14話 嵐 2/2

 コテージの外には、警備の人々が無惨に倒れていた。うめいているのは生きている。致命傷を負った状態で時間を盗まれ停止している者の方が多いか。

 すでに草加の戦闘が始まっているようだった。具体的には金色の結晶装甲を纏う仮面バトラーが草加を宙に投げていた。草加は空中で回転しながら落下している。初めて見る敵だな。まあいい。どっちにしろ叩きのめすんだ。加勢しよう。


「シンクロ・ハーモナイザー:フリーズレンズ、装着ッ!!」


『DNA認証、管理者アドミニストレータ権限を確認。シンクロ・ハーモナイザーを起動。適合値変更キャンセル。結晶装甲、強化スーツ、仮面を変換します』


 いつものように白い仮面バトラーに変身する。

 フリーズの力が便利なので俺はここ最近ずっとシンクロ・ハーモナイザーを初手から使っている。


「何処を見ているエージェント・レッド!!」


 テンペストの声が聞こえ、攻撃が飛んでくる。直撃する。まあまあ痛い。野球のピッチャーが投げた球が直撃したくらいの痛さ。耐えられる。

 予定変更。テンペストから倒す。

 二十メートルくらい離れた距離にいる。いつもの青い結晶装甲を身に纏い、槍を手に持っている。遠距離攻撃ができそうな武器は見えない。

 慎重に歩いて距離を詰め、相手の攻撃方法を探る。

 テンペストは槍を振り回す。何か攻撃を受ける。今回は勘で剣を振って防御に成功する。風だな。

 どっちにしろ遠距離攻撃をしのぎつつ相手を倒すには接近するしかない。


「嵐の刃」

「氷の柱」


 お互いに何をどうするか宣言する必要はないのだが、気分として叫んでいる。

 テンペストは嵐の刃を飛ばしてくるが、それよりも俺の足元から氷の柱が伸びる方が早い。一撃で柱は砕ける。だが俺の狙いは防御じゃあない。

 次々と氷の地面と柱を広げていく。嵐の刃が飛んでくるよりも俺の柱が増える速度の方が早い。そして森のように生えた氷の柱の間を仮面バトラーの脚力で走り回る。

 俺の間合いにテンペストを捉えた。我が剣は並みの時間怪盗を豆腐のように切り裂き、仮面バトラーといえど無事で返さない。


「凍剣抜刀――」


 凍てついた鞘の抵抗を、我が剣が力尽くで走り抜ける。


「暴風装甲!!」


 刀身の先に延びた氷の刃がテンペストの周りに発生した暴風で砕ける。砕けるが、暴風に切れ込みは入れた。


「燕返し」


 全く同じ場所に更に斬撃を叩き込む。

 氷の刃はテンペストの右腕を軽々と切り裂く。そのまま勢いを落とさず右脇から左側頭部にかけて滑り抜け、人体を両断した。

 これは一般論だが、頭部を切断された者は脳を破損し、死ぬ。テンペストは死んだ。俺が殺した。




 破嵐ムイチロウの軟禁されている地下室に招かれざる客が二名侵入していた。

 奇しくもテンペストが仮面バトラーレンズにより斬殺された瞬間と同時に二人は現れた。コテージから地下室に続く道をひっそりと降りたのかまたは違う方法で侵入したのかは定かではない。

 一人は白い仮面バトラー。彼は銀色の強化スーツの上に白い結晶装甲を纏っている。肩には金に輝く肩章。仮面は白い骸骨似ていた。その額からは白い結晶の角が伸びていた。

 もう一人は今まさに死んだと全く同じ見た目の青い仮面バトラーだった。武器は槍の代わりに刀を二振り帯びている。


OKハラショー!もう一度説明致しましょうか。わたくしはエージェント・ホワイト。ムイチロウ氏を招待しに参りました!我らの中でも氏を勧誘するかそれとも死んで頂くか意見の別れる次第でして!上で暴れているのは死んで頂きたい者たちなのでわたくしとは意見が異なります!」


 白い仮面バトラー――ホワイト――がベラベラと喋る。身振り手振りは大仰で、ボディランゲージが大袈裟であるほど相手が説得されてくれると信じているようだった。


「ちなみに君、儂が素直についていったのならば孫娘の身の安全は保証してくれるのか?」


 ムイチロウはホワイトに尋ねる。生殺与奪の権利は相手が握っている。だが相手が交渉の通じる相手ならば言葉で時間稼ぎができる。


「少々お待ちください。確認致します」


 ホワイトは隣に立つ青い仮面バトラーに顔を向ける。何か口にしかけて咳をして誤魔化す。


「ゴホンゴホン……ブラック」

「ウイヒメの確保のメリットは未知数です。けいの好きになさればよろしいかと。当方の望むものはないので」


 青い仮面バトラー――ブラック――はホワイトの問いに答える。

 ムイチロウもウイヒメもその声を何処かで聞いたことがあると不思議に思っていた。若い女性の声だった。

 にとってウイヒメを確保することでメリットはある。そのメリットが大きいか小さいかは不明で、そして今すぐに必要なほど切羽詰まってはいない。


「本当に私の好きにしてよろしいか?」

「……当方が何を言おうと、けいの腹は決まっているのでしょう?」


 ブラックの発言にホワイトは腹を抱えて笑い出す。ブラックはそれを仮面ごしにも分かる無表情で眺めていた。二人はお互いに気心の知れた仲のようだった。


「ハハッ!貴方には叶わないな。おっと、手が滑った」

 

 ホワイトは何処かから取り出したリボルバーを撃った。適当な狙いはムイチロウを貫く。ホワイトは二度三度と撃つ。これが誤射ではないことがはっきりと誰の目にも明らかだった。


「さっきまで祖父を連れていく話をしていて、僕の処遇を考えていたはず。その流れで何故撃った?」


 ウイヒメは白と黒の二人に尋ねる。自分の生殺与奪が相手に握られていると、突然の発砲というあまりの驚きに忘れてしまっていた。


「グレゴリー卿はもっともらしいこともおっしゃいますが、全てが偽りでして」

わたくしはホワイトでございますよ、ブラック。我らに新しく加わった彼の者に全て任せるのは正直面白くないかと思い……」


 先程、ホワイトがムイチロウに語った話は全くの噓ではない。テンペストと金色の仮面バトラーはムイチロウを殺そうとしてやってきた。そしてホワイトたちはムイチロウがどうなっても良かった。

 確保できれば良し、始末しても良し。とにかく外部にタイムレンズを製造・研究できる者が居なければ十分だった。


「ムイチロウ殿を馬車馬のように働かせるのも悪い判断ではないと思っていましたが。まあいいでしょう」


 ブラックはムイチロウを決して低く評価していなかった。天才と評価していた。だがその程度ならばをかければ凡人でも同じことができると認識していた。 

 二人はそのままウイヒメに背を向ける。まるで仕事は済んだとでも言わんばかりである。


「待て!逃げるのか!?」


 ウイヒメは二人に怒りをぶつける。祖父を遊び半分で殺してはいそうですかと帰せるほどウイヒメはお人好しではなかった。


「逃げる?違いますよ。今日の仕事は終わったので帰るのです。誰だって定時で帰れる日は定時で帰りたいでしょうよ?」

「……グレゴリー卿。ついでですしウイヒメも持ち帰りましょうか」


 ブラックはムイチロウは凡人でも代替可能と認識していたが、ウイヒメについては違った。得体の知れない能力を持つお嬢様。研究材料や他にも使い道はあると認識していた。今すぐ必要ではないが、ついでに確保できるならば確保したい。

 

「ホワイトですよ」


 ホワイトがブラックに返事をしながらウイヒメに手を伸ばす。


「嫌ッ!!」


 ウイヒメがホワイトの目の前から消えた。そしてホワイトの肘から先も消えてなくなっていた。


「欲を出して馬鹿を見ましたねグレゴリー卿」

「ホワイトです。空間移動系でしょうか。腕を無くすのは面白くない損失ですぞ」

「……腕の一本や二本くらいでガタガタ抜かすな」


 二人は仕方なしに地下室を荒し、ストリングスや仮面バトラーレンズに気づかれる前に逃走した。

 


 





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【連載版】仮面バトラーレンズ 遲?幕邏咎哩 @zx3dxxx

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