アメイジング飴

秋犬

アメイジング飴

 飴玉とうまく付き合える人生じゃなかった。


 ぺろぺろキャンディーをあげておけば子供は黙ってるだろうと思われていたかもしれないけれど、どうにも飴というものと距離感のある人生を送ってきた。別に飴が嫌いなわけではない。むしろもらったら嬉しい。しかし、飴には苦手意識がある。


 その理由は、飴がすぐに食べ終わらないものであるというところに尽きる。飴は時間がかかるのだ。その分お得じゃないか、と思われるかもしれないけれど違うのだ。元からグズグズ食事をするタイプだったため、棒つきキャンディーなど貰った日には途方に暮れていた。飴をひとつ舐めきるのに人より時間がかかっていた。そのうち途中で飽きてべたべたになって捨ててしまう、だから飴は嫌いではなかったが飴は好きではなかった。飴を舐めている間、飴しか舐められない。そこまで束縛された生活は送りたくない。土産物屋でたまに見る巨大なロリポップは一体どこのどういう人が食べているのだろうと常々思っている。律儀にペロペロしているのだろうか。


 棒つきキャンディーがこの有様なので、それなら棒のついてないキャンディーならどうかというと、これもあまり上手に付き合えていない。飴玉の袋を買って持ち歩いていたこともあるけれど、最後まで舐めきった試しはあまりない。のど飴は必要に迫られて舐めるので例外だけど、本当に飴玉というお菓子と相性が悪い。消えちゃうキャンディーはランダム性があったのでそこそこ楽しめたけど、後は一通り味を見たら飽きてしまう。泣き虫神様も「なっとらん!」と天誅を下すようなドロップスに対してドライな奴なのである。


 そして飴玉の最大の欠点は、グズグズしているとべたべたになるところである。まるで食べてくれなかったことを恨むように、鞄の中でドロドロになっている。もうこれがムカつく。いや、食べなかった奴が一番悪いんだけどさ。チョコレートなどは早く食べないとと思うし、クッキーやビスケットもそこまで悲惨なことにはならない。でも飴玉はダメだ、なんかべたべたしてくる。お前らのそういうところがイヤなんだ、と飴玉に言っても「だってそれがうちらの持ち味だし?」と開き直ってくるに決まっている。畜生、神様の涙の分際で人間様をバカにしやがって!


 そういうわけでロリポップキャンディーとは人類に対する反逆者であり、時間を溶かして歯と骨をボロボロにする悪魔なのである。だからお願いだから、ご当地のなんかデッカイ飴とかをお土産にくれるのはやめてくれないか? ご当地ものならチョコレートとかクッキーとかあるじゃん、飴はやめてくれよ。なんかトントンしてる飴切の飴とかならいいけどさ……それも食べきるのに時間かかるんだよお。やっぱり飴は苦手なのかもしれないなあ。くすん。

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アメイジング飴 秋犬 @Anoni

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