揺るがぬ誓い

夕緋

揺るがぬ誓い

 向かいの家に住んでる二つ年下の香織には両親がいない。母ちゃんと父ちゃんは? って聞いたら、おばあちゃんと二人で暮らしてるって言った。

 そのばあちゃんがすっげー厳しいらしい。ゲーム買ってもらえねーのは当たり前で、スマホも触らせてくれねーんだって。だから、学校にこっそりスマホ持って来て使わせてやったら、すっげー喜んだ。先生と母ちゃんにはめっちゃ怒られたけど。

 でも父ちゃんは違った。「香織ちゃんはお家で出来ることが少ないから、いっぱい遊んであげなさい」って言ってくれた。

 だから、俺は今日も香織と遊ぼうとした。俺が持ってるゲーム機とかボードゲームとか、とにかくいっぱい公園に持っていって、好きなのを遊ばせてやるんだ。

 でも、今日の香織はなんか変だった。

 いつもは俺が手本を見せてやったら「私もやりたい!」って食いついてくるのに、今日は「すごいね」って言って終わりだった。

 カードゲームやろうぜって言っても「私は今日はいいよ」って言われた。ちょっとムッとして「じゃあ何しに来たんだよ」って言ったら、「……ごめんね」って。

 香織の顔からは感情が分からなかった。なんだか自分の気持ちを押し殺してるみたいな、そんな感じがした。

「……なんかあったの」

 香織は俯いた。何も言わなかった。俺もそれ以上言葉を続けられなくて、やけにカラフルなカードをなんとなく眺めていた。

「……あの、ね」

 何十秒か何分か経ったあとに、香織は泣きながら話し始めた。

「昨日ね、こっそりね、テレビ、見たの。おすすめしてくれたやつ。でもね、おばあちゃんにバレちゃって、すごく、怒られた。そんなもの見て笑うなって。おばあちゃん、健太郎くんのことまで言い出して、もう遊ぶなって、言ってきて、でも私、嫌だった……」

 香織はたくさん泣いた。なのに、俺、何も出来なかった。香織のばあちゃんに対してすっげームカついたし、香織が泣くの止めてやりたかったのに、黙って見てるだけだった。

 香織がようやく泣き止もうとしている時に、俺の母さんが迎えに来た。まだ鼻水すすって涙を拭ってる香織を見て、母さんは驚いた。俺はすぐに事情を説明した。

 母さんの表情は曇ったけど、両手で自分の頬をパチンと叩くと、香織の前にしゃがみ込んだ。

「香織ちゃん、辛かったね。よく頑張ったね。でもね、香織ちゃんは一緒に居たい人と居ていいし、笑いたい時に笑っていいんだよ」

 それ聞いたら、香織はもっと泣き始めた。声をあげて、母さんに抱きついて泣いた。母さんもそれを優しく受け止めてた。俺は、胸の中でモヤモヤしてたことを母さんが形にしてくれたから、ちょっとスッとした。


 家に帰ったら、母さんに話があるって言われた。香織のことだってすぐに分かった。

 母さんも香織のことをどうにかしてやりたいって思ってるけど、色々難しいらしい。俺、バカだから、“難しい”ってことしか分からなくて、どうしたら解決できるのか分からなかった。

 でも、一つ大事なことを教わった。俺はこれから絶対これを守っていく。

 俺は、絶対に香織を見捨てない。最後まであいつの味方でいるんだ。

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