活路

 バミィが先に戦闘したおかげで敵の動きがわかった。九つの首を持つモンスター。先に自分が突っ込んでいたら対処は難しかっただろう。


 視界には一つの首しか入らない。視界外から二本、三本と次々襲ってくる。ブラッドムーンウルフは狼だったのでいくらかフェクトでも予想して対処ができたが、全く未知のモンスターの動きは予想が付きづらい。Cランクまでのダンジョンでこんなデカくて複雑な攻撃をする化け物は出ない。


 バミィは何の焦りもなさそうに対処していたが、動きも見ずに突っ込んでいたら戸惑いまみれでやりづらさを感じていたことだろう。離れた場所で観察したからこそ、ある程度対処できる。


 ゲームの攻略動画を見てからボス戦に挑むような感覚に近い。少なくとも初見殺しに捕まる確率がぐっと減った。なんなら攻略法まで見つけられれば良かったのだがあんなに再生されるとフェクトにはさっぱりどうすればいいのかわからなかった。


 横から首が襲いかかっているのを殴って怯ませる。殴っている間に呑み込もうとする別の首が落ちてくる。それをバッグステップや横へ避ければ、ブレスを吐かれる……ので、本体に向けて突っ込む。


 そうすると尻尾が飛んでくる。回し蹴りで彈き、肘で叩き上げ、殴り飛ばす。


 それでも殺到する尻尾にさばき切れないと判断する。両腕を立てて防御姿勢を取り、尻尾の攻撃を受け流す。力でゴリ押さずに流せ、教わったばかりだ。身を捻って受け流す。


 今度は薙ぎ払いのブレスが来る。


 尻尾攻撃の間に首がブレスの準備をしていたのだ。


 フェクトは稲妻のエフェクトと共に大きく後ろに跳び、そして走ってブレスから逃げる。最初の攻撃のような大技ではないが、数本のビームが襲ってくる。


 避けれる。避けれるが、周辺の温度が下がる。あまりブレスは吐かせたくない。


 避けきるとまた首の攻撃が始まる。


 バミィも相手の警戒対象になっているのか、二、三本がブレスを定期的に吐いている。バミィであれば避けられるだろうが、遠距離攻撃やアイテムのないフェクトでは牽制しづらい。


 一分も戦っていないはずだが、非常に長く感じる。


 猛攻が途切れないからだろう。


 打撃が通りづらいというのは、ジュモクドラゴンと同じなのだろう。フェクトの攻撃だと首を破壊するのに時間がかかる。十分構えてひとつひとつ潰したいがそうもいかない。再生するのなら間に合わなくほど砕き続けたいが他の首はそれを許さない。


 負けはしない。体の丈夫さに自信があるし体力にも自信がある。


「グギャアア!」


 金属音と共に相手が叫ぶ。急な突風で、フェクトの体が押し出された。


 一息に近づくには難しい距離まで押し出され、最初に出してきたブレスと同じ動きが入る。


「はぁ」


 全身に力を入れる。エフェクトを風のオーラにし、左足を軸にする。


 昔からフェクトは困ったらこれに頼るという技がある。


 身を回転させ、コマのようにその場で回り続ける。


 ズバリ、回ればなんとかなるヒーローがやっていた


「えっちょ! フェクトさん!」

「大丈夫です!」


 大技が来る。


 回転しながらブレスを受ける。高速回転による風で小さな竜巻が起こり、それでブレスを防ぎ続ける。


「オラァアア!」


 寒い。寒いが気合でどうにかなる。心頭滅却すれば火もまた涼し。なれば逆もまた然り。


 やっぱり寒い。


 ブレスを凌ぎきり、気合を入れ直す。


「おわっ」


 足元が凍っているので滑った。拳を下に叩きつけて凍っている部分を壊し、復帰する。そして構えた。


 お互い、睨み合うような形になる。


 そこに横からバミィが突っ込んだ。相手の懐に潜り込み、そして一本の首の根元あたりに釘を刺し、ハンマーを叩きつける。


 そして爆発した。


 金属音のような悲鳴が響き、一番右端の首が倒れる。


「ひぃいい!」


 スイッチが入ったかのようにバミィに集中攻撃が降り注ぐ。それをバミィは急いで走って避けた。そしてフェクトのところまで駆け寄る。


 ブレスが来るかと構えるが、ブレスが来ない。


 右端の首も倒れたままである。


「フェクトさん! もう一回大技凌げる?」

「やります!」


 バミィは相手を指差す。


「あいつ、大技を撃つときは無防備だし、ちょっとの間だけブレス撃てなくなるっぽい。フェクトさん目標にしてたから簡単に潜り込めた」

「右のやつが再生しないのはなんでです」

「雑草刈るのと同じ! 根本あたり行くほど攻撃が激しくなってるから根本を攻撃されたらまずいんだと思う! ドラゴンみたいな見た目だから騙されてたけどあいつも植物だから生長点的な部分があるんだ!」


 生長点というのは植物の茎や根にある細胞分裂が活発になっている部分だ。木だとどうだか知らないが、そもそも外見上木と思っているだけで根と草の扱いなのかもしれない。


「草刈りやればいいってことですね!」

「しかもあいつの尻尾の一番太いところがダンジョンの壁にくっついてるから離れれば近づいてこれないし……もう一回大技を誘ってフェクトさんかボクがターゲットされれば、もうひとりは自由になるから。首の収束してる部分を破壊すれば勝てるかも」

「結構太そうですけどいけますかね」

「ボクはとっておきのビッグサイズネイルプロージョンがあるから大丈夫! フェクトさんもたぶん時間があればいけるよね!」


 頷く。


「じゃ、大技を誘ってどちらかが囮、どっちかが攻撃ね」

「囮やります! もしかしたら攻撃もできそうなので」

「マジ!? よしじゃあそうしよう。二人で追い詰めてやれば大技出すだろうから、フェクトさんが右側。ボクが左側担当で行こう!」


 拳に手を合わせて、フェクトはエフェクトを強める。


「おう!」


 俄然やる気が出てきた。

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