第9話 部屋荒らし

 4月28日 16:02 深山中・高校 生徒会室


「「…………」」


 今日は1週間ぶりに生徒会室に来てみた。

 来て見たのだが……。


「「あ、荒らされとる……」」


 何と言う事か、生徒会室が何者かによって荒らされているでは無いか!

 ロの字に並べておいた机に椅子。

 そしてキャビネットに入れてあった大量の書類が床にぶちまけられている。


「書類バッサーなっとるよバッサーって」


「Кто разгромил комнату部屋荒らしたんは誰やー!!!!!!!」


 彩華も大激怒。

 怒ってる彩華も可愛い。

 可愛いんだけど、部屋を荒らされたのは頂けない。


「ま、まずは片付けよか?」


「да!」


 まずは書類を片付けよう。

 そう思い、鞄を床に置いた瞬間扉が開いた。


「久しぶり~……って、あらぁ??」


「「あ、先生」」


 顧問の太秦うずまさ先生が入って来た。

 太秦先生はこの惨状を見て目を丸くしている。

 まぁ、当然か。


 太秦先生は一応社会の先生だけれど、今は何処も教えていない。

 その代わり、生徒指導部長を務めている。

 ……と言っても、仕事をしている場面を見た事が無いが。

 他の生徒からは良く分からない黒髪の美人教師として知られている。

 うん、私も生徒会以外で見た事ないこの人。


「な、何があったん……?」


「ココに来たら……」


「この惨状……」


 苦笑いで先生にそう伝える。

 すると、先生も苦笑い。

 だよね、誰でも苦笑いするよね。


「う、うーん……、と、取りあえず片付けよっか……?」


「「はーい」」


 3人で部屋のお片付け開始。

 まずは書類から!


「流石にキャビネットは倒せへんかったんやね」


「キャビネットは固定されとるからね~」


 太秦先生がキャビネットをさすりながら言う。

 確かに、キャビネットの上下がボルトか何かで固定されている。

 地震対策で設置したであろう物がこんな形で役に立つとは。


「ねぇ、書類ってこんな多かった?」


 書類が異常に多い。

 あれ、こんなに書類保管してたっけ。

 キャビネット3つ何だけど、こんなに入ってたかな……?

 そんな事を考えながらバラバラになった書類をファイルに入れて、キャビネットに仕舞う。

 そして、この作業が終了したのは18時頃となった……。


「「「終わったー!」」」


 部屋中に散乱していた書類を見事に元の状態に戻した。

 さて、後は机と椅子を戻すだけだ。


「ねーねー、2人共」


「「???」」


「……机とか明日にせん? 私帰りたくなって来た」


 太秦先生がそう零す。

 ん~、そうね、もう18時だし、明日でいっか。

 どうせ暇だし!


「あ、良いね、そうしましょー」


「彩華ちゃんも良いよね~?」


 彩華は返事の代わりに笑顔を返す。

 よし、今日は解散!

 おさらば!


「じゃ、帰ろ~!」


「帰ろ~」「Пойдемте домой~帰ろ~


 先生と共に、机と椅子が散乱した生徒会室を後にした。

 因みに、この学校の鍵は全て暗号式。

 この生徒会室の暗唱番号は7122である。



 翌日、教室で私達は聞き込みをする事にした。

 目撃証言があれば、犯人を特定しやすくなる。


「皆〜、昨日めっちゃ生徒会室荒らされとったんやけど、何か知らん?」


 皆、顔を見合わせる。

 証言は1つも聞こえて来ない。

 やっぱ皆知らんよね、あんな僻地の部屋。


「やっぱり誰も知らんかったね」


「ね〜っ。 誰も知らんかった」


 正直、予想通りの回答。

 まぁ、そんな単純に見つかるはず無いか。

 太秦先生には教師陣からの聞き込みを頼んでいる。

 はぁ、何か見つかったら良いんだけど。



 16:11 生徒会室


「よーし、椅子と机のお片付け〜!」


「おー!」


 まずはパイプ椅子を退ける。

 椅子は20脚あり、左右に6脚づつ、上下に4づつの配置。


「あ、この椅子壊れとる!」


 彩華が壊れたパイプ椅子の座面部分を持ちながら言う。

 綺麗に外されている。


「あーあ、あかんねソレ」


「端置いとこ」


 端に置いて、次の椅子に取り掛かる。

 最終的に壊れた椅子は5脚。

 残りの15脚は無事だったが、乱暴にされたせいか少しきしむ。

 ……暫くしたら壊れそうね。


 無事に生徒会室を復活させ、少しきしむパイプ椅子に腰掛けた瞬間、扉が開いた。

 影で分かった、太秦先生だ。


「あ、復活しとる!」


「5脚壊されたぁー!」


「あ〜らら、まぁしゃーないね」


 そう言いながら、先生は私の右隣に座った。

 そして、自前のノートPCを開いて見せてくる。


「あ、見てよ2人共! 証拠映像GET!」


「「お〜!!」」


 先生が見せてきたのは防犯カメラの映像だった。

 場所はこの生徒会室に至るまでの細い通路。

 生徒会室側を主に映している。


「荒らされた日の映像がコレね」


 映像を見る限り、ジャージを着た茶髪ポニテの子が生徒会室に向かっていく。

 ジャージのラインカラーと身長から見る限り、高2の様だ。


 少し時間を進めると、生徒会室の方から部屋を荒らす音が聞こえた。

 間違いない、この先輩の犯行だ。

 さてさて、顔は……。


「「み、見えない……」」


「そーなんよ、見えへんのよ」


 防犯カメラの存在を知ってか知らずか、俯いた状態でカメラの前を通過した。

 これでは肝心の顔が分からない!!


「困ったなぁ……」


「困ったねっ……!」


「困った困った……」


 しかし、多少の情報は得られた。

 茶髪ポニテの高2の先輩。

 総当たりで行けば何とかなるだろう。


「先生先生、高2総当たりしてよ」


「OK! 先生に任せなさーい!」


 私達に生徒を動かせる程の影響力は無い。

 しかし、先生であれば動かせる。

 何故なら生徒指導部長だから!



 更に翌日、高2に招集が掛かった。

 その中から犯人と思しき人間を5人選別。

 そして、放課後生徒会室に連行した。


「連れて来たよ〜」


 軽いノリで5人を連れて来た。

 全員茶髪で、体格も似ている。

 顔が見えてないんじゃ何も分からない。


「……結局誰なん?」


「さぁね?」


 無責任だなぁ全く。

 しかし、この5人である可能性は高い。

 ……もしかしたら違うかもしれないけれど。


「ねぇ、橘花ちゃん。 どう聞く?」


「どう聞こ……」


 何かを聞き出すにも、まずは何から聞こう。

 私達は困り果ててしまった。

 そんな私たちを見かねて、太秦先生が口を開く。


「生徒会室荒らしたよーって人〜!」


「「「「…………」」」」


「……だよね、誰も荒らした何て言わんよね!」


 何の成果も得られなかった。

 ただただ無駄な質問だ。

 何か決定的な証拠は無いかなぁ。

 ……無いわなぁ。


「全員高2やしなぁ……、ジャージ、ジャージ……」


 私が考えあぐねていると、彩華が映像の同じ部分を何度も繰り返し見ている。

 犯人が行荒らし終えて戻る時の映像だ。

 これは何か見つけたのかな?


「彩華、何か見つかった?」


「……見つかりそう!」


「見つかりそう?」


 このまま見つかったら良いなぁ。

 私も彩華と一緒に映像を見る。


「ねぇねぇ、顔見てよ顔」


「顔? 俯いてるから見えんでしょ?」


「うん、殆ど俯いとるから見えんけど、ちょっとだけ見えよるんよ」


「え、ホンマ?」


「ホンマホンマ! よぉ見てやぁ!」


 彩華の言う通りに、画面に顔を近づけて観察してみる。

 すると、顔の右頬に小さな傷がある事が分かった。


「あ、傷!」


 私がそう叫んだ瞬間、1人が逃げ出した!

 そう言えば、確か傷があったような……!


Не убегайте!逃げるな!


 彩華がその1人を追って部屋を飛び出した!

 私はその後を追う。

 太秦先生は呆然と立ち尽くしていた。


Остановитесь!止まれ!Остановитесь!止まれ!


 彩華が止まれと言いながら逃げた先輩に後ろから飛び掛かる!

 先輩は彩華と共にバランスを崩して倒れた!

 そして、私もこれに乗じて彩華に後ろから圧し掛かる。

 彩華に触れる丁度良い機会だからね。


「橘花ちゃぁぁん……」


「あれ、重かった?」


「ううん、重ぉないけど……」


「あ、押し潰されるか」


 1番下の先輩が心配なので仕方なく退く。

 極めて短時間ではあるが、彩華の体温と匂いを感じ取れたのでOK。


 生徒会室に連れ戻して話を聞いた。

 どうやら、ウチの学年の宮原と言う奴に脅されたらしい。

 右頬の傷もソイツを中心とする軍団に付けられた物の様だ。

 宮原……宮原……そんなの居たっけ。

 あ、高校組か!


「あ、思い出した」


「何を?」


「宮原ってさ、結構な企業の御令嬢!」


「……あ、そっか!」


 思い出した。

 宮原商事と言う、関西では有名な会社の娘。


「でも何でこんな事したんかな?」


「……さぁ? 私は分からへん」


 しかし、何故この様な事をしたのか。

 私には見当がつかない。

 ……特に関わりは無かったはずなんだけどなぁ~……。

 今度はこの謎を探ってみようかな。

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