第39話 やったぜ、案内人ゲットだぜ!




「〈纏雷〉!〈身体強化〉!」


 俺は強化した身体能力で的に向かって一気に駆ける。


「〈ショックブラスト〉」


 足の裏で〈ショックブラスト〉を地面に向かって放つことで普通の人では視認できないような速さに加速していき――


 ――バァァァン


 思いっきり、的をぶん殴った。

 音速に近いほどの速さで放たれた俺の殴りは大量の衝撃力を生み出し、的は木っ端微塵に砕け散った上に〈纏雷〉の効果で砕け散った的の木っ端は雷で焼かれて跡形もなく消える。


「……ど、どうだ!」


 俺は師匠の方の反応を伺う。


「ふぉっふぉふぉ、満点じゃ! まさかワシがイメージしていた動きと全く同じ……いや、それ以上の動きをしてくれるとは」


「よっしゃ!」


 俺は小さくガッツポーズする。


 訓練が始まって6日目にしてようやく目標だった〈纏雷〉と〈身体強化〉の同時詠唱ができるようになったのだ。

 嬉しさで小躍りしそうだ。


「しかし、まさか6日目で目標を軽々と超えるとはのう……実は最初、ワシはお主は精々、初級魔法程度しか使えるようにならぬと思っておったのじゃ」


「へ?」


「中級魔法を行使するためには少なからず、並列思考が必要になるのじゃ。この並列思考、ピクシーは訓練すれば1週間程度でできるのじゃが、どうやら多くの人間には難しいようでのう……確か、人間の中だと中堅の魔法使いくらいじゃないと杖無しで中級魔法を詠唱するのは難しかったはずじゃ」


 中堅の魔法使いくらいって……絶対に俺が1週間で辿り着いていいレベルじゃないよね?

 というか、そもそも……。


「つ、杖ってなんだ?」


「杖は人間が魔法の詠唱時に使用する補助器具じゃ。杖があると魔法の威力が増幅されたり、曖昧なイメージな魔法陣でも魔法が発動するようになる」


「それなら――」


「最初っからそれ使わせてくれよ!!!……なんてお主は思っているかも知れぬが、近接戦闘を得意とするお主が杖を持ったら物凄く邪魔じゃろう?」


 師匠は俺の声真似をしながら最もらしいことを言ってくる。


 実際に言っていることは理にかなっているから余計ムカつくな。


「とはいえ、魔法を身につけたお主はこれから、中距離での戦闘もするじゃろうから旅立ちの日にとっておきの杖を授けてやろう」


「流石、師匠!!! 信じてました!」


「掌返しが早いのう……」


 師匠は苦笑いをする。


「それはそうと、今日はこれくらいにしてゆっくりと休むと良い」


 まだまだ辺りは明るく、訓練を終わりにするには早すぎるような気がするんだけど……。

 も、もしかして!


「俺、破門になるんですか?! そんな……まだまだ、師匠から教えてもらいたいことが沢山あるのに!」


「なぜそうなる……お主、この6日間でちゃんとこの町を見て回ったか?」


「へ?」


 それは……多分、ない。

 食事は爺さんから食材を分けてもらったり、エルフ女から偶に貰ったりしていたから町に出る必要なんて無かったのだ。


 というか、ここに町と言えるような物があるのか?


「おい、お主、今何か失礼なことを考えなかったか?」


「い、いやぁ〜、なんのことだか」


 この人、人の心読めるのか?!


「違うぞ、お主が思っていることが顔に出やすいだけじゃ」


「うぐっ……」


 確かにそれはよく言われる。

 でも、自分じゃわからないんだよな……。


「まあ、それはそうと、ここにも町と言えるものはあるのじゃ。折角、妖精族の町に来たのじゃ。こんな機会、中々ないぞい? 是非、町を見て回ってみるといい」


「師匠がそこまで言うなら……」


 結局、お昼前に訓練は終わりになり、俺は妖精族の町を見て回ることになった。



 ――――――



「でも、ピクシーの町ってどこなんだ?」


 俺は一人、訓練場の前でポツンと一人、途方に暮れていた。

 どうしよう、場所がわからない。

 森の中は霧がかっているから下手に動くと迷いそうだしな。


 唯一の頼りである師匠はやることがあると言ってどこかへ行ってしまった。

 あ、そうだ、町ということはそこには沢山、人がいるはずだから……。


「〈魔力探知〉」


 すると、北側に沢山の反応があった。

 多分、ここが町なのだろう。


 道を通るのも面倒なので俺は自分に身体強化をかけて、森の中を突っ切っていく。


 そうして走ること約1分、木々の間から建物のようなものが見えてきた。


「ここが……妖精族の町か?」


 草木をかき分けるとそこには、幾つもの屋台があった。


 一番近くにあった屋台を見てみるとそこでは野菜や果物を売っていた。

 その中には、あのめちゃくちゃ美味しい桃もある。


 他の屋台では生鮮食品以外にも雑貨なんかも売っている。


 ここはどうやら市場というより、商店街みたいな場所のようだ。


「……おい、あれ見ろよ。噂の人間じゃねえか」


「は? 人間? そんなの居るはず……マジじゃねえか! なんでここに人間がいるんだよ!」


「馬鹿っ! 声がでけえよ……どうやら賢者様がダンジョンを攻略してもらうために招いたらしいぜ」


「嘘だろっ? あんな事件が起きたばっかりなのに人間を招くなんて賢者様は何を考えていらっしゃるんだ?」


 ……やはり、俺がここに来ることについて、ピクシーたちはいい感情を抱いていないようだ。

 そりゃあ、そうか。


 これなら師匠の用事が終わるまで待ってから、一緒に来ればよかったか?


「あれ? お前……あの時の人間じゃないか!」


 突然、後ろから誰かに話しかけられる。


 振り向くと、そこには見覚えのある赤髪のピクシーがいた。

 彼は確か、初日に話しかけてきた探索隊のリーダーの息子の……ガイルだ。


「今日はどうしたんだ? 確かお前は賢者様のところで訓練していると聞いていたんだが……」


 ガイルが訝しむような目を一瞬、向けてくる。


 いや、決してサボってるとか、破門にされたとかじゃないからな?!

 ……え、そうじゃないよね?


「師匠から折角なら妖精族の町を一度見て回ってこいって言われたからさ。来てみたんだよ……にしても、凄いな。こんなに栄えてるなんて」


「そうか……でも、人間の町の方が栄えてるんじゃないか?」


「え?」


「これは嫌味で言っているわけじゃなくて……お前ら人間の道具や服を見ていると俺たち妖精族より文明が発達しているように思えただけだ」


 ……確かに、日本の発達した文明に慣れている俺たち人間からすればこんな小さな町は大したことはないと思う。

 けれどそうじゃなくて――


「違うよ。俺が凄いって言ってるのはたったの100年でここまで町を発展させたことに対してだよ」


「それが凄いのか?」


「ああ、俺は凄いと思うよ」


 まあ、魔法が使えるピクシーたちならこれくらいできて当然と思わなくもないが、それは言わないでおこう。

 機嫌を損ねると面倒臭そうだしな、コイツ。


「そ、そうか……そこまで言うなら俺がこの町を案内してやろうか?」


「マジで?! 是非、お願いしたい」


「仕方がないな……ついてこい」


 やったぜ、案内人ゲットだぜ!




――――


メリクリ更新。

今年のクリスマスプレゼントは赤点でした。

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狂人バーサーカー系ダンジョン配信者だったのですが、美少女ダンジョン配信者を助けて丁寧な対応したら実はまともなことがバレました わいん。 @wainn444

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