飛んで火に入る夏の虫
菜野りん
一階
じめっとしている。
それはもう、すごく。
暑苦しい湿気が僕の足取りにまとわりついていた。
歩きたくない、と思ってしまった。
駅から歩いて10分。
セミすらも鳴けないような暑さの中を歩いてきたんだ。
校門を潜り抜けた今、引き返せはしない。
もはや引き返す方が酷だ。
緑の葉をつける桜の木の下はいくらか涼しい……
訳でもないか。
思わず生ぬるいため息が漏れた。
なんとか校舎に入る。
ひんやりとして人気がなかった。
ロッカーを開ける音が大袈裟に響く。
靴をロッカーに押し込んだ。
帰る頃には不気味な臭いを漂わせ始めるだろうな。
それはもう……。
僕は顔を顰めた。
靴を履き替えて、もた、もたと足を動かす。
メガネを避けて額の汗を拭う。
拭いきれなかった汗が目に染みた。
僕、なんで学校にきたんだっけ…。
ああ、そうだ…部活…。
今日は三人しかいない文芸部だ。
一人いないだけで盛り上がりにかける。
まあ、僕がいて何になるってこともないだろうけど。
階段を登る足が上がりきらなかったらしい。
つま先がカツンッと音を立てて、僕を引き止める。
また、ため息が出た。
こんなにも部活が億劫なのは暑いだけじゃないけれど。
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