第5話 学校生活
4月12日 09:25 深山中・高等学校 高校1年1組
「起立、礼」
「「「「ご機嫌様」」」」
今、1限目の授業が終わった。
このクラスの級長は私が務めている。
“生徒会長だから”って言う、単純な理由。
副級長は橘花ちゃん。
橘花ちゃんもほぼ同じ理由。
昨日の事はまだ橘花ちゃんには隠したまま。
……橘花ちゃんにはそれっぽい事、色々聞かれたけど。
「彩華〜」
「なぁに〜?」
「お金、放課後に渡すね」
「う、うん。 ありがとう」
橘花ちゃんは耳打ちで私にお金の事を伝える。
流石に30万円をここで渡す程、橘花ちゃんは不用心じゃない。
「……彩華」
「な、何?」
「やっぱり何かあったん?」
「う、ううん、何も無いよ、何も無い」
「ホンマに?」
「ホンマホンマ! 何も無いって!」
「……ふーん」
「うぅ……」
橘花ちゃんはジト目で私に言った。
やっぱり、何かあったって見破られてるんだ。
流石は橘花ちゃん。
……あんな事、こんな所で話せないよ。
「ま、良いや。 後々分かるやろうし」
橘花ちゃんは得意げに言った。
……どうやって言おう。
「おーふたりさんっ」
私が考え込んでいると、香音ちゃんが話しかけてきた。
元々、生徒会に居たけれど、つい去年辞めた。
元々居た3人の1人だ。
「あ、香音、どうしたん?」
「いいや、なんも。 何か話しとったから」
橘花ちゃんの机に手を載せながら、笑顔で話しかける香音ちゃん。
香音ちゃんは茶髪のボブショート。
元気で可愛い。
でも、橘花ちゃんには及ばない。
「彩華、次の授業なんやったっけ?」
「歴史総合やったと思うよ」
掲示してある時間割を見る。
記憶通り、2時間目は歴史総合であった。
「ありがと」
そう言って、橘花ちゃんは私の頭を撫でる。
繊細な橘花ちゃんの手はとても暖かかった。
「うへへ……」
「2人が羨ましいわぁ、私も幼馴染がおったら良かったのに」
香音ちゃんは軽く笑いながら言った。
ふふふ、羨ましいだろ!
「羨ましいy――あぁ、撫でるの止めんといて!」
「はいはい、ヨシヨシ」
「うぇへへ〜」
やっぱり橘花ちゃんに撫でられると気持ちいい。
ずっと橘花ちゃんとこうしていたいなぁ……。
「あ、そろそろ始まる」
香音ちゃんはそそくさと座席に戻っていった。
私は橘花ちゃんに撫でられながら、歴史総合の教科書を取り出した。
「はーい始めるよー、号令ー」
取り出したと同時に、チャイムが鳴って先生が入ってきた。
歴史総合は片島先生。
男で、特に特徴も無い平凡な人。
「起立、礼」
「「「「ご機嫌様」」」」
授業は特に何か異変がある訳でも無く、淡々と進んだ。
私達は授業を1年先取りしているので、今は丁度二次大戦が終わった頃。
「えー、今も昔も日本軍があるな、陸海空軍、昔は空軍は無かったがな」
片島先生はホワイトボードに戦車と空母と戦闘機の絵を描いた。
こう言うのって、戦艦を書くもんやないの?
何で空母なんやろ……。
「これ、本来無くなるはずたったんだな」
え、そうだったんだ。
じゃ、何であるんだろう。
「朝鮮戦争があったのは皆知ってるな、あれが原因」
「「「「へぇ〜」」」」
「ソ連がちょっと暴れすぎたんだ。 ソ連は朝鮮戦争中、日本海に軍艦を結構派遣しよったんや。 それがGHQ、アメリカの気に触れたんや」
先生は絵を消して、話を続ける。
「日本に駐留している米軍は、日本防衛用だった物が、あれだな、対ソ連用の部隊になってな、日本を守る余裕がなくなった。 やから、日本軍が再建された」
へぇ、だから日本軍があるんだ。
橘花ちゃんと一緒に一応海軍目指してるけれど、ここら辺の理由は知らなかったな。
「んで、その時にあった憲法、日本国憲法だな、改正したんやな、都合の良い様に」
先生は頷きながら言う。
そして、辺りを見回してこう言った。
「この中で軍に入ろうと思ってる人は居るか? まぁ、居なi――」
私は当然手を挙げる。
後ろの方を見てみると、橘花ちゃんもしっかり手を挙げていた。
「あ、そうか、七条はあれだな、海軍家だったな」
橘花ちゃんの方は納得した様で、今度、先生は私の方を見る。
先生は私の顔を見て訝しんだ。
「あれ、石北は日本軍か?」
「はい」
「ロシア軍やなくて?」
「日本軍です」
「陸海空?」
「海軍」
先生にとってはかなりの衝撃だった様で、目を見開いて驚いている。
私、ロシアに思い入れなんて一切無いもの。
血は入ってるけど……。
「意外やなぁ、てっきりどっかの大企業にでも行くもんかと……」
そう言いながら、先生はホワイトボードの方を向いて、授業を継続。
この授業中、私はかなりの質問攻めに遭う事となった……。
12:13 中庭
昼休みになった。
今日は弁当を持って来ていない。
お母さんが夜逃げしたから……。
橘花ちゃんはいつも通り美味しそうな弁当。
ちょっとくれないかなぁ……。
「ん? あら? 彩華、お弁当は?」
「えっと、お母さんが作り忘れてもうて……」
「あら〜、まぁたまにはそんな事あるよね」
「う、うん」
私は昨日の夜から何も食べていない。
だから、お腹が空いた。
でも、橘花ちゃんの貰うの、ちょっと気が引ける……。
「あ、私のお弁当食べる?」
「え、ええの?」
「うん。 今日な、豊岡さんが食材って言うて、お弁当2人分作ったんよ」
何という奇跡。
まさか私が食べてないのを見越して……?
いや、まさか、これは誰にも言ってないのに……。
「丁度良かった、食べてや。 私1人じゃキツいし」
「う、うん、ありがとう、橘花ちゃん!」
「ふふっ、良いよ良いよ。 私1人じゃ絶対食べきれんし」
橘花ちゃんは微笑みながら言う。
私は橘花ちゃんが天使の様に見えた。
「さっ、どっち食べる? 中身ちゃうから」
そう言って、橘花ちゃんは2つの弁当を開いて私に見せた。
片方は……良く分からない。
もう片方も……良く分からない、どっちも何か凄そう。
「コレ、何やろう」
「あー、色々入っとるよ。 でも、絶対全部美味しいよ」
橘花ちゃんがそう言うのなら間違い無いだろう。
私は右側の弁当を手に取った。
「「いただきます」」
橘花ちゃんから貰った割り箸を割って、弁当を食べる。
味は絶品、こんな美味しいご飯、1回も食べた事がない。
「どない? 美味しい?」
「うん! めっちゃ美味しいよ!」
「ふふっ、良かった良かった」
橘花ちゃんは優しく私に微笑んだ。
そう言えば、橘花ちゃんは毎日こんなご飯食べてるんだ……飽きそう。
「ねぇ、飽きへんの?」
「ううん、全然。 毎日ちゃう料理作ってくれるから、全然飽きひんよ」
「へぇ〜、凄いね」
「ねっ。 凄いよね」
私は弁当に舌鼓を打った。
あまりの空腹の影響か、物の数分で完食。
結構な量だったんだけどね。
「ご馳走様!」
「えっ、早すぎん?」
「えへへ、美味しかったから」
「そっかそっか〜」
橘花ちゃんは笑いながら弁当を食べている。
あぁ、ご飯を食べてる姿も所作も綺麗……!
やっぱり橘花ちゃんはお嬢様。
「……彩華? 何見とんの?」
「えっ、いや、何もないよ」
「ホンマ~?」
「ホンマホンマ! 何も無い!」
私は少し恥ずかしくなって、綺麗で見とれていた事を隠す。
でも、橘花ちゃんにはバレてるのかな。
まぁ、バレても別に良いや。
「んふふ、そっかそっか」
微笑みながら弁当を食べ続ける。
橘花ちゃんは弁当を15分程で完食した。
「ご馳走様」
やっぱり所作の1つ1つが綺麗だ。
私とは大違い。
小学校の頃から思ってたけど、私こんな所居て良いのかなって、ずっと思ってる。
橘花ちゃんみたいな子は他にいっぱい居て、そんな中で私がだけ浮いている様な、そんな気がしてならない。
皆も橘花ちゃんも、そんな事無いって言ってくれるんだけど……。
「あら、浮かへん顔して、どないしたん?」
「うぇ? な、何も無いよ、ちょっと考えてただけ」
「……そっか」
橘花ちゃんは少し私を見た後、そう答えた。
やっぱり、何か探ってるのかな?
「さ、彩華、教室戻ろ」
「うん、戻る~」
私達は中庭を出て、いつも通り、教室に戻った。
……やっぱり、何も言わなくても、橘花ちゃんには全部分かるのかな?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます