第3話 ゴッドブリッジ

神殿を抜けると広大な庭園が広がっていた。数百メートルほど歩いた時カーチャの足が止まる。


「カーチャどうしたの?」


「···どっちに行ったらいいか考えてた」


「んー···どっちみちカーチャが向こうに行けなくしちゃったから真っ直ぐ行くしかないんじゃない?」


「それでいっか·········早く魔物と会いたいな〜」


カーチャが悩むのも無理はない。遠くを見ても自然しか目に映っていない。そして教国内は女神のお膝元。結界で覆われており魔物の侵入はほぼ不可能である。気配を探る魔法を放っていたが反応はまったくない。召喚を行なう神殿だったため、この場所は教国内でも端の方にある。そんな彼女達をよそに神殿内では新たな動きを見せようとしていた。


「先ほどの暴虐は女神への不敬である。かの者らの情報を教国全土へ送り直ちに異教徒を殲滅せよっ!!


それと······応じてくれるかわからないが神徒にも応援要請を出せ!あの者の魔法力は危険だ···即刻処分しなければならない」


カーチャの作り上げた壁を破壊しようとしているが傷ひとつすらつかない。教皇達はまったく身動きの取れない状況にあった。


数時間後、ついに変化が訪れる。


「イゴール···神徒はあなたの要請に応じる必要がないのはわかってるわよね?」


「···ユミルか。あれを見ろ···教国兵を殺害した異教徒が出したものだ···判断は間違っていないと思っている」


「これはなかなか···歯応えのありそうなターゲットね···兵を外してもらえるかしら?」


教皇が目で指示を出す。


「ユミル様の邪魔にならぬよう総員退避せよっ!!」


神殿内に大きな声が響き渡る。召喚者達はその声に体をびくつかせた。ユミルは静かにゆっくりとした足取りで壁の前へと向かっていく。壁の前へと立つと、何もなかった手にはランスのような槍が存在していた。


突然鳴った爆発音。分断していた壁に大きな穴が空いてる。


「···さすがは神槍使い···。


神徒の空けた穴より追撃せよっ!!」


走りながら隊列を組み上げる教国兵はどんどん穴を通過していった。一方カーチャ達は庭園を抜け、街まで辿り着いている。


「ねぇカーチャ〜?お腹空かない?」


「でもお金ないよ?···奪う?」


「あぁ···そういえば貰ってこなかったもんね。奪うのはありなんだけど民からは避けたいところね」


「じゃあこのまま街をでよ?」


カーチャとリーシャは欲望のままに勢いで行動していた。後先考えない者がリーダーとして動くのは無謀である。しかしながらリーシャの従者達はこれに慣れていた。


「姫様。この先にある橋を渡った先にさらに街があるそうです。そこを抜ければ魔物などがいる平原に出れるらしいですよ?」


ケインがリーシャにそう告げるとリーシャは嬉しそうにカーチャと共有し始めた。これはケインが情報収集のために街へと放った部下達からもたらされた情報。それを元に進むと重厚な門が見えてきた。近づいて見ると金属のような光沢で輝く門が存在感を主張してくる。門の前にさらなる門があった。簡易的な詰所のような建物である。


「おや···君達は召喚者かい?」


「···外に出たい」


「ははっ!そうかそうか!さっき召喚されたばかりなのに随分早い到着だね。心配ないと思うが犯罪歴が無ければ門が通してくれるよ。犯罪者だと弾かれちゃうんだ」


「そうなんだ〜おじさんありがとうっ!!カーチャ行こっ!」


カーチャとリーシャは嬉々として奥の門へと駆け込む。一方従者達は嫌な予感がしていた。さきほどの話の中にあった犯罪者という言葉が原因である。


「痛い···」

「いったぁっ!!」


案の定2人は門の手前で見えない壁に激突する。


「なにっ!?·········っ!」


門番が振り返ると同時に鮮やかな一撃で意識を失わせるアルの姿があった。


「やれやれ···どうやら犯罪者になってしまったらしいですね?」


「······まぁ······強行突破よっ!!」


苦笑いを浮かべながらも従者達は厳戒態勢へと移行していた。どうやらこの程度のことは日常茶飯事のようである。


「「「「「っ!!」」」」」


大きな気配を感じた従者達が一斉に門の方へと視線をやった。するとカーチャの頭上には様々な色の球体がある。その数およそ100。近くにいたリーシャは驚愕の表情を浮かべていた。


「どーんっ!」


カーチャの掛け声とともに球体が門に向かって突撃していく。まるで爆弾が連続で投下されているかのような爆撃音が辺りに響き渡る。


「···むぅ」


眉を顰めるカーチャ。門は何事もなかったかのようにそこに存在している。


「やれやれ···君達はここがどこかわかっているの?ここは女神様のお膝元でその程度でゴッドブリッジに傷なんてつけられないよ?」


声がすると同時に一行の視線は後方へと向く。そこには黒髪の女が立っていた。さらりとしたロングヘアー。片目は美しい髪によって完全に隠れている。まったく気配を感じさせずに後ろをとられたことで従者達の警戒レベルは一気に引き上げられることとなった。視線を合わせたまま両者は動かない。


「···あなたは何者?」


沈黙を破ったのはリーシャ。敵なのか味方なのかを把握する必要があったからである。


「私?そうね············女神様の忠実なる僕···と言ったところかしら?」


「·········なら女神様が召喚した私達を見逃してくれるのよね?」


「···女神様からの指示は出てないのよね·········ただ教皇からは援軍要請をもらっただけよ?」


「······アル!リーゼ!」


「マジックアロー」


何処からともなく現れた矢が女へと襲いかかる。不敵に笑みを浮かべた女。何事もなかったかのように容易くそれを避ける。


「散れっ!!」


アルが身の丈はあろうかという大きな剣を振り下ろしている。


「まだまだね」


「···!!」


女はか細い腕でその大剣を止めて見せた。そして女の体が突然そこから消える。


「···やりますね」


ケインが気配を殺しながら背後から放った蹴りに反応したようだ。


「なかなかいい連携力ね···でもまだ届かないわよ?」


「······精鋭といったところかな?面白い······」


「姫様っ!?」


シャルの静止を振り切りリーシャが徐ろに女へと歩み寄る。


「そんなに殺気を向けられる覚えはないんだけど?」


「···我が名はリーシャ!アトレーテース国第2王女であるっ!!」


剣先を女に向けながらリーシャは名乗りを上げた。存在感が増したリーシャを見て女は少し口角を上げる。


「命唱。我が名はユミル。神徒No.VIIIなり」


ユミルの言葉が終わると彼女の存在感が増していた。その手には槍が握られている。

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銀と虹〜剣者のスキルを貰ったけど剣なんていらない〜 ハイロリ @rore

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