1学期 5月

第10話 対宮原

 5月1日 12:43 深山中・高等学校 7階廊下 5組教室前


「宮原ってのはどれや……?」


 現在、私達は部屋荒らしの元凶たる宮原 歩美を追っている。

 まさか、高2が高1に脅されているとは思っても居なかった。


「あ! あれちゃう?」


 彩華が指差した先には1つの集団があった。

 あれが宮原軍団って奴ね。


「あ、あれか!」


 その軍団の中心に宮原と思しき人影が。

 黒髪ツインテール、私より胸は小さい、身長も然り。


「あれが宮原商事の御令嬢ね……」


 週末の間に、三島さんやメイドさん達と一緒に大量の登記簿を確認した。

 そして、遂に見つけたのだ。

 宮原商事本社の登記簿を……!


「橘花ちゃん、本社の土地持ってるんでしょ?」


「うん。 流石の宮原と言えど、京都じゃウチに逆らえなかったね」


 京都で七条の名前を知らない者は居ない。

 この京都に住む者なら誰でも名前だけは知っている。

 まぁ、肝心の姿を知ってる人はそんなに多くないけど。


「何やっけ、おじいちゃんがヤバかったんやったっけ」


「せやね。 おじい様がヤバかったらしいよ」


 昔、おじい様の代の時、宮原商事の当時の社長が交渉に来たそうな。

 流石に本社ビルの土地を自分で持ってないのはヤバいから土地頂戴って。

 その考えはもっとももだ、私だってそうするだろう。


 この時、おじい様は断固として拒否した。

 かなり強い口調でまくし立てたらしく、それ以来一切来なくなったそうな。

 因みに、お父様はおじい様の事が相当嫌いらしく、おじい様の事について口を開けば文句ばかり。

 ……私は良く知らないから分からないけれど、そんなにヤバい人だったのかな?


「流石に御令嬢はさ、私が土地持ってる事知らんやろ?」


「知らんやろね~」


「でもこんな事に土地はなぁ……」


 別に彩華が傷つけられた訳でも無い。

 ただ単に部屋が荒らされただけ。


「彩華、どうしよっか?」


「……どうしよっか」


 はて、どうした物か。

 詐欺グループの統括者が捕まらないのと同様、宮原もシラを切るだろう。

 現状、証拠はあの傷だけ。

 何か決定的な証拠が無いモノか。


「橘花ちゃん、教室戻ろ」


「うん、戻ろ戻ろ」


 私と彩華は教室に戻って、かつての生徒会のメンバーに相談した。

 香音と京香、それと領歌りょうか

 三日月 領歌みかづき りょうか、元風紀委員長。

 黒髪ショート、風紀委員と言っても、生徒にビシビシ言ってる訳では無い。

 何なら、何も言わない。


「相手は宮原、対するこっちは七条……、ウチらの勝ちやな」


 香音がニヤリと笑いながら言った。

 家同士の対決にはしたくないんやけどなぁ……。


「私土地使いたく無いわぁ」


「意外、てっきり脅すもんやと思ってたわ」


「別に彩華の事とちゃうし……」


 領歌は少し目を見開いて言う。

 あれ、そんなに意外かなぁ……。


「彩華の事やったら使うって事やんな?」


「……ま、まぁ、そうなるね」


「ふぅ〜ん〜?」


 京香が私の顔を覗き込みながら言う。

 あぁ、もう、ちょっと恥ずかしい。


「京香ぁ〜!」


 京香の肩を掴んで思いっ切り揺さぶる。

 皆に要らぬ誤解を……いや、誤解じゃ無いけども。

 誤解じゃ無いけど恥ずかしい!


「ごめんってごめんって!」


「もう、京香ったら……」


「それで、どうすんの、アイツ」


 香音が冷めた声で言い放つ。

 香音はかなり怒っている様であった。


「それで悩んでんの、教師に言うても無駄やろうし」


 また沈黙の時間が続く。

 私は何も良い案は浮かばなかった。

 そんな時、領歌が言う。


「もう直接言うたら?」


「「「「!?!?」」」」


「いやいや、流石に無理やて」


только рискリスクしか無いよ


「厳しい厳しい!」


「えー? でも、もうそれしか無くない?」


 まぁ、言われてみればその通りだ。

 土地も駄目、教師も駄目と来たら直接言うしかない。

 しかし、直接言うのはリスクが高すぎる。


「……私、行ってみるわ」


「「彩華!?」」「「彩華ちゃん!?」」


 彩華が決断した!

 英断、これは英断!

 彩華がそう言うなら、私は全力で支援するしか無い。


「そっかぁ……、彩華」


「なぁに、橘花ちゃん」


「無理せんくてええからね」


「……うん! 分かっとるよ!」


「彩華ちゃん頑張って!」「彩華、勇気あるね〜」「彩華ちゃん、応援しとるからね!」


「うんっ……、ありがとう、私頑張って来る!」


「放課後行くん?」


「うん、放課後」


 何をするのか分からないので近くで見守る。

 何かあったら土地を使って脅迫。

 さすれば、彩華の身の安全は保たれる。

 ……事件に関してはシラを切られるかもしんないけど。


「そっか、私近くで見てるからね」


「うん! ありがとう!」


「皆も来る?」


「「「行く行く」」」


 よし、バックアップが増えた。

 相手の軍団の数は分からないけれど、多分大丈夫でしょ。


「じゃ、どないかして呼び出そ」


 こう言う時の定番と言えば靴箱に手紙を入れる。

 16:30に中庭に来る様に書いた手紙を入れた。

 さてさて、宮原は来るのか……!




 16:28 2階廊下

 彩華が中庭で待機。

 私達は2階の廊下からガラス越しに見守る。


「あ、来たで!」


 香音が指差した先には宮原が居た。

 彩華に気づいて、彩華の方へ歩いていく。

 そして、彩華に問いかける。


『……何か用?』


 宮原が言ってる事が分かる様に、彩華の制服に小型隠しマイクを取り付けた。

 これで会話の内容が良く聞こえる。


『……荒らさせたやろ』


『何を? 何の事?』


『知らへんとは言わせへんよ。 生徒会室、脅して荒らさせたやろ』


『何の事? ホンマに知らんのやけど』


 腹立つなぁこの声。

 不快、極めて不快。

 口調もそうやし!


「声腹立たへん?」


「「「腹立つ!!」」」


「やんなぁ?」


 やっぱり腹立つよね、この声。

 さっさと終わらないかなぁ~。


『知らん振りしよっても無駄やで、証言あるもん』


『ふーん……』


 彩華はボイスレコーダーで証言を再生する。

 よし、証拠を突き付けたぞ!

 さてさて、どう出るか……!


『……黙っといてくれへん?』


『へっ……?』


 成程、そう来たか。

 口封じには何か対価が必要だろう。

 ……え、対価無し?

 対価無しは流石に馬鹿でしょうに。


『ほ、ほら、ね? 2人だけの秘密にしよ? な?』


『…………』


 彩華が受け入れるのならば、私も受け入れる。

 全ては彩華の決断次第。


『…………や』


『や?』


『……嫌や!』


 あ、しっかり拒否した。

 うんうん、良い選択だと思うよ。

 さて、宮原はどう反応するか。


『あら、そう』


「あれ、意外と普通にしよるね?」


 領歌が私の気持ちを代弁してくれた。

 あんまダメージ無さそう。


「ね、あんまり響いてない?」


「普通に振舞ってるだけかも」


「「「あ~」」」


 京香の言う通り、普通に振舞ってるだけの可能性もある。

 とにかく、推移を見守る以外に選択肢はない。


『それやったら……』


 宮原がそう言うと、周辺から取り巻きが8人程出て来た。

 手にはバットや包丁を持っている。

 ……コレ、不味いなぁ!


「ね、ねぇ、橘花、コレヤバいんとちゃうん……?」


「そうやん! 包丁とか持っとるで!」


「はよ何とかせな!」


「う、うん、行かななぁ!」


 取り巻きが一斉に彩華に襲い掛かった!

 私はエスカレーターの手すりを滑りながら1階へと向かう!


「彩華っ!」


 彩華はかなり善戦している。

 特に包丁相手の奴には。

 しかし、数の暴力でかなり劣勢!

 このままでは包囲殲滅されてしまう!

 ならば側面攻撃で支援だ!


「ワレらぁ! なにしとんけぇ!!」


 取り巻きらが私に気づき、とっさに攻撃態勢を取るが、エスカレーターの手すりで加速した私を止められるはずも無く、虚しく私と衝突して倒れるだけである。

 そう言えば、お母様も昔はココで同じ事してたらしい。


「な、何よ! アンタ!」


 宮原が混乱する中、私は彩華をお姫様抱っこして、倒れた取り巻きを踏んで、包囲から脱出する。

 奇跡的に彩華は無傷であった。

 そのままエスカレーターを上がって、3人の元へ。

 後ろを見てみると、取り巻きが追ってきている。

 ……あれ、深山ってこんな治安悪かった?


「ヤバいってヤバいって! 何連れて来てんの!?」


 香音が早口でまくし立てる。

 香音の言う事は道理だ。


「こうするしか無かったんや! 許してーや!」


 許しを請いながら走り続けた。

 彩華は驚きのあまり、私の腕の中で大人しくしている。

 とても可愛い。

 可愛いんだけど、こんな状況じゃとても落ち着いて楽しめた物じゃない。

 取り敢えず、何処かに逃げないと……!

 ……何処に逃げよう?

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