「蘇生」の魔法がある世界だからこそ、命の尊さが輝く

最終話(完結)まで読了してのレビューです。

この物語の世界には「竜骸迷宮」という迷宮があります。
その最奥に眠る秘宝を求め、王宮から認められた「探索者」たちは、数百年もの間、迷宮に挑み続けていました。
そんな探索者のひとり、エルスウェンの物語です。

作者は『Wizardry』という3DダンジョンRPGのファンで、このゲームをリスペクトして書かれたそうです。
しかし、残念ながら、私はWizardryを知りません。作者の前作『涙の世界 光と闇の冒険者たち』( https://kakuyomu.jp/works/16818093080728417055 )が、面白かったので読み始めたのですが、ついていけるだろうか……と、少々、不安になりながら、読み始めました。

読み始めてまもなく、この世界、そしてWizardryの中では、「蘇生」の魔法があることを知りました。
「え……。死んでも生き返ることができるの? それって、ムチャクチャやっても大丈夫、ってことにならない?」と、正直なところ、呆然としました。
確かにゲームなら、「教会にお金を積んで生き返る」というシステムになっているものがあるのは知っています。しかし、それを小説でやるのは……?
どんな物語になるのだろうか……と、いまひとつ不安を抱えながら、それでも、前作の人間ドラマが好きでしたので、作者の手腕を信じて読み進めました。

すると、「蘇生は必ず成功するわけではない」「若いほど、成功の確率が高い」「過去に蘇生をした回数が少ないほど、成功の確率が高い」という仕組みになっていることが分かりました。
それはつまり、仲間が死んでしまって、教会に駆け込んだとき、「大丈夫、きっと生き返る」と信じていたのに、その気持ちを裏切るように死んでしまうことがある、ということです。
期待してしまうぶん、より残酷な結果が待っていることがあるのだ――と、気づいたとき、「蘇生」に対する私の偏見は消えました。
よく考えたら、病気や怪我と同じです。「若いほど治りやすい」「大病を患ったり、大怪我を負ってしまうと、もとのような健康な体には戻らない」。現実の世界と変わらない、むしろ、よりシビアな世界です。

この物語の探索者たちは、いつ死ぬとも分からない、常に死と隣り合わせの迷宮に挑みます。
主人公エルスウェンは、迷宮で亡くなった父の遺品を見つけるために。他の仲間たちにも、それぞれの理由があります。

探索者たちは、みんな腕自慢でもあります。ですから、てっきり、ライバル同士なのだと思っていました。
けれど、それは大きな間違いでした。
危険な迷宮に挑むためには、協力が必要です。同じパーティの仲間は勿論、迷宮で会った他のパーティの人たちとも、協力できるようでなければ生き残れません。

「探索者」という名前の、ひとつの生き方があります。――これが、この物語の世界の「前提」です。

そして、冒頭からいきなり、前代未聞の「黒燿の剣士」が現れます。
エルスウェンの知り合いのパーティがあっという間にやられ、助けに入ったエルスウェンたちも……。
黒燿の剣士を倒さないことには、迷宮探索の継続は不可能、更には、王都にまで危険が及ぶ。
探索者たちは協力して、この剣士の討伐に挑むのですが、無敵としか思えない強さで……。

困難に立ち向かう探索者たちの人間ドラマが、じわじわと心に響き、「蘇生」のある世界の「命」の重さが、この物語の核になっているのではないかと思えてきます。
気づくと、この物語に夢中になっています。

実は、この物語は「序章」。
作者によると、「エピソード0」のようなものだそうです。
読み終えてみれば、確かにその通りなのですが、だからといって、決して「おまけエピソード」などではありません。
私はリアルタイムで物語を追い、エルスウェンや仲間たちと共に、一喜一憂しました。
黒燿の剣士との戦いは、本当に胸が熱くなりました。
読み終えたとき、そして、この物語が序章であることを思い出したとき、今すぐにも、次の探索へと旅立ちたくなりました。
仲間たちとの人間ドラマが好きな方や、困難な冒険ほど燃える方に。ぜひ。オススメです。

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