのモンスターだったかもしれないね。Aランクじゃないからわからないけど」
チャーシューを食べる。空腹は最高のスパイスとはよく言ったもので何もかもが至福だった。
「派手でかっこよかったなぁ」
「その感想が出るの凄いね……」
ブレスを回し蹴りで切り抜けたり、本当に人間離れしている。シーカーの中でもずば抜けて身体能力が高いだろう。
一体何をすればそんな体になるのか。
「今度は木じゃないドラゴン倒したいですね」
「ドラゴンかぁ。ボクは戦ったことないなぁ」
ラーメンをすする。バミィ自身は強くなりたいという願望は薄い。ないわけではないが、フェクトに比べれば、という感じだ。
格上でも戸惑わずに向かっていける度胸も、そして己の力に驕らない精神も、フェクトは持っている。
それは羨ましいし、同時に遠くに行ってしまうんだろうな、と思ってしまう。
眩しいな、と思わされる。
きっとそのうち、バミィよりもランクは上になるだろう。
「どうしました? なんかついてます?」
自分を指さしながらフェクトが問いかけてくる。
「ううん、何でもないよ。ごちになります、フェクトさん」
バミィは笑った。
◯
あっという間だったと思う。
あれからホテルでもう一拍だけして、電車に乗って帰ってきた。バミィの最寄り駅までたどり着いて、改札口を通る。
「ここまで来てくれてありがとう。もう大丈夫だよ」
「家の近くまで送りましょうか? ほら荷物も結構ありますし」
バミィは首を振る。フェクトとしてもちゃんとした友人関係でもなんでもないので、家がわかってしまうようなことはあまり良くない。純粋に疲れも溜まっているだろうから、という純粋な心配ではあるのだが、シーカーの身体能力はシーカーでない者と比べれば高いゆえに、大丈夫ではあるだろう。
「あのさ。フェクトさんは、あだ名とか呼ばれたら嫌なタイプ?」
もじもじしながらバミィが問いかけてくる。質問の意図がよくわからなかったが、別に呼ばれ方を気にするタイプではない。
「変じゃなければ気にしませんよ」
「じゃあさ」
耳元で、吐息がかかる。
「フェクトくん、って呼んで良い?」
秘密の話のように、囁かれる。少し恥ずかしそうに、そして不安そうにこちらを見る。
「呼びやすいならそれで、大丈夫です」
「……やった」
小さな声だが、しっかり聞こえていたし、可愛らしくてどきっとした。
「Bランクダンジョンの攻略動画は協会に送って、許可が降りたらサイトにアップしちゃうね」
「はい。お任せします」
「それじゃ」
背を向けて、歩き出す。そんなバミィの背中をぼうっと見る。
ちらりとこちらに振り返ってから小さく手を振られた。フェクトは手を振り返す。
姿が見えなくなってから改札口を通って電車に乗るべくホームに向かう。
ピロン、とスマホの通知が来る。
『今回は本当にありがとう! また会おうね!』
ウサギマークの絵文字と共にそんなDMが来ていた。
◯
地下駅の構内でバミィは両手を広げる。
「はーいみなさん〜! おはこんちばん〜! バミィだよー! みんな、この間はBランクダンジョンの攻略動画視聴と拡散ありがとう! バズって100万再生行きましたブイ」
虚空に浮かんだスマートフォンにピースをするバミィ。
「アンノウン……ヒュドラリンドウはAランクモンスターだったらしくて。いやぁ本当、ボクよく生きてたなって。コラボってくれたフェクトくんに感謝だね」
メガネのデバイスにコメントが流れていく。
「今回はフェクトいないのか」「配信だと出ない?」
「フェクトくんは配信者じゃないのでおいそれと一緒にはいられないのです!」
人差し指を立てながら、バミィは笑みを浮かべる。
「ボクだけのほうがコメント拾えるし……それともフェクトくんと会話したりしてたほうが良い?」
甘い声でバミィが問いかけるとコメントが殺到する。
「コメント拾ってほしいです!」「バミィちゃん最高!」「マジ天使」
腰に手を当てて、ふふんとバミィは胸を張る。
「ではでは、今回もCランクでございますので一緒に攻略していきましょう! 困ったら助け舟よろしくねー!」
拳を振り上げて、バミィはダンジョンを進み始めた。
◯
準備を運動を済ませて、気合いを入れる。
ダンジョン。その存在がいつから出現するようになったのかわからない。ただそれは貴重な資源の宝庫であり、そして同時に、人類の脅威として出現したもの。
何かの建物、洞窟……あらゆるものの出入り口でソレは発生する。見分けるのは入り口が透明で青い膜で覆われることと、下から燃えない青い炎が揺らめくことで、判断がつく。
『
「さて、初のちゃんとしたBランクダンジョンだ。気合入れていくぜ」
拳を突き合わせて、フェクトは笑みを浮かべる。
視線の先は
ダンジョン探索の資格を得て、それを生業とするもの。
――それを世間では
『外れスキル「エフェクト」で行くダンジョン攻略! 〜え? 俺が助けたの、配信者だったんですか!?〜』
了
あとがき
ここまで読んでくださりありがとうございました。
少しでも面白かったらフォローまたは下にあるレビューのところで☆をひとつだけでもぽちっと押して頂けるとモチベに繋がるのでよろしくお願いします
細かいあとがきを近況ノートに残そうと思いますので、この作品がもっと知りたい方は確認していただけると嬉しいです
改めましてここまで読んでいただき、ありがとうございました!
外れスキル「エフェクト」で行くダンジョン攻略! 〜え? 俺が助けたの、配信者だったんですか!?〜 月待 紫雲 @norm_shiun
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます