14話 嵐 1/2

 草加に運転してもらって長野の避暑地に用意されたコテージに来た。警察の車を俺が運転するわけにもいかんからな。周囲を鉄条網で囲まれ、銃を持った警備に守られたコテージ。普通ではない。

 要監視対象スペシャルゲストに会いに来たわけだ。

 草加か薄羽刑事に取り次いでもらわないと会うことも難しいんだが、今回は草加にアポイント取って貰った。

 コテージに入るとコンクリート打ちっぱなしの地下へ続く階段があり、降りていく。

 階段を降りきると鉄の扉があり、それを開く。

 理科室のような長机が並んでいる。実験室という趣きがあり、実際その通りだ。


「フハハハハ!久しぶりだな孫娘よ。あと男二人」


 この爺が一代で上場企業を築き上げ、かつ発明家として稀代の天才。破嵐ムイチロウだ。

 頭を丸め、白衣の上に輪袈裟をかけている。なんか知らんが仏教に帰依したらしい。

 ムイチロウは経営を引退して、趣味で登山をしているとタイムレンズの原石を見つけてしまった。

 そこから時間硝子を作り出せてしまい、時間怪盗の登場から危険視され要監視対象スペシャルゲストとして軟禁されることになった。

 政府から監視拘束されるが、それはそうと研究はして欲しいという気持ちがこの空間なわけだ。


「お元気そうでなによりです。例の如く時間怪盗絡みの話で来ました。草加さんお願いします」


 ウイヒメは身内相手なので対応が適当になり、アイスブレイクもなしに仕事の話を進めようとしている。他人相手だともう少し丁寧な対応するからな。


「ムイチロウ博士。仕事の話で参りました。現在の状況について聞かせて頂きたい」


 流れるように草加が話を続ける。


「ストリングスの修理で原理は理解していたのでスムーズに進んだ。空白ブランクの原石をストリングスと同じように調整して、極小のコンピュータいやナノマシンで挙動を制御し、複製した専用OSを搭載し」

「専門用語が多すぎる。簡潔に説明してくれ」


 あまりにも説明が長く複雑になりそうなので途中で遮る。俺が止めなきゃ2時間くらい喋り続ける調子だったぞ。


「ストリングス・レプリカとストリングスのタイムレンズを搭載した適合調整機は完成した。儂の監視が解除されたのならば、ノーベル賞を二つ三つ取ってみせるくらいの成果を出せたぞ」


 黒いサングラス――ストリングス・レプリカのタイムレンズ――と無骨な金属バックルのベルトが机に置かれる。


「適合調整機は凄いぞ。タイムレンズと装着者の適合を調整する。人間を超えた本物の超人を作り出す。適合値20程度の者を60にすることも可能だ」

「俺は適合値100だが……」


 システム音声に寄れば俺の適合値は100である。俺が望めば100を超えることも容易たやすい。

 ムイチロウがのたまう理屈によれば俺は超人ということになる。


「君は正真正銘の超人だよ。論外」


 茶化しのない澄んだ瞳でムイチロウがきっぱりと断定する。超人。超人なのか俺は。


「俺も超人になりたかったが、すでに超人なのか。じゃあ超人になれないな」


 自分が人間の標準を逸脱しているらしいことを茶化していく。俺は怖かった。


「通りでこれが無用の長物だったのか」


 意識して腰にを出現させる。普段はタイムレンズ同様に何処かにしまっている。何処にしまっているのかはわからない。たぶんタイムレンズに付随する装置としてタイムレンズの機能で異空間に収納されているのだろう。


「君が望めばいくらでも適合値は上がるという報告をウイヒメから受けている。その装置を付けてもフリーズのタイムレンズを同時に使える以上のメリットは特にない」


 シンクロ・ハーモナイザ。これを奪ったはいいが本当にフリーズの力を使う以外で使い道がない。

 突如として地響きで地下室が揺れ、爆音が上から聞こえる。


「お客さんのようだな」

のエージェントか」


 ムイチロウは至極冷静。俺はまあ時が来たなあと思った。以外でタイムレンズを整備できる人間を見逃すとは思えない。


「ストリングス。これを使うがいい」


 ムイチロウは適合調整機を草加に渡す。


「承知」


 草加は適合調整機を腰に巻き、さっきと逆順で上に上がる。

 俺もそれに続いて上に上がる。











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