第2話 ウラニア·トクソ教国

どれくらいの時が経ったのだろうか。明くる日も明くる日も魔法の練習を重ねた。美しい銀髪だったカーチャの面影はない。ブロンドヘアーに散りばめられた色彩鮮やかな色達。女神と並ぶとお揃いの髪色をしているかのようだ。まるで塔の上のお姫様のように編み込まれた艶やかな髪質。少し大人っぽくなりさらに美しさは際立っていた。


ソウルを使い、様々な魔法を使った結果髪色は変質し髪型は女神の完全な趣味である。カーチャの年齢は24歳になっていた。しかしそれは女神の手によって不老を付与された結果に過ぎない。実際には1000年以上の時間を過ごしている。


ここは女神の手によって隔絶された空間。元の世界との時間軸すら超越している。カーチャにとってはあっという間のことであっただろう。念願の魔法の練習。楽しいことは時間を忘れる。それは女神も同様。推しとの生活···時間を忘れるには充分であった。


「うん!カーチャいい感じよ!」


「そう?ねぇイーちゃん?次は?次は?」


「ふふっ···今ので魔法は全部よ!頑張ったねカーチャ」


「むぅ···残念···もっと練習したい···」


「それはあっちに言ってできるわよ·········って······こんなに時間経ってるの······やり過ぎた·········」


「?いーちゃんどうしたの?」


「うぅん!なんでもないのよ!可愛いから問題なし!じゃあ名残惜しいけどそろそろ行ってもらおうかな?」


「···お別れかー」


「ふふっ!また会えるわ···っ!」


女神に突然抱きつく。カーチャは魔法の修行を通してだいぶ懐いていた。そして女神は鼻血を出していない。これも修業の成果のひとつなのだろう。代わりにカーチャを吸って匂いを堪能しているのは変質者にしか見えない。


「何かあったら私が助けるから心配しないでね!じゃあ······カーチャいってらっしゃい!」


「うんっ!!イーちゃんまたねぇ!ありがとう!」


カーチャは光に包まれ消えていった。


「やばやばやばやばやば······カーチャ最高っ!!あー···食べちゃいたいくらい可愛い過ぎるぅぅぅぅ!イーちゃんがしっかり見守ってるから頑張って······はぁはぁ···カーチャのおぱんちゅ最高·········」


女神は変質者ではなく変態であった。


カーチャが目を開けるとそこには多くの人がいた。数千人はいるかもしれない。広い神殿のような場所。屋根はあるが外周には何本もの石造りの柱。床面には見たことのないような文字列がびっしりと並んでいた。


「ねぇ?あなたどこかのお姫様?」


「ん?あなたは?」


「私はリーシャ。雰囲気がお姫様っぽかったから声掛けちゃった」


声を掛けてきた女性は赤髪のコーンロウ。目鼻立ちがくっきりとした美人顔。これが後に結成されるギルド虹の魔女のNo.1とNo.2の初めての出会いであった。


「姫様っ!!困ります!いきなり動かれては···探しましたよっ!!」


「あらシャル···護衛なのに弛んでるんじゃない?ちょっと気配を消したくらいで···」


「···そちらのお方は?高貴なお方かと思われますが···」


「カーチャだよ?」


「ったく···シャルの言う通りですよ?どんな危険人物が紛れ込んでるかわかりませんから」


「そんなゾロゾロ連れてこなくていいのに···かえって目立って危険じゃないの?うふふ···。


カーチャ紹介するわ!この若くてうるさいのが執事長のケイン。そっちの鎧を着てるむさ苦しいのは第1騎士団長のアル。で可愛い方が第2騎士団長のリーゼよ」


「じゃじゃ馬過ぎですな姫様」


「リーシャったらもうお友達見つけたの?」


「ん···リーシャってお姫様なんだね?でもわたしは違うよ?うーん···強いて言うなら魔女?」


「魔女っ!!どんな魔法が使えるの!?」


「リーシャ達も魔法が使えるのっ!?」


魔法の話題が出たことによってカーチャの興味が彼女達に向く。その時銅鑼の音が鳴った。


「静粛にっ!!教皇様よりそなたらにお話しいただくっ!!」


「ウラニア·トクソ教国教皇のイゴールだ。女神様からの神託により諸君らを召喚した。女神様からもご説明があったと思うが···目的は女神様が異文化交流を望んでいらっしゃるからである。基本的に何をやって欲しいかなどはまったくない。各自好きに過ごしてくれて構わない。


国々で法律などは違う。冒険者ギルドでその国の法などを知ることが可能だ。各自確認するように。それでは少ないが支度金を渡す。1週間はそれで暮らせるはずだ。あとはそれぞれで稼ぐこと。働かざる者食うべからず···以前来た召喚者の言葉だ。異論は受け付けない。


それでは順番に並んで受け取りに来て欲しい。その際スキルは一応調べさせてもらう。それから···ここは神殿である。それに伴わない行動をする者には支度金は渡さないのでそのつもりでいるように!全員分用意しているので急がなくてもいいぞ?以上だ」


教皇の言葉が終わると緩やかに列が出来ていく。事前に女神から説明を受けているためそれほど混乱することもなかった。態度や文句が酷い者は既に女神の手によって処されている。


「···あら?カーチャは貰いにいかないの?」


「ん···いらない···それより魔法を使いたい」


流れに逆らってカーチャは反対方向へと歩いていく。出口に辿り着こうとした時、鎧を着た兵士がその進路を塞ぐ。


「お戻りくださいお嬢さん。スキルの確認は規則となっておりますので···」


「···好きにしていいって言った。それにイーちゃんも個人の自由と言ってた···あなたはわたしを邪魔するの?」


「ですが···規則ですの···っ!!」


「わぁおっ!」


神殿の柱の1本が大きな音とともに崩れ去る。先ほどの兵士は柱に叩きつけられ気を失っていた。神殿内の視線がカーチャに集中する。


「その者を捕らえよっ!!」


カーチャの周りを兵士達が囲む。


「ねぇ?イーちゃんが···女神様が自由にしていいと言ったのになんで邪魔するの?邪魔するなら死んじゃうよ?」


カーチャの言葉を聞いても兵士達は道を開けない。そんな様子を見てカーチャは進路上の兵士に指を向ける。


「じゃあね?」


爆発音とともにその兵士達の体は爆散した。


「あはっ♪······また邪魔するの?邪魔するやつはイーちゃんが排除していいって言ってたから遠慮しないよ?」


塞いだ穴を塞ぐかのように新たな兵士が現れる。


「カーチャっ!!何してるんだ!!やめるんだっ!!」


「どけっ!!」


「うるせぇっ!!あいつはそんなやつじゃないんだ!!」


「邪魔だっ!!こいつを捕らえろっ!!」


「ちょっとっ!!やめてよっ!!サーシャもやめてっ!!」


「うるさい···お前もどけっ!!」


カーチャを止めに入ろうとしたサーシャは兵士に暴れながら連行されていく。そんなサーシャを助けようと動き出したアーラ。彼女は勢いよく兵士に吹き飛ばされ気を失ってしまう。


カーチャはめんどくさそうに再び排除に動き出そうとしていた。その時、カーチャの背後の兵士達が宙に舞う。


「なに楽しそうなことしてるのカーチャ?私も混ぜてくれない?」


「ん···リーシャ?あの人達邪魔するから嫌い」


「ふふっ!突っ切りましょう!!」


「楽しそうだね?」


「姫様っ!!」


勝手に動き出したリーシャを止めるべく、彼女の従者達が後を追ってくる。


「物足りなくてこの世界に来たんだから暴れないとつまらないでしょ?


アルっ!!あなたも好きに暴れなさいっ!!

皆の者っ!!この世界での初陣よっ!!強行突破するっ!!私に続けぇぇぇぇっ!!」


やれやれといった表情で従者達は兵士に向かっていく。その数150名弱。教国の兵士の数を上回っている。次々に無力化されていく兵士達。そんな中、カーチャは出口へ向かっててくてく歩いていく。


「異教徒どもを逃すなっ!!」


「「「「「はっ!!」」」」」


後ろから召喚者の列の両横を倍はいるかであろう兵士が通り過ぎる。カーチャが冷たい視線を向けた。


「······ウォール」


巨大な壁が現れる。神殿の屋根を突き抜けその頂点はまったく見えない。神殿は物理的に2つに分断されていた。


静まり返る神殿内。囲んでいた兵士もじりじりと後退りしている。


「邪魔するなら体が2つになっちゃうよ?」


「カーチャっ!!すっごぉいっ!!さすが魔女ねっ!!」


「ん···じゃあ行くね」


「あぁん!待ってよぉっ!面白そうだから私も行くー!!」


ゆっくりと歩くカーチャを追いかけるリーシャ。その後ろを従者達がぞろぞろとついていく。その様子を兵士達は見守るしかなかった。

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