第6話 大阪遠足(前編)
4月18日 08:33 京阪七条駅 淀屋橋方面改札口
「彩華まだかな〜」
今日は待ちに待った大阪遠足!
梅田大劇場へミュージカルを見にいく。
皆は激混みの国鉄の新快速を使って大阪に行くらしいけど、私と彩華は京阪で大阪へ向かう。
プレミアムカーって言う指定席に乗って、確実に座って行く。
「あ、来た。 彩華〜!」
彩華が出町柳方の改札を繋ぐ階段を登ってきた。
そして、私の姿を見るなり駆け寄ってくる。
健気でとても可愛い。
「橘花ちゃ〜ん!」
「彩華、おはよっ」
「うんっ、おはよ〜」
笑顔で応える彩華。
でも、何処か違和感がある。
うーん、この違和感の正体は何だろう?
まぁ、後になったら分かるか。
「じゃ、切符買っといで。 私、プレミアムカーの切符買ってくるから」
「うん、買う〜」
彩華にお金を渡して、私はプレミアムカー券の券売機へ。
三島さんに買い方は聞いたから、その通りに買う。
「あ、本当に現金使えへんのや」
三島さんから聞いた時、嘘だと思ったけれど、券売機では現金が使えない。
交通系ICとかクレジットカードでしか決済が出来ない様だ。
値段は淀屋橋までたったの1人500円!
500円で絶対座れるなんて最高じゃん。
私はNRカードでプレミアムカー券を購入する。
座席は9A9Bを指定した。
「よし、完了」
「買えた?」
「うん、買えた買えた」
いつの間にか彩華が後ろに居た。
匂いで分かると思ったんだけど。
彩華を連れて改札内へ。
列車は後2分で到着する。
8時37分発で、淀屋橋には9時26分に着く。
大体50分位の旅路だ。
[間もなく、2番線に特急淀屋橋行が到着致します。 黄色い乗車位置三角印の、1番から8番でお待ち下さい。 この電車の6号車はプレミアムカーです。 乗車券の他に、プレミアムカー券が必要です。 停車駅は――]
トンネルから鳩のマークと共に赤い列車が入って来る。
京阪を象徴する看板列車だ。
京阪特急は普通の車両から結構豪華。
その上でのプレミアムカーとなったらどうなるのだろう。
「な、何かドアが凄い事になってるよ」
「う、うん、そうだね」
6号車、プレミアムカーは他の号車とはかなり異なるデザイン。
金色のチェック柄の片扉は私に優越感を感じさせてくれる。
「淀屋橋行特急です」
扉が開くと、ドア前に待機していたアテンダントさんが行先と種別を告げる。
アテンダントさんに会釈しつつ車内へ。
デッキを左折し、客室に入る。
「9A9B……、あ、ココだ」
1+2の座席配列。
今回は進行方向右側の窓だ。
[淀屋橋行特急です。 扉を閉めます、ご注意下さい]
私達が座席に座ると同時に列車は発車。
驚くべき事に、扉が閉まる音は全く聞こえなかった。
「フカフカ!」
「凄いね、コレが500円?」
生成色の座席はかなりフカフカで、前面に大型テーブルとリクライニング機構備え付けてがあった。
まるで、国鉄特急の座席の様だ。
これがたったの500円?
破格過ぎない? 京阪破産しない?
「良いね、新快速に詰め込まれるより全然良い」
たった500円と多少の時間で新快速の混雑を回避出来るなんて最高。
国鉄も新快速にこう言うの付ければ良いのにね。
[京阪電車をご利用頂きましてありがとうございます。 この電車は、特急大阪・淀屋橋行です。 次は、丹波橋です。 近鉄線はお乗換です。 丹波橋の次は、中書島に止まります]
列車は地下を抜け、国鉄との高架を潜る。
進行方向左側、東からの朝日が眩しい。
国鉄が真っすぐ綺麗な線形を描くのに対し、こちらは右往左往。
カーブの連続である。
しかし、この座席はカーブの不快感を感じさせない。
「ねぇ、橘花ちゃん」
「ん? なぁに?」
「集合場所、梅田駅やっけ? 劇場やっけ?」
「劇場やったと思うよ」
鞄から案内の紙を取り出して、集合場所を確認する。
集合場所は劇場であった。
劇場は梅田駅からちょっと歩いた所にある。
「楽しみやね、ミュージカル」
「うんっ、楽しみやね!」
09:26 淀屋橋駅 ホーム
列車は定刻通り淀屋橋駅に到着。
ココからは地下鉄に乗り換えて梅田へ。
それにしても、人が多いなぁ。
「人がいっぱいやね」
「やね。 京都も多いけど、殆ど観光客や」
京都に対して、大阪はビジネスマン。
観光客よりスーツを着た人の方が多い。
「地下鉄……、あ、こっちや」
人の流れと案内板に従って地下鉄へ。
大量の人々に揉まれながらも何とかホームに辿り着く。
[2番線に千里中央行が到着します。 危険ですので、ホーム柵から身を乗り出したり物を立て掛けたりしないで下さい]
ホームに辿り着くと、丁度列車が到着していた。
赤色の帯に銀色の車体。
そして、溢れんばかりの人、人、人。
流石は大阪の大動脈、お父様が文句を言うのも頷ける。
「橘花ちゃん、女性専用車あるよ」
「ええね、乗ろ乗ろ」
京都市営地下鉄では女性専用車は存在しない。
まぁ、女性専用車なんて作ったら、私達は良いけど、多分列車から人が溢れて更に地獄になると思う。
そんな地獄は誰も望んでいない。
車内はそれなりに人が居た。
座席は全て埋まっている。
だからドア付近に立った。
「やっぱり混んどるね」
「そりゃね、大阪やもの」
「隣の車両、めっちゃ混んどるね」
「ねっ。 やけど、ほら、朝の地下鉄よりマシやろ」
「うん、せやね!」
列車は扉を閉めて動き出す。
結構加速が強くて、ちょっとよろけちゃった。
[次は、梅田です。 谷町線、国鉄線、阪急線、阪神線はお乗換です]
乗車するのは1駅。
淀屋橋と梅田は次の駅。
……歩いても良かったかもね?
「ねぇねぇ、橘花ちゃん。 お胸当たってるよ……?」
「当ててる」
「あっ、そっか……、ふへへ」
あ、喜んでる、可愛いね。
このまま頭を撫でたいけど、列車内だからそうもいかない。
非常に残念だ。
[梅田、梅田です。 谷町線、国鉄線、阪急線、阪神線はお乗換です。 右側の扉が開きます、ご注意下さい。 尚、前の車両からお降りの方は電車とホームの間が広く空いております、足元にご注意下さい]
2分程で梅田に到着。
ドーム状の屋根に敷き詰められたモニターが眩しい。
「うわっ、眩しっ!」
「めっちゃ眩しいよぉ」
モニターの明るさに若干目をやられながらも出口を探す。
……あれ、何処から出たら良いの?
「彩華彩華」
「なぁに?」
「何処から出たらええん? コレ」
「……分からへん!」
「分からんなぁ……」
こりゃ困った。
一体何処から出たら良い物か。
……取りあえず、適当な改札に上がってみる?
「取りあえずさ、改札上がろ」
「うん、上がろ上がろ」
出口が分かって居る現地の人間は既にエスカレーターや階段に乗って何処かへ消えてしまった。
取り敢えず、1番近いエスカレーターを上がってみる。
エスカレーターを上がると、改札口が見えた。
「取りあえず出てみよ」
北改札口から駅の外へ出る。
しかし、未だ情報は0。
邪魔にならない様に端に寄って、劇場の位置を調べる。
「梅田大劇場っと……」
劇場の位置が出て来た。
……結構遠いのね、ココ。
場所は阪急梅田駅の北東部。
ここからは10分程度らしい。
「結構遠いね」
「うん。 取りあえず阪急の方に進めばええんかな」
"阪急電車"と表示が出ている方向に進んでみる。
それにしても、やっぱり人が多い。
……まぁ、
「お店がいっぱいあるね」
「せやね。 コレ何処まで続くんかな?」
どうやらココは阪急三番街と言う地下街の様だ。
名前的に、阪急が運営してるのかな。
店がひしめき合っている三番街を暫く歩いていると、少し広い場所に出た。
どうやら、ココは阪急梅田駅の地下部分らしい。
「ねぇ、橘花ちゃん。 1階出てみようよ」
「せやね、上がろ上がろ」
人の流れに上手く乗ってエスカレーターへ。
大阪はどうやら右側一択らしく、皆右側の手すりを掴む。
京都じゃ、場所によって右側左側が変わる。
観光客が多い場所だと左側になる事が多い。
「外、外、北東やから、こっちかな?」
2階へ向かうエスカレーターの列から逸れて、取りあえず東へ。
……ホンマ、迷子なりそうや。
「あ、外!」
「はー、出れた出れた」
何とか脱出する事が出来た。
……まぁ、ビルとビルの狭間だから暗いんだけどね?
「こっち進んだら見えるかも」
取り敢えず北に進んでみる。
劇場の通りを右折すれば、自然と辿り着くはず!
「清水寺位人おるよ、橘花ちゃん」
「うん、めっちゃおる!」
狭い歩道を人の流れに沿って北上する。
身なり的に、全員劇場に向かう人かな?
だとしたら好都合、この流れに乗れば劇場に着くって事!
「これ全員劇場に向かう人達何かな?」
「多分、そうやと思うよ」
彩華も同じ考えの様だ。
まぁ、違うかったら……どうにでもなるか。
人の流れに沿って歩く事数分。
予想は的中し、無事劇場に辿り着いた。
劇場前の広場にはクラスメイトや他のクラスの生徒達が集まっている。
クラスメイト達が私達に気づくと、手招きして呼んでくれた。
「七条と石北やな~、到着っと」
担任の鯖江先生が私達を見ると、手持ちのタブレットに何かペンで書き込んだ。
多分、出席確認の類いの物だろう。
「後来てへんのは箕面と甲斐だけやね~」
後来てないのは2人だけ。
つまり、18人は来たって事ね。
……皆、早いね。
「橘花ちゃん橘花ちゃん」
「ん~? なぁに?」
「ココ来るまででも結構疲れた気がする」
「ねっ。 やっぱり大阪って凄いね」
「ね~」
ちょっと疲れたけれど、多分座ってる内に回復すると思う。
ミュージカルも当然楽しみだけど、彩華とのお買い物も楽しみだな。
いや、正直ミュージカルよりも彩華とのお買い物の方が楽しみな様な。
私は彩華を見つめながら、そんな事を考えるのであった……。
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