必殺技(雰囲気)

 互いに首を破壊する。


 互いに四本ずつ相手にし、そして根本を目指す。尻尾による攻撃を凌ぎ、バミィは少しずつエンチャントしたハンマーで削り取る。しばらくすると倒れていた右端の首が持ち上がってバミィを攻撃し始めた。再生したようだが、動きがずっと遅い。根本を破壊されたことで、再生に時間がかかっているのだろう。


 何をエネルギー源としてどういう仕組みで再生しているかわからないが、とにかく不死身ではないとわかれば、こちらとしても遠く見えていたゴールも近づいてくる。


 ネイルプロージョンも数があるわけではない。切り札になる大きいサイズのものは一本しかない。通常のものも残数が五だ。慎重に使わなければならない。


 フェクトは右端の首への攻撃を集中させる。再生が遅れているのだから、破壊すればそれだけ動きは弱くなるだろう。


 右端の首の再生に力を注いでいるからか、他の首の再生も若干遅くなっている。


 これならいける。


 そして。


「キシャアアア!」


 体から風が吹き出し、押し出される。バミィは体を軽くして最大限まで距離を取る。フェクトも抵抗せずに、距離を空けた。


「よろしくね!」

「任されました!」


 バミィはフェクトを信じて走り出す。弧を描くように、アンノウンに近づき始めた。







 フェクトは深く息を吸う。


 スキルは成長する。使えば使うほど、できることが増える。エフェクトの強さに追いつくように鍛え上げ、エフェクトと共に強くなったといっても過言ではない。


 フェクト自身の、エフェクトの、真骨頂を、今ここで見せてやる。


 大技のブレスは予備動作がある。きっと動き出したバミィにブレスを吐きたいだろう。先ほど右端の首に大ダメージを与えたのもバミィで、動き出して接近しようとしているのもバミィだ。


 フェクトはあまり決定打は与えられていない。


 だが、嫌でも釘付けにしてやる。


「はぁああ……」


 赤い、赤いオーラがフェクトを包む。全身に、周りに、天に。


 あのモンスターにも負けず劣らずの巨大な赤いエフェクトを発生させる。まるで炎の竜巻のように、轟々と音を響かせ、地鳴りのようだった。


 見るからにヤバそうな、そんなエフェクトだ。


 そう必殺技が出るような。


 巨大なエフェクトで大技が来ると勘違いした相手がこちらをターゲットにせざるを得なくしたのだ。


 エフェクトと理解させるほどエフェクトを使っていない。相手はこちらの手の内なぞ知らない。であれば、勘違いをしてもらえる。


 そして膨大なエフェクトを己に収束させ、全身を赤くする。これでパワーアップ……した気分にしたし、相手もまずいと思っているはずだ。

 ジェット機が飛び立つ前のような音を響かせながら姿勢を低くする。


  九本の首は完全にこちらを警戒して向けられている。右端の首は本調子ではないため動きは遅い上に、火力も出せないだろう。


 つまり威力は落ちる。


 さっき耐えられたのだから、今も耐えられる。


 ブレスが放たれる。


 フェクトは走り出し、閃光の中へ回し蹴りを放った。周り続けながら蹴りを出し続け、そしてブレスを割いていく。


「うぉおおおお!」


 永遠と思える光の中で、フェクトは叫ぶ。

 スキルを否定せず、スキルのかっこよさに釣り合おうと努力し、そして今、フェクトは巨大なモンスターに打ち勝つのだ。


 ブレスが、晴れる。







 花弁を首の中間部分。そこに首が収束していた。背中側から、バミィは飛び込む。ポーチから今までの数倍の大きさ――指で挟んで持てるようなものではなく握りしめながらでなければ持てないサイズのネイルプロージョンを出す。


 それを収束点に最重量化して叩きつける。先の尖った部分だけ、刺さった。


 着地し、両手でハンマーを持つ。バッテリーの残量を使い切る気持ちで、全身に力を込める。


 そしてブレスを撃っている間だけハンマーにスキルをかけ続ける。パワードスーツでも持ちきれない重さに近づいた瞬間に、のけぞってから思い切り振り下ろした。そして振り下ろす瞬間に最重量化させる。


「喰らえええええ!」


 体を飛び上がらせ、ハンマーを叩きつけ、ネイルプロージョンを押し込む。


 そして叩いた衝撃で、そのままハンマーを軽量化。自分の体を上空へ飛ばす。


 背後で巨大な爆発を金属音の悲鳴が響いた。







 ブレスが途切れたときに地面を踏みつけて飛び上がる。大爆発で首が全て倒れ、花弁が半壊する中、胴体の中に心臓のように脈打つ器官があるのが、フェクトに見えた。


 見るからに弱点だ。


 半壊した体が再生しようと表面を木で覆い始めようとしている。あの器官を潰せば倒せるかもしれない。


 崩れ落ちる最中の首を掴み、そして器官に向けてパチンコ玉のように突撃する。


「これで」


 拳を握りしめる。そこには炎のエフェクト。


 なぜなら――かっこいいからだ。


「終わりだぁアア!」


 そして、脈動する器官を貫いた。







 振り返る。バミィの攻撃でおそらく弱点がむき出しになったのだろう。首を足場にしたのか、フェクトがある部分に向けて突撃する。


 炎のエフェクトをまとったそれは流星のようだった。


「これで、終わりだぁアア!」


 突撃し、轟音が響く。


 半壊した花弁が枯れ、そして首がボロボロと崩れ――光の粒子となっていく。


 ――勝った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る