銀と虹〜剣者のスキルを貰ったけど剣なんていらない〜
ハイロリ
第1話 転移
1986年。奇しくも悪七慶太が産声を上げる年。ひとりの女性に転機が訪れることになる。
「ねぇバブーシカ?わたしはいつ魔法が使えるようになるの?」
「···何度も言っておるが···カーチャに魔法の才はない···諦めな?」
「でも魔女の血を引いてるならできると思うんだ」
「そうさね···間違いなくあたしの孫だから血は引いてる···でもだからといって魔法が使えるかどうかは別だよ。それに今時魔女なんて流行らない···戦争があった頃は需要はあったさね···こんな小規模な争いばかりじゃ魔女の出番はない。あんたには別の人生を歩んでもらいたいとあたしは思ってるさね···ってもう時間だろ?早く大学へ行って来な」
「むぅ···」
膨れ顔で不満の表情を浮かべる美しい銀髪の少女。エカチェリーナ・キリルイェブナ・タラソワ。魔女の家系に生まれながらも魔法の才に恵まれず、魔法への憧れが一際強い女の子である。興味があることにしか関心を示さずあまり喋ることはない。容姿は一般的に見て優れている。
「プリヴェット!カーチャ今日も綺麗だね」
「ん···」
「サーシャ!カーチャが嫌がってるからやめなさい!いくら惚れてるからってだめよ!」
「ん···アーラ···プリヴェーチック」
「プリヴェーチック!サーシャがまたごめんね?」
「いいよ。いつものこと」
「ははっ!だんだんカーチャを手に入れる日が近いようだな!」
「あんたはもう···そんなことはないから間に合ってるわよ。ところで今日もマフィアするのかな?」
「たぶん?実験してるみたいだし」
大学へ向かう道中、カーチャの友達のアーラとその幼馴染のサーシャが声をかけてくる。心理学を専攻している彼女達はここ最近、教授の授業であるゲームをしていた。マフィア。人狼ゲームの起源とも言えるゲームである。
授業が終わり、次の授業へ向かうため彼女達が外を歩いている時だった。3人の立っている地面が光り輝く。幾何学模様が浮かび上がりさらに眩い光を放った。
「っ!!馬鹿げた魔力反応···あの方向は···ちっ···あのくそ女神···今度はカーチャに手を出しやがった···年老いた婆は好みじゃないってか···はん···あれだけ手を出すなっていったのに···次会えた時は魔法を教えてあげようかね···会えるまで生きていられるといいが···」
空に向かって悪態をつくお婆さんの姿。カーチャの心配をするとともに寂しさを感じていた。
ーーー???ーーー
カーチャは野原のような場所に倒れている。どれくらいの時間が経っただろうか。瞼が僅かに動く。
瞼を開くと眩い光によって思わず目を細める。曇り無き晴天。しかし太陽はない。小鳥の囀りがのどかに漂う。気温は寒過ぎず暑過ぎず暖かい心地のよいものであった。
「目が覚めましたか?」
振り返ると白銀の布が目に入る。すらりとしたモデルのような体型に立派な双丘。双丘には色彩鮮やかなな髪の毛がかかっている。誰もが美しいとも思える容姿。
「···あなたは誰?」
「私はイーリス。女神よ」
「ん···じゃあイーちゃんか」
「はぅ···好きに呼んでいいですよ。あなたはなんて呼んだらいいかしら?」
「んー···友達にはカーチャって呼ばれてるよ?」
「カーチャちゃんね。突然だけどカーチャちゃんには異世界に行ってもらいます!」
「···ん」
怪訝そうな表情を浮かべるカーチャ。優しげな表情で女神は説明していく。
これから行く世界は惑星系で構成されている。その中のとある星にある国へと向かうことになり、何をするかは個人の自由。管理する世界に刺激を与えるために女神は定期的に異世界に色んな生物を連れて来ている。異文化を混ぜ合わせることで更なる文化を生み出すのが目的であった。
「···とこんな感じなのだけれども理解してくれたかしら?大きな功績を作ってくれたら元の世界に戻してもいいわよ?」
「ん···誘拐?」
「そうあなたが可愛すぎるからこの世界に···おほんっ!というのは冗談よ。元の世界とは文化も倫理感も違うから楽しめると思うわよ?」
「···まぁいいよ?」
「この世界では生物にスキルを授けてるわ。人族ならその人が持つ1番の才能がスキルになるのよ。才能の度合いにもよるけどいきなり天才ってこともありえるわ」
「ふ〜ん···じゃあどんなスキルをくれるの?」
「それは私がこれからスキルを授けてあげるわね」
カーチャの体から眩い光が放たれる。そして思わず女神の目が見開く。
「カーチャちゃんすっごぉいっ!!カーチャちゃんのスキルは剣者よっ!!剣者はねこの世界でたったひとりにしか与えられないスキルなのよ!!つまり剣に関して言えばカーチャちゃんはこの惑星系でナンバーワンっ!!もう無敵なんだからっ!!可愛いのに才能まであって···はぅっ···それからねっ·········」
カーチャの授かったスキルは剣者。剣においてはこの世界で右に出る者はいない。女神は愛おしそうにカーチャを褒めちぎる。カーチャは無表情であった。そして衝撃の一言を放つ。
「······魔法がいい······魔法じゃなきゃ行かない」
「···えっ!?」
「この世界って魔法の練習はできるの?」
「え、えぇ···魔法もあるし練習はできるわよ?」
「じゃあ魔法の練習ができるとこに行きたい」
「·········」
女神は自分の信仰が1番強い国へカーチャを届ける予定であった。しかし魔法の練習となると話が変わってくる。真剣な表情をする女神。どうにかして狂った予定を戻したい。
「そうね···じゃあカーチャちゃんが可愛いから私が特別に教えてあげるわ!ここでなら時間も関係ないし···一緒に来たお友達と同じ時間で送り出すこともできるわ!私って結構すごいのよ?えっへん!」
「ほんとっ!!イーちゃん好きっ!!」
「はぅっ!!」
魔法を教えてくれると聞いたカーチャは女神へ抱きつく。女神は端麗な顔から鼻血を出している。
「あぅ···カーチャちゃんいい匂い···可愛いすぎなんですけど······はぅ······」
「イーちゃん震えてるけど大丈夫?」
「え、えぇっ!!大丈夫よ?心配いらないわ」
我に帰った女神の鼻血は一瞬にして消える。慈しむような笑顔でカーチャの顔を覗き込む。
「じゃあさっそく魔法の練習しちゃいましょうかっ!!イーちゃんはりきっちゃうからねっ!!」
「イーちゃん大好きっ!!」
「はぅっ·········!!」
カーチャに悶絶する女神の姿があった。
「まずこの世界ではソウルという力の源がすべての起源よ。カーチャちゃんの世界ではマナが力の源だったから馴染みはないと思うけれどね。他の力の源もあるけれど基本的には全部ソウルでいけるわよ」
「はいっ!!イーちゃん先生わかりましたっ!!」
「はぅ·····っ!!···くっ······じゃあまずはソウルを感じるところからやってみましょうか?」
女神の元で始まった魔法の修行。日に日に上達していくカーチャ。一緒に寝たりお風呂や食事···様々なことをする度に悶絶する女神。元々魔法に憧れていたカーチャはどんどん技術を吸収していく。
女神は気づいていない。女神のタイプ過ぎるために呼び寄せたカーチャ。推しに貢ぐかのように自身の持つ魔法の技術をどんどん教え込む。女神の管理する世界にバランスブレイカーとも言える化け物が誕生しようとしていることを···。
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