認知が歪んで行く現実を知る

白鷺(楓賢)

本編

うつ病を抱える中で、私が最も苦しんだことのひとつが、思考の歪みでした。ある日、自分にふと問いかけてしまいました。「何で、私ってこんなにダメなんだろう?」と。それは、自己嫌悪の深い渦に飲み込まれる始まりでした。その問いに答えが見つからず、ますます自分を追い詰める日々が続きました。気づくと、何をしても「私はダメだ」「どうせ何もできない」という考えが離れなくなっていたのです。


**ネガティブな思考の連鎖**


認知の歪みが始まると、物事を客観的に見ることが難しくなります。たとえば、些細な失敗があったとき、それを「誰でも経験することだ」と思えず、「やっぱり私は何をしてもダメなんだ」と極端に考えてしまいます。まるで日常の全てが私を否定しているかのように感じ、次第に自分の存在そのものを否定するような感覚に陥ることもありました。


その結果、他人の言葉や行動にも過剰に反応してしまい、ちょっとした冗談や軽いアドバイスですら、心に深い傷を残しました。自分に対してネガティブなフィルターをかけているため、周りからの支援や励ましも素直に受け取ることができず、逆にその言葉が責められているかのように感じることさえありました。


**認知の歪みがもたらす現実の影響**


この思考の歪みは、単に感情面に留まるものではありません。認知が歪むことで、現実世界においてもさまざまな問題が生じました。自分を信じることができないため、周囲の人に頼ることができなくなり、他人の言葉に過剰に影響を受け、判断力が鈍ってしまうことも増えました。たとえば、相手の何気ない発言を自分に対する批判と受け取ってしまい、距離を置いたり、無意識に反発してしまったり。気づけば人間関係も歪み、孤立感が深まっていました。


また、自己否定が強くなると、新しいことに挑戦する勇気も失われます。「どうせ無理だ」「また失敗するに違いない」という思い込みに囚われ、挑戦する前からあきらめてしまうのです。その結果、行動範囲も狭まり、ますます自分の可能性を閉ざしてしまうという悪循環が続きました。


**サポートの不十分さと社会的な影響**


さらに、こうした認知の歪みは、周囲のサポートが不十分であると感じた時に特に強まります。心ない言葉や期待外れの反応が、私の心をさらに傷つけ、「自分は本当にダメな人間なんだ」と思い込む根拠に変わっていきました。ときには、周りの支えがあったとしても、それを十分に感じられず、「もっと頑張れ」「ちゃんとしなきゃ」と自分を追い詰めてしまうこともあります。


そんな中、私は認知行動療法(CBT)を受けることにしました。この療法は、歪んだ思考パターンに気づき、それを少しずつ修正していく方法です。セラピストとのセッションを通じて、物事を客観的に見る練習をしています。しかし、それは簡単なことではありません。長年かけて歪んでしまった認知を修正するには時間がかかるし、時には非常に痛みを伴うこともあります。


**認知行動療法での気づきと課題**


「楽観的になりましょう」というアドバイスを受けることもありますが、これは私にとって現実的ではありません。現実を甘く見てはいけないという思いがある一方で、医師からは「少しだけ気持ちにゆとりを持つことが大事」と言われました。このアドバイスが、私の心に響きました。ゆとりを持つということは、自分に対して少しだけ優しくなること。過度な期待を抱かず、今の自分をそのまま受け入れることです。


認知行動療法のセッションでは、今もなお「自分はどうしてこんなにダメなんだろう」という考えが頭をよぎることがあります。しかし、セラピストと対話することで、その考えの根本にあるものを探り、少しずつですが修正していく作業を続けています。まるで心の中に小さな光が差し込んでくるような感覚です。


**未来への希望**


私にとって、認知の歪みを克服することは今も続く大きな課題です。しかし、少しずつでも自分の思考パターンを見直し、自己否定を和らげる努力を続けています。認知が歪むことは決して恥ずべきことではなく、それに気づき、向き合うことが大切だと感じています。


「もう少しゆとりを持とう」という言葉を自分に言い聞かせながら、少しでも穏やかな気持ちで日々を過ごせるよう、焦らずに歩んでいこうと思っています。


この道のりは決して簡単ではありませんが、認知の歪みを乗り越えることで、もう少し自分に優しくなれる日が来るのだと信じています。

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