第7話 大阪遠足(中編)

4月18日 10:20 梅田大劇場 2階エントランスホール

無事、時刻通りに全員集合。

1階の入口から入って、チケットを確認。

その後、2階のエントランスホールに上がった。


「すごーい!」


「あ、彩華は初めてやったね」


「うん! 初めて!」


目を輝かせる彩華。

とっても可愛いね。


先生の誘導に従ってホールの中へ。

既に入場は始まっていた。


「何処やっけ?」


「2階の6番と5番」


私が6番、彩華が5番。

エントランスからエスカレーターを登ってホールの2階へ。

まぁ、実質的に4階である。


4階(2階)に上がって、7番扉から入る。

中は最低限の水分補給を除き全席飲食禁止。

まぁ、何も持って来てないから良いけれど。


「こっちやね〜」


彩華に手を引かれて座席へ。

座席は2階席の最前列の右端。

中央を見る時は首を傾けなければならないが、まぁ許容範囲内だ。


「えへへ、凄いね!」


「うん、流石は大劇場」


流石は大劇場と名乗るだけはある。

席数もかなり多いし、舞台も広い。

私がこれまで行った中でも1、2を誇る広さだ。


「ねぇねぇ橘花ちゃん。 ミュージカル見た事ある人って、どんくらいおるんかな?」


「あぁ……、そうやね、うーん、多分見た事無い人の方が少数派とちゃうん……?」


他の高校は知らないが、少なくともココでは見た事無い人の方が少ないだろう。

ブロードウェイまで見に行ったという話も結構聞く。

私は無いけどね。


「そっかぁ〜」


彩華は相変わらずの目の輝き様。

私も最初に見に行った時はこんな感じだったのかな。


「何時からやっけ?」


「えーっと、11時開演で13時までやね」


120分間の公演。

内容はキューバ危機に関する物。

所謂、ノンフィクション作品。


「2時間休憩無し?」


「うん、休憩なし」


「休憩ってあるんが普通なん?」


「2時間位は無いのが普通やね。 3時間位になったら休憩が出てくる」


「へぇ~」


まぁ、全部私の経験則だけどね。

1番長かったのは6時間の講演。

まぁ、小さい頃だったからあんまり覚えてないけど。


「ねぇ、彩華」


「なぁに~?」


「どう? 初めての劇場」


「やっぱり広いね! ドラマで見たのと同じ!」


「イメージ通り?」


「イメージ通り!」


「んふふ、そっかそっか」


彩華と雑談していると、4番席の京香が話掛けて来た。

西院 京香さいいん きょうか、元生徒会会計委員長。

仕事が良く出来る優秀なコ。

頼りにしてたんだけど、遂に辞めてしまった。


「あれ、彩華ってミュージカル初めて何やね!」


「うんっ、初めて~」


「そ~か~、初めてのミュージカル楽しんでや~」


「うんっ!」


京香が彩華の頭を撫でた。

何でそんな気易く触れるの。

彩華にこうやって触れて良いのは私だけなのに。


「京香っ」


私は京香の腕を掴んで強制的に撫でるのを止める。

京香は呆気に取られた表情をしていた。

一体何をとぼけているのか。


「あっ、あかんかった?」


「おん、あかん、ホンマにあかん」


「ごめんごめん」


京香は笑いながら手を引っ込める。

いくら同じ生徒会の仲間であったとしても、彩華に着やすく触れてはならない。

同じクラスの仲間だとしても同様。

特に、他クラスの人間が触れたら私はどうするか分からない。


「橘花ちゃんってさ、たまーに低い声出すよね?」


「そうやんね~、橘花ってたまーにめっちゃ低い声出しよるよね」


「え? あ、あぁ、言われてみれば?」


言われてみればそうかもしれない。

まぁでも、自分でそう言う事を意識した事は無いんだだけどね。


「あ、橘花ちゃん、暗くなりよるよ」


「お、そろそろ始まる」


劇場内が暗くなる。

スマホの電源を消した事を確認し、彩華を左手で抱き寄せた。

完全に暗くなったら、舞台が照らし出され、いよいよ公演が始まる。

舞台左手から、男性が1人歩いて来た。



・・・


[――おい、コレ、ミサイルじゃないか?]


[まさか、そんな事ある訳が無い]


・・・・


[――大統領閣下、キューバでソ連製の中距離弾道ミサイルが発見されました]


[直ちに会議を招集してくれ]


・・・・・


[――ソ連に対して外交的圧力を掛けるべきだろう]


[いいや、まだ何もすべきでは無い]


[何を言うか、今すぐキューバに軍を差し向けるべきだ!]


・・・・・・


[――攻撃をほのめかすような文言は無かったか?]


[はい、書記長同志。 テレビ演説にはその様な文言は見られませんでした]


[書簡を送る、用意してくれ給え]


[はっ、直ちに]


・・・・・・・


[――通訳は必要無いでしょう? "Yes or no!"]


[私はアメリカの法廷に立たされているのではない!]


[貴方は今、世界世論の法廷に立たされているのですよ]


[検事の様な質問をされても、お答えする事は出来ない]


[では、地獄が凍りつくまで回答をお待ちしましょう]


・・・・・・・・


[今こそ米帝を倒す時! ソ連は今すぐ核攻撃をすべきだ! フルシチョフに書簡を送れ!!]


[はっ、直ちに書簡を]


・・・・・・・・・


[爆雷、全弾回避しました!]


[報復だ、核魚雷を発射するぞ]


[お待ち下さい艦長!]


[何だね、アルヒーポフ君]


[攻撃は早計です!]


・・・・・・・・・・


[何故フルシチョフはミサイルを撤去したんだ!]


[さ、さぁ……]


[俺は大国の取引の材料何かじゃない!!]


・・・・・・・・・・・


[これで危機は回避された]


[大統領閣下、これで国民は安心します]


[あぁ、そうだな]


・・・・・・・・・・・・



120分間の公演が終わった。

劇場は拍手で包まれている。

私も含めて、皆がスタンディングオベーションで役者を見送っていた。

拍手が止むと、京香が話しかけてくる。


「凄かったね~」


「ね~。 音楽が凄い!」


話は一旦置いといて、とにかく音楽が凄い。

何と、完全なる生演奏。

最初、男性の語りから徐々に舞台上に設置された楽器の元へと一般人に扮した演奏者が集まり、演奏を始める。

そして、その演奏がまた素晴らしい。


「彩華、どうやった?」


「めっちゃ凄かった!」


「せやろせやろ~?」


彩華の目がキラキラしている。

とても可愛いね。


「また2人で何か見に行く?」


「行く~っ!」


ヴッ!

何だこの可愛さは!

新手の兵器か!


「うんっ、絶対行こな~」

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