プロローグ 3
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スタート地点から見えていた切り立った崖の見晴らしの良さそうな場所があったのでそこを目指して向かっている。
◇◇◆◇
一望するなら高台、獲物を探すなら高所から、広さを知るなら景色のいい場所から、それぞれな理由だが、恐らく、敵もそこを目指して歩いているだろうと踏んだから選んだ。勘というやつだ。それに頼る事にした。そこでばったり出くわすなんてこともあるので、崖付近では小走りではなく、身を潜める形で進む方が得策だろう。三日もあるのなら焦る必要はない。最初は偵察がてらの散策と行こうじゃないか。
歩く為に舗装された道はなく、まさに自然そのままといった造りの森の中を崖目指して走るが、なるほど、忠実に自然を再現しているということか。人工太陽の光が木漏れ日程度に差し込む森は多少足場が悪い。ローファーのせいか、それとも落ち葉が散乱しているせいか。斜面でないことが唯一の利点といったところか。こういった道では足元を掬われるかのように、転けやすいのが定番となっている。それは、今現在においても例外ではない。普通に足を滑らして骨折でもしたらそこでゲームオーバーだ。
さてさて、道すがらに視界に入る情報はなるべく吸収しておきたい。とはいえ、森の中ではほぼ景色は変わらない。方角も、太陽が動かないのであれば知る由はないだろう。
森ともすれば、想像通り。街のように大小連なるビルもなければ、コンビニも、家も、ド派手な広告塔も、公園もない、森とくれば小川、湖を想像する人も少なからず居るだろう。しかしながら、残念な事に池も川もなさそうだった。水の〈み〉の字すらない、ならば、巨大な大木《たいぼく》でもあればと思ったが、しかし、それすらもなさそうな森だった。恐らくは、ない。そう見てよろしかろう。
ただただ緑広がる森。そこに木漏れ日が差す。胡魄の背丈より腰くらいまでの雑草が伸びた森であることくらいしか道すがらに得られるものはなかった。
◆◇◆◇
情報量がものを言うが、ここまで得られるものがないとそれすらも意味を成さない。さらに残念なことに、見晴らしのいい崖の下まで辿り着いたはいいが、上に上がる手段、がなかった。迂回して行けるような道はなく、木の死角になって、てっぺんの方しか見えなかった崖は、壁に埋め込まれるようにしてそこに存在していた。登ろうと思えば登れるのだろうが、どこかのロックライミングができる施設のように壁と一体となっているここを登るのはローファーでは無謀というものだろう。そもそも、ロッククライミングの経験もない。高さもビルの六回くらいに届きそうな程ある。落ちれば、運良ければ骨の骨折か、下半身不全くらいで済むだろうが、まず間違いなく打ちどころによっては死ぬ。
情報は勝負の優良を左右する重要なファクターの一つだ。しかし、得られたものは、ほぼ無いに等しい。
幸先が悪い。そう言って偽りない。それでよろしいが、これでは敵を探す手段が一つ減ったとも、戦い方を一つ潰されたと言っていい。右往左往してみるも、やはりどこにも上に上がる手段はない。まるで、地形を知るにも、〝歩いて知れ〟と言われているみたいだ。ともなれば、理解するのに時間はかからなかった。フィールドだけは平等だけはびょうどう、という事に。これはこれはご丁寧な親切心だ。人数不利はこれでチャラにしてやるから後は自力でどうぞ、などと考えているのか。これで済むなら警察はいらない。
らしくないツッコミと、少しばかりの苛立ちを抱き、立ち往生している場合ではない事をすぐに察する。
次の行動をしなければ。
いかんせん、今し方、当初の予定を潰されたばかりだ。
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———隊を成して、森の中を歩く。軍隊、特殊部隊というほど、大して統率の取れた隊を成してはいないが、歩く、という点においては、隊を成している。列というほど綺麗ではない。即席のチームだった為に、左右に逸れながらも等間隔に広がって足行きを揃えている。
目的地は高台になっている崖。そこを目指して森の中を進む。
「司さん、俺たちはどこへ向かうんで?」
司は横から、声をかけられたので質問に答える。
「とりあえず、あの崖だな」
崖を指差す。
「あの、スタート地点から見えてた崖ですか?」
「ああ、そうだ」
「自分、高いところ苦手っす」
「巴山は高所恐怖症か?」
巴山は、チームの中で荷物持ち担当をしている。理由は一番経験が浅いからだ。水と食料の入ったリュックを背負い、せっせと着いてきながら、青ざめた表情で身震いしていた。
「ええ。まあ」
「お前、そんなんでここで生きていけんのか?」
「まあ、やるだけやってみますよ」
肩をすくめ、歯切れが悪そうに笑みを浮かべた。「まあ、がんばれ」
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私は人生ゲームで生きていく(仮) 夏野涼月 @natoki
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