第8話 大阪遠足(後編)

 4月18日 13:05 梅田大劇場 2階エントランスホール

 人の流れに乗って劇場の外へ。

 劇場の前で集合写真を撮影した後、解散となった。

 解散後、彩華用のお茶を買って、阪急梅田駅の方へと歩を進める。


「じゃ、服買いに行こか」


「うんっ、行こ行こ~!」


「よーし、じゃ、行こ~」


「所で、店は何処にあるん?」


「摂津屋」


「摂津屋?」


「百貨店やね」


 私がそう言うと、彩華は飲んでたお茶を吹き出した。

 あれ、私何かおかしい事言ったかな?


「ひゃ、百貨店!?」


「おん、百貨店やで」


「そ、そんな所……、私が行っていいのかな……?」


「ええに決まっとるやん、別に普通やで? そんな気にするトコとちゃうよ」


「そ、そうかなぁ」


「そうそう、大丈夫やで、私もおるし」


「そ、それもそっか」


「そうそう。 あ、レストランでお昼ご飯食べようや」


 丁度いい。

 百貨店の上層階には必ずレストランがある。

 上にレストランを置く事で、食事目的に来た客に少なからず商品を見せて購買意欲を煽ると言う手法。

 お父様は良くこれに引っかかる。


「え? 百貨店の?」


「そう、百貨店の」


「で、でも高いんとty――」


「地主やで」


「あ、そっか」


 彩華は納得した様で、悩んでいた顔が一気に晴れた。

 これが地主パワーだ!


「じゃ、行こっか」


「うんっ、行こ~!」


 彩華は笑顔で答える。

 あぁ、この満面の笑みを見てるだけで幸せ。


 さて、私達はゆっくり歩きながら摂津屋梅田店へ向かった。

 梅田の摂津屋も、京都と同じく国鉄直結。

 まぁ、地下街で全部繋がってるからどの駅にも直結してる様な物だけどね。



 13:13 摂津屋梅田店 1階


「わぁぁぁぁ……!」


「んふふ、どう? 初めての百貨店」


「しゅ、しゅごいね」


 彩華は目をパチパチさせながら辺りを見回している。

 私も初めて来た時、こんな感じだったのかな。


「さ、エレベーターで上がろ」


「う、うん!」


 彩華ははぐれまいと必死に私に着いて来る。

 とてもとても可愛い。

 小動物的可愛さがある。


 エレベーター前にはかなりの人が並んでいた。

 これエスカレーターで行った方が早いかな?


「どないしょっか? エスカレーター乗る?」


「ううん、こんままエレベーター」


「OK~」


 彩華の決断により待ち続ける事に。

 5分位した後、やっとエレベーターに乗れた。

 エレベーターは5分も掛からずに14階へ到着。

 待つ方が長いエレベーターかぁ、まぁ、混んでる時間だったら良くあるよね。


「何食べる?」


「な、何しよっかな……?」


 彩華は辺りを見回して少し混乱している。

 まぁ、そりゃそうか。

 初めて来た所で、"何食べる?"って聞かれても答えられないか。


「う~ん、お寿司食べる?」


「! お寿司! 食べたい!」


「OK、お寿司食べよっか」


 少し歩いて、お寿司屋がある所まで進む。

 空席があり、待つ事無く店に入る事が出来た。


 カウンターは満席だったから、2人掛けのテーブル席に座る。

 彩華を奥に座らせて、私は通路側に。

 少しすると、店員さんがお冷とメニューを置いて行った。

 さて、何を食べようかな。


「えへへ、どれ食べよっかな」


 メニューを見て、彩華はまたまた目を輝かせている。

 メニューはセットから単品まで様々。

 お金は国鉄のプリペイドカードに35万円程入れている。

 だから、彩華が大食いしない限り、お金の心配は無い。


「何食べても良いよ~」


「ホントに?」


「勿論!」


「えへへ……、ありがとう、橘花ちゃん!」


 あ~っ、可愛い。

 途轍もなく可愛い。

 この笑顔が見れるだけで幸せ。

 お金とかどうでも良いね。


「う~ん、この特上にぎりにしょっかな」


「OK~、私何食べよっかなぁ~」


 彩華は特上にぎりを選択。

 あ、一品料理……は、後で聞こう。

 先に私のメインをば。


「店長おまかせと~……」


 一品はどうしよっかなぁ。

 茶碗蒸しとお味噌汁は付いてるし……別に要らないかな。


「彩華、一品何食べる?」


「うぇ? 一品?」


「おん、一品」


「う~ん、要らんかな、セットだけで」


「OK、じゃ、呼ぶねぇ~」


 店員さんを呼んで、注文する。

 伝票に素早く書き記して去って行った。


 そして、数分経った頃、料理が届いた。

 彩華のは普通なんだけど……。

 私のは……その~……。


「……赤一色……?」


「あ、アハハ……、真っ赤やね……」


 マグロしかない。

 赤身、中トロ、大トロ。

 それぞれ4貫づつ、合計12貫。

 店員さんも苦笑いしてた。


「こ、これは流石に……、ねぇ?」


「う、うん、ちょっと酷いね」


「別で何か注文しよ……」


 赤身を頬張りながらメニューを眺める。

 玉子食べたいな。

 後は赤海老にしよ。


「すいませーん」


 店員さんを呼んで、それぞれ2貫づつ注文する。

 さっき来た店員さんとは別の店員さんだった。

 めっちゃ笑いを堪えてた。

 うん、誰でも笑うよねコレ。


「はぁ、美味しいからまだ良かった」


「お、おまかせ……、め、めんどくさくなったんかなぁ……?」


「せやろなぁ、昼ラッシュで疲れたんやろ」


 彩華も笑いを堪えながら話している。

 笑ってええんやで。


 追加のお寿司は3分も経たずに到着。

 これで赤一色のお皿に彩りが加えられた。


「味のマンネリから解放された……!」


 そろそろ飽きかけてた。

 まぁ、誰でもマグロ系統12貫を続けて食べれんよね。


「海老美味しい~」


 甘くて美味しい。

 これで残りのマグロも食べられる。


 10分で残りを完食。

 茶碗蒸しめっちゃ美味しかった。


「ごちそうさまでした」


 彩華はとっくの昔に食べ終えていた。

 そして、何かを言い出したそうな顔をしている。

 これは聞くしかない。


「ん? 彩華、どうかした?」


「えっと、お寿司お持ち帰りしたいなぁって……」


「ん? ええよ~、何する?」


 メニューの最後の方に持ち帰りメニューが載っている。

 特盛だとか上1人前とか色々あった。


「高い方の5人前……、にしようかな」


「OK~、じゃあ注文し四日」


「うんっ、ありがとう、橘花ちゃん」


 彩華は笑顔を見せる。

 しかし、何処かぎこちない。

 少なくとも、純粋な笑顔では無い事は分かる。

 私には分かる、彩華に何かがあった。


 最近は要求する物が多いって言うか……。

 それは別に問題じゃ無いんだけど、特に食事に関して多い様な。

 この前のお弁当もそうだったし。


 ……ご飯を満足に食べられていない?

 彩華は元から細いから体型じゃ判断出来ない。

 しかし、最近の食事のねだり様から十分に食べられていない事が良く分かる。


 だが、彩華はそれを隠したがっている。

 私に心配されるのが嫌なのだろう。

 なら、私に出来る事はただ1つ。

 心配している事が彩華にバレない様に、出来るだけ自然に彩華に食事を供給する。

 幸いお金は無限に湧いて来るから、お金の心配はしなくて良い。


「……? 橘花ちゃんどうしたん? そんな見つめて」


「え? あ、いや、何でもない。 すみませーん」


 お持ち帰り用のお寿司を注文。

 数分後、綺麗な箱に詰められたお寿司と大量の保冷剤が到着。

 それを持ってレジへ向かう。


「えー、お会計1万7860円になります」


「カードで」


「はい、カードですね~。 暗証番号をお願いしまーす」


 暗証番号を入力して決済を済ませる。

 レシートは要らないけど一応貰っておく。


「じゃ、服買いに行こう」


「うんっ~、行く~」


 エレベーターは間違いなく混んでるので、時間短縮の為エスカレーターへ。

 エスカレーターで5階へと下る。


「どのお店?」


「んーと、どれだったかな……あ、あったあった」


 エスカレーターを降りてすぐのお店。

 さて、あの商品は売ってるのかな。


「えーっと、あ、あったあった!」


 目的の服はスタンドに掛けられていた。

 単純な肩が出ているタイプの白ワンピース。


「わぁぁぁ……!」


「コレ、絶対彩華に似合うと思っとったの」


 またまた彩華は目を輝かせている。

 コレは買うしか無いね。


「彩華、試着する?」


「うん! する!」


「OK、あ、すいませ~ん」


 店員さんに話しかけて、試着室へ案内して貰う。

 私は試着室の外で待機。


「あぁ~、楽しみやなぁ」


 5分程待機した後、試着室の扉が開く。

 中からは白いワンピースを身に纏った彩華が出て来た。


「か、可愛い! めっちゃ似合っとるよ!」


「え、えへへぇ、そうかなぁ……?」


 彩華は少し恥ずかしそうにしている。

 めっちゃ似合ってるのにね。


「うん! 予想通り、やっぱ似合うと思っとったんよ~」


 彩華に駆け寄って、あちこち触ったり、嘗め回すように見たりする。

 彩華は少し恥ずかしそうにしていたが、何処か嬉しそうであった。


「えへへ……、そんなに橘花ちゃんが言うなら……!」


「うん、買おう買おう」


「あ、これなんぼなん?」


「えー、2万3000円やったかな?」


 正直覚えてない。

 覚える程の金額じゃないし。


「に、2万円……」


「大丈夫、私は地主だから」


「あ、そっか」


 地主って言う言葉の強さよ。

 ともかく、コレを買おう。


 彩華が服を脱いでいる間に会計を済ませる。

 カードで一括、クレカじゃないけど。


「んじゃ、帰ろっか」


「うんっ、帰ろ~」


 いざ、国鉄大阪駅へ。

 はぁ、新快速絶対混んでるだろうなぁ。

 そんな事を考えながら、私達は京都への帰路を急ぐのであった。

 ……帰りも京阪使えば良かったなコレ。

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