二階

僕は坂本雪音さんと仲がいい。

坂本さんは狐目に背中まで伸びた黒髪の女子だ。

ポーカーフェイスも相まって少し近寄り難くもある。

僕は高野小春さんとも仲がいい。

茶色い癖っ毛に大きなメガネ、タレ目。

いつもぽやっとしており、人当たりもいい。

別にこの二人が僕を取り合ってて〜なんて話じゃない。

なぜかここの二人は仲が悪いのだ。

系統が合わないのはわかるが、なんであんなに仲が悪いのかというとよくわからない。

今日は僕とこの二人の三人で集まることになってしまった。

なんでみんな休むんだよ…。

半ば引きずるように足を動かす。

行きたく…ないなあ…。

めんどくさいなぁ…。

部長がこれでどうするんだ、というのは僕が1番思っているんだが…

部室が見えてきた。

うう…足が重い…

チリン。

ん?

あ、

僕のリュックに括り付けられていた鈴が落ちている。

なんで落ちちゃったんだろ、不思議だな…

僕は慌てて括り付ける。

「ねー、雪音。」

……高野さん?

間延びした高野さんの声。

この二人の会話は聞いたことがなかった。

僕は好奇心に負けて耳を澄ませる。

「どうして、虫は火に群がるんだと思う?」

え、なぞなぞ?

坂本さんは、少ししてから口を開いた。

「危ないって思ってても、逃れられない…。それだけの魅力があるんじゃないの?」

「なるほどね。」

高野さんのタイピングが聞こえる。

小説のアイデアでも探していたんだろうか。

「私の小春といっしょ。」

「ちょっ…。」

……ん?

雲行きが怪しい。

僕は思わず眉を顰める。

「そろそろ部長来ちゃうから。」

「小春〜…。」

「ほーら、ちゃんと座って。」

「小春と会うの久しぶりなんだもん。夏休み入ったからさ。」

「夏休み入ったのって先一昨日の話でしょ?明後日は遊ぶし。」

「そう…だけど…。」

不貞腐れたような声がした。

いつもの坂本さんからは考えられない声だ。

てか、どんだけ高野さんに会いたいんだ???

そして、高野さん冷たくない!?

……。

えーっと…。

は…はは…。

……帰りたい!!!

「ねー、小春。」

「…ん…?」

「ぎゅーして。」

「……。」

……。

「聞いてる?」

「雪音。大好きだよ。」

「こ、こはる〜〜〜!!」

「ほら、戻って。」

「ん。」

「そろそろ部長も困ってると思うよ。」

……ん?

僕の頭に?が浮かんだところで

ガラガラガラガラ…

「「ドッキリ大成功〜!!」」

戸を開けた高木さんとド派手な『ドッキリ大成功』の看板を持った坂本さん。

「…なんだよ、もう…。」

僕、絶対顔真っ赤なんですけど?

恥ずかし…。

「へへへっ。せっかくだから驚かしてやろ〜って思って。」

「すみません。部長。こいつが聞かないものですから。」

ニヤニヤする高野さんといつも通りのポーカーフェイスな坂本さん。

いつも通りの雰囲気がとてつもなく嬉しい。

「なんだよ、お前ら仲良いんだな。知らなかったよ。」

「そりゃあ…まあ…」

僕はまた言葉を失う。

ほおを赤くする高野さん。

そっぽをむく坂本さん。

どうやら僕は火に飛び込んでしまったようだ。

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飛んで火に入る夏の虫 菜野りん @RinSaino

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