第11話 都落ち
5月1日 16:39 深山中・高等学校 2階廊下
「なぁ、何処逃げる?」
「「「考えとけー!」」」
そんなツッコミを受けながらも武装集団から逃走する。
……ホンマに何処逃げよう?
「あ、別館!」
領歌が叫ぶ。
別館、確か別館って天文台しか無かった様な。
「別館? 天文台しかあらへんよ?」
「そう、天文台!」
「天文台? 何で天文台なんよ?」
京香が私の疑問を思っている事を領歌にぶつける。
しかし、領歌は得意気な顔で――。
「ええからええから! ついて来よって!」
――そう言って、列の先頭に立つ。
後方に居る武装集団との距離は少しだけ離れていた。
廊下を1周して、別館との連絡通路へと向かう。
私以外の体力が徐々に切れて来た。
その証に、皆息が荒くなっている。
「後少しや!」
「な、何で橘花ちゃんは疲れてへんの……? 彩華も抱えとるし……」
領歌が息を切らしながら言った。
他の2人も同じ様な事を目で訴えかける。
「……何でやろね?」
何でだろう。
私にも良く分からない。
頭の中で疑問を反芻しながら別館へ。
別館に着いたら急いでエレベーターに乗り込む。
これで天文台のある最上階まで一気に向かう。
ともかく、エレベーター内は安息の時間である。
「「「「はぁ~……」」」」
全員が壁に倒れ込む。
彩華は抱っこしたまま。
彩華の体温が直に伝わって来る。
「で、どないするん? 天文台来たけど……」
京香が領歌に問いかける。
すると、領歌はニヤリと笑って話し始めた。
「前な、5組の天文部の子と一緒にな、天文台見たんよ」
「うん、ほんで?」
「そしたらな、生徒会室と同じ位隠れとる場所見つけたんよ!」
「「「「!!!」」」」
まさか天文台にそんな場所があったとは。
果たして、その場所とは如何に!
「倉庫、小惑星とかの模型が入っとる倉庫!」
「「「「成程」」」」
倉庫か、流石に倉庫までは探しに来ないだろう。
よし、倉庫に逃げ込む事にしよう!
そう思った瞬間、エレベーターが最上階に到着した。
[15階デス]
放送と共に、エレベーターの扉が開く。
天文部の部員達が不思議そうな顔でこちらを見ている。
「りょ、領歌! どないしたん?」
部員の内、1人が領歌の元へ駆け寄って来る。
成程、これがさっき話してた子か。
「宮原に追われてんの、匿って!」
「え、ええけど、何処に隠れるん?」
「ほら倉庫、あるやん倉庫!」
「あ! 倉庫、倉庫ね! OK、任せて!」
その子は大きく手招きして私達を誘導する。
天文台の一角、目を引く巨大な望遠鏡からかなり離れた所。
全く人目につかない場所に倉庫はあった。
「ココやね!」
その子が扉を開けたら、急いで倉庫の中へ。
倉庫は暗かったが、バレる可能性があるので電気は消したまま。
灯火管制は大事だからね。
「黙っててな!」
「うん、分かってる!」
そう言うと、その子は倉庫の扉を閉めた。
足音で去っていくのが分かった。
倉庫はかなり整備されており、暗いとは言え足の踏み場には困らない。
生徒会室の倉庫も綺麗にしなきゃなぁ。
「……あ、何か聞こえる!」
耳の良い香音が何かを聞き取った。
香音は扉の隙間に耳を当てて、その音の詳細を聞き取る。
「あ、宮原!」
「「「「えっ」」」」
どうやら武装集団は既に到達していた様だ。
……そう言えば、エレベーターは降りた瞬間に下がって行ってたね。
「な、何て言っとるの?」
私は香音に内容を聞く。
当然、彩華は抱えたまま。
こんなレアな瞬間、逃がして堪るか。
「私らの事聞きよるよ、あ、帰って行った」
「「ホンマ?」」
京香と領歌が香音に詰め寄る。
香音は自信に満ちた声で言った。
「ホンマホンマ! 電気は点けてもええと思うよ」
そう言うと、領歌は倉庫の電気を点けた。
倉庫が一気に明るくなる。
「……これからどないする?」
「「「どないしよっか」」」
「き、橘花ちゃん……!」
「なぁに? どしたの?」
「お、降ろして……?」
「あ、ごめんごめん」
残念。
ボーナスタイムはここでお終い。
私は泣く泣く彩華をゆっくり降ろす。
長時間彩華を抱えてたお陰か、彩華の温かみがまだ身体に残っている。
「取り敢えず、今日は帰ろか?」
今の私達に残された選択肢は帰宅一択。
正直、ココに籠ってても仕方が無いし、ソレ以外にやりようも無い。
さっさと帰ってしまおう。
……まぁ、秘策もある訳だし。
帰宅に皆満場一致で同意。
私は少し外の様子を眺めて、安全である事を確認したら扉を開けて外に出る。
エレベーターを3階まで乗って、3階からは螺旋階段で下った。
待ち伏せ防止の為だ。
「よし、居らんね!」
京香が待ち伏せが無い事を確認すると、そのまま2階へ。
その後も例の武装集団を警戒しながら送迎バスに乗り込んだ。
流石に校外で出来るはずも無く、無事に国際会館駅に辿り着く。
「駅で待ち伏せは無理よね」
香音が安堵しきった顔で話した。
にしても、深山ってあんなに治安悪かった……?
いやいや、あれが異常なだけか!
私達は地下鉄に乗り込んで、帰路に着くた。
烏丸御池で3人が東西線に乗り換えていく。
そして烏丸御池を出た直後、彩華が問いかけてきた。
「そういや、何か考えてそーな顔しよったけど」
「ん〜? 分かった〜?」
「えへへ、分かってもうた!」
彩華は笑顔で応える。
とてもとても可愛い。
それにしても、彩華が無事で良かった。
私はあの集団を断固として許さない。
七条家の伝家の宝刀を発動させるのみだ。
「何するか知りたい?」
「うん! 知りたい!」
「…………都落ちや」
私は彩華に耳打ちで伝える。
彩華は当然、その意味を理解出来なかった様で、ただ顔を歪めるだけであった。
都落ちとは、京都市で絶大な影響がある七条家にのみ許された伝家の宝刀。
その影響力を持て余す無く事使い、市内中に噂を流し、我が家が土地を持っているならば、契約終了を通告する。
まぁ、半ば強制的な没収なんだけどね。
これで対象は京都市には居られなくなり、他の所へ移り住まなければならない。
これが都落ちだ。
お父様はこれまでに十数回程発動させている。
「……都落ち?」
「そう、都落ち」
「……どゆこと?」
「まぁまぁ、後になったら分かる」
「そ、そっか……」
私は彩華に詳細を伏せた。
今話さなくても、後々に分かるから。
彩華はキョトンとした表情で私を見つめている。
とても可愛い。
「彩華は何も心配せんでええんやで、安心してな」
「う、うん」
彩華の顔は少し困惑した表情に変わった。
そんな顔もとても可愛い。
すると、彩華は何か言いたそうにモジモジしている。
しかし、何も言い出さない。
「彩華、どないしたの?」
「うぇ? う、ううん、何でも無い、何でも無いよ」
「……そっか」
これは確実に何かがある。
しかし、無理やり聞き出すのはいけない。
私はこの時、彩華が何を言おうとしたかを頭の隅で考えながらこの日を過ごした。
そして、翌日。
都落ちの効果は予想以上に早く出た。
宮原軍団は一斉に転校、及び転居したのだ。
まさかこんなに早く出るなんて、思っても見なかった。
「き、橘花ちゃん」
「んふふ、なぁに?」
「な、何したん……?」
「ふふふ、ちょっとね〜」
当然、彩華は混乱している。
他の皆も当然混乱しており、クラスの話題はその事で持ちきりだ。
そして、私は彩華にだけこのカラクリを教えた。
「しゅ、しゅごいね……、あ、って事は」
「って事は?」
「本社の土地も……?」
「勿論、没収。 株価も右肩下がりやで」
「え? そうなん?」
「ほら、見てみーや」
私はスマホで宮原商事の株価を出す。
株価は言った通り下がっており、既にストップ安となっていた。
多分、明日からも下がり続けるだろう。
本社も京都市から移転して、大阪支社が本社となった。
「す、凄い事なってんね」
「やろ? これが都落ちやで」
彩華に手を出したからこうなるんだ。
愚か者め、京都でウチを敵に回したらただじゃ置かない。
「あ、思ったんやけどさ!」
彩華が唐突に話題を変える。
はて、何が気になったのか。
「うん、どしたの?」
「何で部屋の暗証番号知ってたんやろ?」
「あ〜、それね、太秦先生が入る時の暗証番号見てたって」
「……え、そうなん?」
「うん、そうなんよ」
高2の先輩は太秦先生が部屋に入る時の手の動きを見ていた様だった。
所謂、ショルダーハッキングと言う奴だ。
古典的だが侮れない。
「そっかぁ」
「やから、番号変えたって」
「なんぼなん?」
私は彩華に耳打ちで番号を伝える。
新しい番号は9811。
これからはこの番号で入る。
「彩華」
「……ん〜?」
「彩華は何も心配せんでええからね」
「……うんっ!」
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ニ人だけの生徒会 ワンステップバス @onestepbus2199
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