第11話 サラ

あれから延々とサラにロザリオ教の教義を聞かされ続けている。


うん、ありがたい話なんだろうけど、正直、ちょっと帰りたくなってきた…。


どうやってこの話を切り上げようかと頭を悩ませていたその時、ふと視界の端に小さい女の子が泣きながら歩いているのが見えた。


サラはそれに気づくと、すぐさま小走りで近づき、女の子の視線まで膝を曲げて優しく話しかけている。


「リョウさん、この子、迷子みたいなので両親を探してきます。」サラはそう言うと、女の子と一緒に親を探す決意を固めたようだ。


俺も仕事は夕方からだから、ここは男を見せるチャンスか?と思って、「俺も仕事まで時間あるから、一緒に行くよ!」と申し出た。


サラはその言葉に微笑んで頷き、俺は内心「よし、ポイントアップ!」なんて勝手に盛り上がった。


結局、女の子のことは直ぐに解決した。というのも、女の子のことを知っている人がいて、どうやらリーガルさんの家の近くに住んでいるらしい。


意外と簡単に解決しちゃったな…。


でも、どっちみち俺は仕事でリーガルさんの家に行く予定だったから、俺が女の子を送りに行くことになった。


サラとはここで別れることに。あの辺りは治安もあまり良くなさそうだし、サラ一人で帰らせるのは心配だ…。


「サラ。もしよかったら、明日も会えるかな?」思わず俺はサラに聞いてしまった。


どうやら、俺は彼女のことが好きになってしまったみたいだ。


でも、サラは申し訳なさそうに言った。「ごめんなさい。明日からロザリオ教の自治州に戻らないといけないのです。」


「えっ…でも、すぐに帰ってくるんだよね?」俺は少し焦りながら尋ねた。


サラは悲しそうな顔で答えた。「わからないの。問題が解決すれば帰れると思うんだけど…ごめんなさい…その…さ…さようなら…」


そのままサラは、去って行ってしまった。俺は呆然と立ち尽くし、何が起こったのか理解するのに少し時間がかかった。


すると、手をつないでいた小さい女の子がぽつりと一言。「おじさん、振られちゃったの?」


…しーん。


心の中が一気に冷たくなった。

まさか、出会って2日で振られるなんて…。


俺、ロザリオ教なんて信じねーぞ!泣きたい!


とぼとぼとリーガルさんの家まで、女の子と手を繋いで歩く俺。


さっきの振られショックから立ち直れず、まだ心はどんよりしている。


そんな俺を見かねたのか、女の子が「おじさん、元気出して」とか「大丈夫だよ」とか、やたらと優しい言葉をかけてくれる。


…なんだこの状況、5歳ぐらいの幼児に慰められてる24歳って、もう悲しすぎるだろ!


ようやくリーガルさんの家の前に着くと、アリサが外で掃除をしていた。


俺は気を取り直して声をかける。「アリサ、この子わかる?迷子でこの辺りに住んでるみたいなんだけど。」


アリサは女の子を見ると、すぐに「あ、この子、ノップさんとこの子だわ。私が送ってきてあげるね」と、しっかりと答えてくれた。


さすがアリサ、頼りになるな。俺は女の子にバイバイしてアリサに託した。


去り際に「あと、ザックにもう少し手加減してあげてね…」と、軽くお願いされるのだった。


「よし、初日の仕事、頑張るぞ!」と意気込んでリーガルさんに挨拶しに行ったんだけど、昨日話した部屋でしばらく待たされることに。緊張感が少しずつ高まっていく…。


「待たせたね。」苦笑いを浮かべながら、リーガルさんが部屋に入ってきた。俺は慌てて立ち上がり、ペコリと挨拶。


「いいから、そのまま座ってて。」とジェスチャーで示されて、俺はおとなしく椅子に戻った。


すると、後ろから初めて見る二人が一緒に入ってきた。「紹介するよ。彼らはカイロウ流の使い手で、サリバンとポールだ。そして、リョウ。」


サリバンとポールが席に着くと、リーガルさんが二人を指して俺たちに説明を始めた。「この二人、サリバンとポールは一緒に隊商の護衛をしながら旅をしているんだ。来週以降はテルミット共和国へ向かう予定で、短期間だけど、今回仕事を頼んでいる。サリバンは昔から私の知り合いでね、ベテランの護衛だ。何かわからないことがあったら、サリバンに聞くといい。」


その言葉に俺は少し安心し、目の前の二人に軽く会釈した。​


年齢は三十代後半かな。サリバンは細い狐目で、優しそうな雰囲気を醸し出している。


一方、ポールはおれと同年代の長い髪をポニーテールにまとめた爽やかな青年だ。


よかった…。この前、リーガルさんの横にいたラバンさんだっけ?あんなゴツい人と一緒に仕事だったら、ビビって話すことすらできなかったかも。


「基本的に、この三人で賭場、酒場、売春宿、第二区のシマを四の鐘から八の鐘まで見回りしてもらう。」


俺の頭の中では「四の鐘から八の鐘ってことは、だいたい18時から深夜2時までか…」


「この3人体制のチームを10チーム作ってある。実際に動くのは7、8チームだ。時間をずらしたり、場所を変えたりするからな。緊急事態があれば、他のチームが応援に来ることもある。そういうつもりでいてくれ。ここまでで何か質問はあるか?」


俺は緊張感が一気に高まり、つばをゴクリと飲み込んだ。やばい、初日からビビってるぞ…。


リーガルさんはそんな俺の腰回りをちらっと見て、「リョウ、得物は何を使うんだ?持ってない奴にはこっちで貸してるから、丸腰ってわけにはいかないだろ?」


え…得物?狩りに行くわけじゃないよな?俺の頭の中に疑問符が飛び交う。


きょとんとした顔をしていると、リーガルさんが「クックック」と笑って、「剣のことだよ」と教えてくれた。


そういうことか!と納得してよく見ると、サリバンとポールは細い短剣を2本ずつ腰に差している。


ちょっとカッコいいけど、俺はどうすりゃいいんだ?


「立派なものは貸せないけど、ひととおり揃ってるぞ」とリーガルさんが続ける。


えっと…竹刀とかはないよな?いや、さすがにないよな…。


ちょっと考えた後、意を決して聞いてみる。「木剣ってありますか?」


その瞬間、場の空気が一瞬凍りついたような気がした。俺、何か変なこと言ったかな…。


結局、アリサが遊びで使ってた木剣を貸してもらうことになった。


リーガルさんは心配そうな顔をしてたけど、意外にも手にしっくり馴染んで、悪くない感じだ。


そんなこんなで、俺たち3人は夜の街へと足を踏み入れた。

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異世界の剣聖物語 南極コアラ @hide4173

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