第38話 ぜっっったいに許さないからッ!
「〈
私は顔面を蒼白にし、急いで死体も同然の彼に回復魔法をかける。
これでお腹の穴はとりあえず塞がったはず。
一応確認するけど……まだ生きてるよね?
私は彼の首に触って脈を確認、口元に耳を寄せて呼吸を確認する。
「生きてる……! まだ脈も呼吸もある!」
流石はゴキブリ……じゃなかった。
流石は探索者だ。
しかし、懸念点が一つあるとしたらさっきの魔法では内臓までは治せないというところだ。
このままだと死ぬのは時間の問題だ。
「ええっと、ええっと……そうだ、あのポーションなら!」
私は急いで倉庫まで走っていく。
とても希少なポーションだから盗られないようにここら辺に隠してたはずなんだけど――
「あった!」
私はそれを彼の口元に持っていき、流し込む。
「ごほっごほっごほっ!」
しかし、彼はそれを吐き出してしまった。
「ちょ、ちょっと! 飲んでよ!」
どうしよう……。
このポーションさえ飲ませれば彼は助かるのに、飲んでくれないなんて……。
ゼロ爺さんならより上位の魔法を使って彼の内臓を癒すこともできるかも知れないが、ゼロ爺さんは転移魔法が使えないため、ここに来るまで少なくとも10分以上かかるだろう。
それなら高確率でゼロ爺さんがここに着いた時にはすでに彼は死んでいるだろう。
私の脳裏に一つの考えがよぎる。
死ぬほどやりたくない方法……しかし、今の私に他の方法なんて思いつかなかった。
「ああ、もう! あのクソジジイぜっっったいに許さないからッ!」
私はヤケクソでポーションを口に含み、彼の口に自分の口を近づけた。
――――――
「はあはあ……おえっ、思い出すだけで気持ち悪い……」
私は洗面所で何回も何回も口を濯ぎ、唇を何回も洗う。
初めてがよりによって人間となんて……。
本当に死にたい。
私は30分以上、唇を洗うとリビングへ戻り、彼の様子を伺う。
「はあ……こっちは最悪な気分だっていうのに随分と呑気な寝顔して眠るわねぇ」
彼はソファで安心しきったような顔をして安らかな寝息を立てていた。
なんだか、見ていると一発ぶん殴りたくなってくるわね。
「うん? なにかしらこれ」
リビングを歩いていると何かノートのような物が足にぶつかった。
どうやら、彼の鞄の中に入っていたものがさっきの戦闘の余波で床に散らばったらしい。
私はそれを拾い上げ、彼の鞄の中に入れようとするが――
「『配信の心得』……どういうことかしら」
ノートには『配信の心得』と書いてあったのだ。
配信……知らない単語ね。
もしかしたら、このノートには彼の企みが書いてあるのかも……。
私は魔が差して、そのノート開いてしまった。
「なるべく、強い口調で過激な発言や煽り言葉を言う……?」
どういうこと?!
私はさらにページをめくっていく。
次のページには『過激発言台本』というタイトルがついていた。
「『クソ雑魚』、『下等生物』……『陰険』?」
陰険……思い出した、彼が今日、エルフを馬鹿にした時に言った言葉だ。
彼のあの発言ってわざとだったの?
でも、どうして……。
私はそれが気になってさらにページをめくっていく。
「これって……」
最後のページには中級魔法の魔法陣がびっしりと書き込んであった。
というか、これ全部〈ファイアランス〉の魔法陣じゃん。
ますます、彼が何をしたいのかが、わからなくなってきた。
でも、少し気づいたことがある。
それは『彼がこちらに敵意や害意がない』ということだ。
逃げたい気持ちや愚痴を言いたくなる気持ちはあると思うのだが、彼は10年前に私たちを襲ってきた人間ほど悪い人間じゃないと感じたのだ。
「あーもう! あのクソジジイ、絶対、絶対、ぜっっったいに許さないからッ!」
私は絶対にぶん殴った上で無理難題を押し付けてやろうと心に誓った。
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