空白レコード

梓道伊織

空白レコード


「ま、待ってくれ、!頼む!!」


白衣を着た男は、懇願するように叫ぶ。目に映るそいつは黒衣を纏っている。そして、男に銃を向けていた。

「お、おい……嘘だろ、?」

銃を下ろす気がないことを、白衣の男は悟る。

黒衣は銃を構えながら、ゆっくりと男に近づく。

「っ、う、ぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

男は叫びながら暴れた。机にぶつかり、ものが落ちる。と、それを見たとき発砲音が響いた。


「ぁ、」


小さな声を上げる。男は一歩後退り、崩れ落ちるように倒れた。黒衣は自分の獲物など興味ないように、机に向かい歩き、床に落ちたものを手に取る。


「ぅ"、ぁ、」

弾は左胸に当たっていた。男は徐々に血を流し白衣は赤く染まっていく。

「な、んで……、」


「、、ぃ、や」


「これで良いのか…………」

暫くした後男は絶命した。黒衣はいつのまにか消えていた。










かち、かちと時計の音が響く部屋。会社のオフィスの様だ。デスクに座り、資料を読む彼以外誰もいなかった。



「はー、、転落死ねぇ、和泉ツルギ、…3ヶ月前に亡くなった恋人の後追いの可能性あり。悲しい話だな…」

資料を読む彼はそう呟く。彼の名前は満寺シオン。ある事件を解決するために作られた組織に属する22歳の男だ。


「にしても、こんな関係のない資料誰が置いたんだ?…後で資料庫に持ってっとくか…」

シオンは資料を机の端に起き、別の資料を見始める。

「中々手がかりがないな、…はぁ眠い。」

時間について調べていたのか寝不足であった為、シオンは机に伏せる。

「休憩…」


「ちょっとシオン、何やってるの⁉︎」



「わっ、ア、アヤメ!」

シオンは急いで顔を上げた。綺麗な赤髪を結い、利発な顔立ちの彼女、紅蓮アヤメはシオンを問い詰める。

「今日は事件の被害者の事情聴取があるから準備してって言ったわよね?」

アヤメはシオンを指差しながら言う

「お、俺も色々調べてたんだ!だから休憩を…」

「は?何か言った?」

「何でもない…えっと…記憶喪失事件の被害者にだっけ?」

「当たり前じゃない…もしかして忘れてたの?」

アヤメは睨みながら、シオンを見つめる。

「い、いやそうじゃなくて、」

「しっかりしてよね…原因不明の記憶喪失者が続出するこの事件、結構重要なんだから。」

「…そうだな。」


ここ、鬼灯町では不可解な事件が起きている。

被害者は大人であり、記憶の一部、酷い人は全てを忘れてしまう人が続出する連続記憶喪失事件。被害者の共通点があまりないことや、被害の規模から、なんらかの集団催眠ではないかとも言われている。シオンやアヤメが所属する組織ノワールでは、この事件を解決するため2ヶ月前に政府により連続記憶喪失事件を解決するための部署が設けられた。







「まず、名前と年齢を聞いても良いかしら。」


長机と、対になるソファに座るシオンとアヤメ、向かい合うは1人の少女である。

「あ、あの…水守カスミ、14歳です…」

銀髪の少女、水守カスミは怯えたように話す。アヤメはなるべく怖がらせないように話しかけた。

「そう、…水守さんね。何が起きたかを聞かせて貰らっても、いいかしら?」

「はい…えっと、1週間くらい前のことです…」



それはカスミが帰宅した時のことだった。ドアを開け、家に入る。そのとき、家には薄く霧のような靄が見えることに気づいた。カスミは火事だと思い急いでリビングに向かう。と、目の前に倒れている両親を発見した。

「お母さん!お父さん!」

カスミは2人に駆け寄り、呼びかける。

「大丈夫!?しっかりして…!」

大声で呼びかけても返事はない。

「お母さ……ん………?」

急に、自分の意識も揺らぎ、そのままカスミも倒れていた。


「…気づいたら自分も倒れてました。そして、起きた時…なんだか頭がふわふわして…ふと、自分が何歳なのか、今まで何をしていたのか思い出せないことに、気づいたんです。」

「そう…さっき年齢は答えられていたみたいだけど、記憶が回復したということ?」

「はい…目が覚めた時よりは、」

シオンは話していることをメモする。今までの調査上、記憶が回復するということはなかった。

「(もしかして、記憶が回復したのは…)」

「…実は最近起きている記憶喪失事件で、未成年の被害は、貴方が初めてなのよ」

アヤメはシオンの発言を先回りしたように言う。

「そうなんですか…」

「なにか、その…記憶が消されたことへの心当たりはあるかしら?」

「え、えっと…ごめんなさい。わからないです…」

「そう…わかったわ。今日は話を聞かせてくれてありがとう」

カスミはお辞儀をし、部屋から出ていった。


「んー…話を聞く限り、やっぱり、何が原因かがわからないな…」

シオンはメモを見返す。

「記憶喪失者の共通点は、大人だと思っていた。でも…唯一の共通点も…」

「…やっぱり、昔の笑い病とか、集団ヒステリーが原因とか…?」

アヤメは腕を組み、呟く。思考による沈黙、暫くして、それは彼に破られた。

「2人ともご苦労さま〜、随分考えてるみたいだけど、答えは見つかった?」

シオンは少し驚き、アヤメは顔をしかめた。気の抜けた声の主は如月ラン。シオンとアヤメの同期であり、制服を着崩していることからアヤメには不真面目と思われ、仲はよく無い。

「如月…。立ち聞きしてたの?」

「いやー入るタイミング見失っちゃってね。」

「貴方はこの事件は担当ではないでしょ。」

「冷たいな〜、同期が悩んでるから、僕も考えてあげてるのに…」

緊張感のない話し方に、アヤメは苛つく。

「余計なお世話よ」

「2人とも…、ところで、ランは何故事件が起きているかとかわかるか?何でもいいんだ、意見だけでも聞かせて欲しい。」

シオンは流れを変えるようにランに問いかける。

「そうね…。じゃあ、カスミさんの話から考えたことを話すね。」



「記憶喪失の原因は何らかの薬である。そして、カスミさんも、そのご家族も狙われたわけではない。」

少しだけ、空気が張るような感覚がした。

「如月…、それは…」

「あくまで、推測だよ?」

ランはにやついた表情のままアヤメに言う。


「ラン…」

「……、記憶がなくなった原因が薬ということは同意するわ。」

「アヤメも?そんなぁ、記憶を消すクスリなんて…」

「じゃあシオンは、集団催眠とかの方が現実的だと思うの?」

それも非現実的だ、と頭に過ぎる。ただ、とシオンは口を開く。

「どうして水守さんが狙われたわけでないと言えるんだ?推測を聞かせてほしい。」

「おーけー、まあそもそもなんだけどさ、」

ランの声が低くなる。


「この事件、誰を狙ったわけでもないと思うんだよね。」


沈黙。言葉の意味を理解するのに少しの時間を要した。

「えっと、…それは」

「無差別的に記憶を消している」


シオンの発言より早く、アヤメは話す。

「そお」

ランはそれだ!というようなジェスチャーをする。

「なんかさ、共通点がなさすぎるって思わない?この事件。」

ランは探偵がそうするように芝居がかった動きをする。

「2ヶ月前、最初の被害者は27歳のサラリーマン。」


「2人目の被害者は21歳の大学生の女性。」


「3人目は46歳公務員の男性。」


4人目、5人目とランは続ける。


「そして最後…14歳の女の子。…この被害者たちに一つでも共通点が有るかな?」


煽るような目をシオンとアヤメに向ける。

「全員が鬼灯町に住んでいる。」

アヤメはランを見ずに呟く。

「ああ、確かにね。…アヤメちゃんは何となく察しついた?」

「……そうね、」

シオンは2人の思考についていこうと必死に考える。

「(被害者は、鬼灯町に住んでいること以外共通点は無し。てことは……、)」


「つまり、この事件を起こしてる犯人の目的はー」

「実験だ…」

シオンは思わず呟いていた。ランはシオンの方を向く。

「いえす!」



共通点のない、いや正確には鬼灯町に住んでいるという前提条件しかない記憶喪失事件。要素が少ない、ランはそれを要素として考えた。記憶を消してしまう薬。そんなものがあればもっと有名になっているはず。だからまだ、実用的な薬ではないと推測した。


「記憶を消すなんて魔法みたいな薬…、そんなものがあればみんなが知らないわけがない。まだ、試作段階だから鬼灯町でそれを試しているんだ…!」

シオンは脳をフルに使い一つの結論に辿り着く。

「そうだね。でも、言ってしまうとこれもただの想像なんだけどねえ。」

ランは残念そうに話す。

「薬であれば、なんかこう…探知とか出来るんじゃないか?」

「確かにそうね、…シオン、試しに水守カスミの家に行ってみない?」

一瞬、怖がらせてしまうだろうかと考えたが、事件が解決する方がよっぽどいいと思い、シオンは同意した。

「ラン、ありがとな!」

「いえいえ〜」

アヤメとシオンは部屋から出ていく。残ったランは、おもむろに椅子に腰掛ける。


「……なんで、薬の可能性とかを考えなかったんだろうね、2ヶ月も。」

ひとり、そう呟いた。




「…にしてもさ、薬本当に狙った記憶を消せる薬なんてあると思うか?」

「…さあね、でも如月の言ってることは、特別おかしいとは思わないわ。」

シオン「だな…にしてもアヤメもランも頭良いなー俺は全然、思いつかなかったわ。」

アヤメ「確証なんてないし、考察だもの。それに、シオンも考えていたじゃない。」

シオン「いや、凄いって…それに…」

シオンは何かを呟いたが、アヤメには聞こえなかった。

「何か言った?」

「……。」

シオンなにも返さない。そこから沈黙のまま暫く歩いていた。と、シオンは徐にアヤメに話しかける。

「…ところでさアヤメってさ、恋人とかいるの?」

アヤメはとても驚いたように肩をあげた。一瞬俯いた後、すぐに真顔で顔を上げる。

「こ、こんな時にふざけてるの?…いないわよ」

アヤメの表情はいつもポーカーフェイスで、感情が読みづらい。

「そ、そっか…じゃあ好きな人は?」

シオンは言い終わった後、何言ってるんだ俺と心の中で思い、顔をアヤメから背ける。

「……」

今度はアヤメが無言をかえす。

「アヤメ…?アヤメ…ご、ごめん。こんなこと言ってる場合じゃないな… 」


「好きな人、ね」


アヤメは急に顔を上げた。


「アヤメ、?」

「着いたわよ。」


アヤメはクールに、そう言った。





カスミの家にて、2人は調査をした。壁や机、本を拭き取り、その布に機械を当て何か反応が無いかを確認する。家の殆どに至るまで確認をしたが、何も薬なるものは残っていない。時間が経ち過ぎていた、とシオンは考えた。1週間前、しかも粉などの個体ではなく靄のようなもの。恐らく気体であるそれはもう残っていないのである。


「何んの反応もないわね…埃くらいしか感知されないわ。」

「流石に時間が立ちすぎてるか…」


4時間後、シオンとアヤメは一旦ノワールに戻ることにした。


「お忙しい中、調査に協力してくださりありがとうございました。」

「いえいえ、時間解決のためですから。」

優しそうな、水守カスミの父親が挨拶する。隣にはカスミも一緒だ。

「ほら、カナエも挨拶しなさい。」

「カナエ…?」

シオンは聞き返してしまう。途端に、カスミの顔は悲しさを帯びていく。

「お父さん…私はカスミだよ…」

父親も、酷く辛そうな表情になった。

「あぁ、………ごめんな。」

父親は絞り出すような声でカスミに言う。

父に忘れられた14歳、そんな女の子と、父親の気持ちを考え、アヤメは見ていららなかったのだろう。

「シオン、行きましょう……?」

アヤメはドアを開けようとする。と、

「待ってくれ。」

びくりとアヤメは反応し、止まった。

「シオン…どうしたの…」

シオンの目の先にあったのは、鮮やかな熱帯魚が泳いでいる水槽。


「…この水槽、最後に水を変えたのはいつですか?」

父親は答えようとするが、娘のことを忘れてしまったことを再度確認し、どうも声が出ない。

「あの……。」


「8日前です。」

カスミは迷いなく言った。


カスミは俯いていた顔を上げる。目には涙を溜めているが、力強く言った。


「8日前…事件の1日前……!」

シオンはビンで、水槽の水を採取した。

「シオンさん、アヤメさん」


カスミはシオンとアヤメを真剣な目で見る。

「絶対絶対、事件を解決してください…!」





シオンとアヤメはノワールに戻り、直ぐに成分を調べる機械に検査をかけた。水槽の水には僅かに、花の毒が入っていたことがわかった。




「記憶装置の原因は薬…というか毒で確定。」

よくわかったわね、とアヤメはいう。

「あぁ、どうしても、見てられなかったから…」

シオンはあの苦しそうな顔を思い出し俯く。

「ねぇシオン」

顔を上げると、アヤメが真顔でシオンを見つめていた。


「こっちにきて。」




「この資料を見て」

資料室。アヤメは一つの本を手に取る。

「ん…?…アヤメ、これって…」

「ある科学者の手記」


「最愛の彼女が、事故で死んだ。結婚前夜の事だった。私はとても彼女のことを愛していた」



私はとても彼女のことを愛していた。それは不幸な事故だった。暗い夜道、信号のない道路。猛スピードの車が、彼女に突っ込んだ。私はそれから何日も家に閉じこもった彼女と結婚したら住む予定だった家に。毎日泣いて、毎日が無気力だった。でもいくら泣いても、後悔しても彼女は戻ってこない。どのくらいが時が経ったのだろう。私はおかしくなっていたのかもしれない。彼女のことを、忘れたいなんて。


それから私は、どうしたら記憶を無くせるのかだけを考え続けた。幸い私は科学に精通していた。私は科学薬品や薬草を狂ったように、研究し続けた。そしてついにそれは完成した。



「ブラン=アイリス、記憶を消す毒」

「あ、やめ…これって…」


アヤメは頷くようにして目線を外す


「……ついに、毒は完成した。私にとっては薬となるこの毒私は、今から、この薬を飲み干す……」


アヤメ「…この科学者の名前は、和泉ツルギという」



暗転




明転


2人は暫く沈黙


アヤメ「…シオンはこの資料、どう見る?」

シオン「和泉ツルギ…この人、聞いたことある気が…」

アヤメ「…他にも参考になる資料があると思うの」

シオン「そうだな…じゃあ当分は、この資料庫に篭って情報収集するか」

アヤメ「そうね。明日、朝は私はやることがあるから午後からここに来るわね」

シオン「了解、本当、頼りになるなアヤメは」

アヤメ「…これくらい普通よ」





次の日。

ランは椅子に腰掛け悩んでいた。


「おはよう如月君、考え事?」

「あ、あぁ…サユリ先輩」

黛サユリ。彼女はラン、シオン、アヤメの上司だ。


少し眠そうにしながら答える。


「はい…事件について考えてて」

「そう…何か思いついた?」

「はっきりとはわからないですが…狙われた人は無差別なんじゃないかな、と。」

サユリ「…無差別…?…如月君は事件の資料を見ていないの?」

「ぇ、…でも共通点なんて…」

「被害者の共通点はある。それはみんなが政府関係者だということ。…」


とくん、と鼓動がする。

「いや…被害者の共通点についての資料なんて…」

「…?1週間前に紅蓮さんから上からの資料です、と渡されたけど。」

ランは思考を巡らす。

答えはすぐに出た。

「……自分がこの調査に入ったのは1ヶ月前ですが…被害者の職業の資料は調査段階でまだ出ていなかった筈。」

「でも、紅蓮さんは資料をもって……」


「私の知らないところで、資料が出ていたのかしら……でもそんなはず…」

「…サユリ先輩」

「如月君?」

ラン「…資料、そういえば貰ってました!僕の勘違いだったみたいです。」

「そ、そう?…わかった、如月君は自分の仕事をがんばってね」

「はーい」


ランは腕を組み考え込む。

「理由はわからない、けど、少なくとも彼女は…」



「如月」

声が、聞こえた。

   

  






資料庫にて。


「あった、これだ…」


資料を見つけて手に取る。


「和泉ツルギ…科学者であり、記憶を消す毒を作った人…けど、本当にこの人が作った毒で記憶を消せるなら、」


和泉ツルギの死因は、崖から落ちた転落死…3ヶ月前に亡くなった恋人の後追いの可能性あり…



「毒が本物なら、後追いで死ぬ必要はない」


シオンは立つ。


「これが今の事件を解決する手掛かりになるかはわからないけど…とりあえずアヤメに相談してみよう。」





ランは振り返り、アヤメと対峙する。その時でも、ランはいつものような掴みどころのない態度をとる。

「…どうしてわかったの?」

「どうしてはこっちの台詞だよ…どうして僕に気づかせたの?」

「…」


「資料を隠す、かと思えば上司に渡す。行動が合理的とは思えないけど。」

「勘が良すぎるのはお互い様よ」

「ふふ、そう?」


間を空ける。


アヤメ「さて、…話はここまで」

ラン「つれないな〜まだ聞きたいことがー」


アヤメは銃を抜き、ランを撃つ


ラン「ぐっ、は」


足を撃たれ、膝をつく


アヤメ「それ以上、喋らないで」

ラン「あぁ、…失礼…、急いでるの、かな」


アヤメはランに近づき銃を向ける


ラン「何も、殺さなくても…お得意の毒で、記憶を消せばいいのに」



アヤメ「…それは、できない」

ラン「なんで、さ毒…今も持ってるでしょ…」

アヤメ「…貴方には、使わない」


アヤメとランは視線を交わす


ラン「最後に、一つ、聞いてもいい?アヤメちゃん、どうして君は、政府の隠密者になったのに、裏切るような事をしたの?」

アヤメ「……隠密者になったのは、家柄的に、流れで…」

ラン「裏切ったのは?」

アヤメ「……間違ってると思ったのよ記憶を消すという行為も、和泉ツルギが、寂しさを忘れるために作った毒を悪用することも…それだけよ」

ラン「そう…」




暗転

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


明転


ラン「…そう…」


ラン地面に手をついている。撃たれた足からは血が流れ出すが、致命傷ではない。

「……さよなら、如月」

アヤメは寂しそうに呟き、引き金に指をかける。



「アヤメ…?」



アヤメはその声に振り返らない。


「お、おい…どうしたんだ?…なんで、ランに銃を構えてるだ…?」

「……」


アヤメは銃を降ろさない。


「アヤメ!」


シオンはアヤメに手を伸ばし、近づく


アヤメ「動かないで」


銃をシオンに向ける


シオン「っ…」


アヤメはシオンを睨む


シオン「……話を、聞かせてくれないか?」


ここら辺でランはしれっとはける


アヤメ「……」


アヤメは銃を下ろす


アヤメ「もう、わかったでしょ?私が、この記憶喪失事件の犯人だって」

シオン「それは……、なんでこんな事をしたんだ?」

アヤメ「……仕方なかった、とでも言いましょうか」

シオン「……和泉ツルギを殺したのも、アヤメなのか…?」

アヤメ「…そう、ね」

シオン「アヤメは…一体何者なんだ…?」

アヤメ「…政府の人間よ、悪い、ね」

シオン「なんだよそれ…っ」

アヤメ「これ以上は言えない、貴方の命が危なくなるから」


間を空ける


「………はぁ、にしても、貴方には知られたくなかった。」

シオン「アヤメ…?」

アヤメ「誰かに気づいて欲しかった。でもそれは…貴方じゃなかった。」

シオン「何を、言ってるんだ…?」


アヤメはくるっと振り返る


アヤメ「シオン、貴方とノワールで仕事ができて良かったわ。でも、すぐに組織を抜けたほうがいいわ…これが私のできる精一杯の忠告…」


シオンは何を言っていいかわからず

アヤメを見ている


ーーーーーーーー

音声「なんかさっき、凄い大きい音が聞こえなかった?」

「銃声みたいな…」

ーーーーーーーー




アヤメ「…じゃあ、そろそろ行かなきゃ…」


アヤメは振りかえり、少し歩く


シオン「ま、待って!」


アヤメは驚いて止まる、そして首だけ振り返る


シオン「っ、はは…こんな時じゃないよな絶対…」


情けない表情をする


シオン「アヤメ…俺、こんな別れ方は嫌だ…だって、俺はアヤメのことがー」


台詞中にアヤメはシオンに近づく


アヤメ「ストップ」

シオン「!?」

アヤメ「それ以上、言わないで」


アヤメはシオンにひとつの瓶を渡した


シオン「アヤメ、これって…」

アヤメ「もう2度と、私たちは会うことはない」


アヤメは一歩下がる


シオン「……」

アヤメ「だから、その薬で、…私のことは忘れて。…そのほうが、きっと良いから…」


弱々しく笑い、後ろを向く


シオン「…アヤメ……」

アヤメ「さよなら、シオン」


アヤメがはける


シオンはただアヤメの行った方を見ている


シオン「記憶を消す、か…」



渡された小瓶を見る


シオン「そんなこと、するわけないだろ…っ」


シオンは泣きながら、しゃがむ


シオン「もう二度と会えない…そんなのは、関係ない…っ」


顔を上げる


シオン「俺は…満寺シオンは紅蓮アヤメのことが好きだった…時間が経ってしまえばいつかは、この想いは、薬を飲まずとも消えてなくなるか、後悔のままずっと、苦しいのかもしれない…だけど、それでいい…」


間を空ける


シオン「この苦しさが、寂しさという、俺にできた空白が…もう会えなくても、君を覚えていられるから…っ」












アヤメはランに銃を向けている


ラン「ねぇ、これから君はどうするの?」

アヤメ「どうって?」

ラン「君が政府関係者を記憶喪失にしているいわば隠密者だ。僕に気づかれた今、君はもう…」

アヤメ「さぁ?少なくとも貴方には、関係ないわ」

ラン「…冷静だね。シオン君はいいの?」


アヤメは少し焦る


アヤメ「なんでシオンの名前が出るのよ?」

ラン「あれ、僕の勘違いかな?君はシオンのことがー」





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