魔女のお菓子が切れる時

ふもと かかし

魔女のお菓子が切れる時

 ルルリは5歳の女の子。好奇心旺盛で村の男の子に混じって村の周りを嬉々として探検するような子供だ。


「お母さんはちょっとリートの世話で手を離さないから、お外で遊んでおいで」

 ルルリの二つ下の弟のリートが熱を出した。ただの風邪らしいが、それでも辛そうな弟を残して遊びに行く事は躊躇われる。

「お姉ちゃんにも移ると大変だからね」

 母親の言葉に後押しされて、ルルリは家を出て遊びに行く。


 ただ、その日はリーダー的存在の子も、熱を出していて探検は開催されなかった。

 ならばと、一人で探検を始めたルルリだったが、夢中になり過ぎて林の方まで行ってしまう。


「あっ、お菓子だ!」

 焼き菓子が落ちていた。ルルリはそれを拾おうとする。

「こら! それは獣のにやる為に置いた物だ」

「あっ、魔女のおばちゃま。ごめんなさい」

 ルルリを諫めたのは、村外れの林に居を構える獣使いの魔女だ。遥か昔から変わらぬ姿で獣達にお菓子を与えているので、今ではそう呼ばれている。昔は守護の魔女と呼ばれていたらしい。


「謝る事はない。地面に置いた物は汚い、こっちのを一つあげるからね」

 魔女はバスケットから、一つ新しいお菓子を取り出すとルルリに与えた。

「ありがと」

 前に貰ったのと同じ、干し葡萄が練り込まれた焼き菓子である。お礼を言うルルリの頭を撫でると、魔女はお菓子を他にも置いて回っていく。


〜〜〜

 ある日、珍しく魔女が村へやって来た。

「済みませんが、干し葡萄を少し分けては貰えませんか」

 村人達の大半は、魔女のお菓子を子供の頃に食べた事があるのだ。故に干し葡萄が何に使われるかは知っている。

「葡萄は今年は不作なんだ。獣に喰わせる余裕はねえ!」

「そこを何とかお願いしたいのだけれど。このままだと大変な事になるのよ」

 魔女も中々引き下がらない。

「本当に余裕が無いんだよ。干し葡萄はこの村の大事な収入源だからな」

「それならば、早くこの村から出て行く事ね」

 魔女はそう言い残すと、去って行った。気になったルルリは跡を追う。


 家まで付いて行くと、魔女はルルリを見て困った顔をした。

「いいかい、ここらの林には狼やヒョウなどが多い。奴らを干し葡萄の中毒で間引いていたのに、それが出来なくなったの。早めに逃げるのね」

 魔女は手荷物を纏めると、早々に旅立ってしまう。


 その後、一つの村が獣の被害により無くなった。魔女の忠告を受けたルルリは家族を説得して、母方の実家に移り住んでいたので無事でしたとさ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔女のお菓子が切れる時 ふもと かかし @humoto_kakashi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ