惑星

世界の半分

             *

暗い宇宙の果てで、一つの惑星(ほし)が生まれた。

暗い闇の奥にある、小さな惑星。

ついに、始まるのだ。

光が集まっていく……。


「600年ほど生きることが出来れば奇跡」

心の中の奥底に、認めたくもない現実を訴える気持ちがある。


惑星の寿命というのは質量によって決まっている。

質量が軽い惑星ほど早く死んでしまうのだ。


自分もわかっているのだ。

自分の命が短いことなんて。

でもその現実から逃げているのだ。尻尾を巻いて逃げてるのだ。

そんな自分は子供なのだろうか、と問いたくなる……。


知っているだろうか?

惑星は歩むべき道が決まっていて、それを「軌道」という。

そしてこれは、惑星の「軌跡」なのだと。

僕はまだ宇宙を回ったことがない。いや、宇宙という大きい力を感じながら、その「何か」についてを考えたことがない。

「何か」は自分たちの力を超越する力を持っている。どこまでも広がり、どこまでも僕たちを包み込む。

では、「果て」はあるのだろうか。

大きな「何か」の果てを見つけた瞬間。その瞬間、どのようなことを思い、どのような景色が目の前に広がっているのだろうか?

旅の「種」はそこにあった。

ゆっくりゆっくりと動いていく自分の、「軌跡」はどんなものなのか。

「果て」につながるのか。

好奇心が好奇心を呼び、やがてそれが合わさって大河になった。

もう僕に迷いは、なかった。

『「軌跡」一周』

これを目標に僕の旅は始まったのであった。



 旅が始まった。

あまりにも強引で唐突な始まりだったが、そんなことを気にしている暇さえ、僕にはなかった。

僕は旅の始まりの地点であるここでの、周りについて知った。

周りにあるのは、果てしない暗闇と、小さな石。

石たちはまるで僕に怒っているように体をぶつけてくるし、

果てしない闇は自分を孤立させるだけだった。

いつか、「太陽」というものに会ってみたかった。

その体は光り輝き、多くの惑星を照らしているらしい。

自分はそのような存在になれないとわかっているからこそ、会ってみたかった。


そうして、100年が経った。

僕は静かに、ゆっくりと動いている。ゆっくりと移りゆく景色。

そして、分かったのは、「自分が何かの周りをまわっている」、ということ。

そうでないとこんなに規則正しく動いてられるわけがなかった。


近くに、一つの惑星を見つけた。

それは、僕と同じように小さい惑星だった。

しかし、僕よりもずっと美しいように思えた。

表面は青い炎のように、冷静でかつ、情熱的な色をしていた。

惑星(かれ)は、「自分は太陽の周りをまわっている」と言った。

太陽はうわさに聞いた通り、美しいのだと、惑星(かれ)は言った。

僕と惑星(かれ)の「軌跡」が重なったということは、僕も太陽の周りをまわっているのだろうか。

ひそかに期待した。


そして100年。

青色の惑星(かれ)とは「軌跡」が別れてしまった。

惑星(かれ)との別れよりも、自分が太陽の周りをまわっていない、という事実に期待を砕かれた衝撃のほうが大きかった。

次に僕の「軌跡」は大きい赤い惑星の「軌跡」に重なった。

惑星(かれ)からは、「地球」という美しく、悲しい存在について、教えてもらった。

そこまで大きくはないが、(それでも僕より全然大きい)惑星の中では珍しく、水があるという。そこには「人間」という小さな生命体が存在する。地球は生命がいるから、「文明」が発達し、時とともに発展していくらしい。

生命は弱い、と惑星(かれ)は言った。

大きな滝を、自分たちが敵わないほどの滝を目にして登ろうとする。

その姿は勁(つよ)いようで、脆くて、弱い。

生命はいずれ消えていくだろう。

悲しくも、うれしくもない不思議な色が僕の心を絞めた。


また100年が経つ。

そして50年が経つ。

25年。

10年。

1年……。

時は、全てを飲み込みながら進んでいく……。

多くの惑星(もの)はなくなっていった。

多くの惑星(もの)は始まっていった。

そしてここにも、終わる惑星(もの)がいた。


軽い星は、重い星のように激しく、多くのものの目の付くような無くなり方はしない。

誰も知ることもないように消えていくのだ。

そして今、惑星(かれ)は消えていく途中であった。

光となって、砂のようにさらさらと消えていく感覚は、悲しいはずなのに、なぜか満足感があった。痛みはなく、体が暗い闇の中に溶けていく。

僕は、結局目標を達成することはできなかった。

僕の「軌跡」は長かった。それをまわる時間は僕の短い人生では足りなかった。それに、太陽にも、地球にも会うことはできなかった。

それでも僕は、満足しているようだ。

短い人生で、目標を持つことができた、ということに。

周りには誰もいなかった。

僕はここで、誰にも気付かれないようにひっそりと消えていく。

もう、それでもよかった。自分が「満足できた」ということに嬉しさを覚えた。

僕は今、人生最後にして、一番嬉しいのであった。


 暗い宇宙の果てで、一つの惑星(ほし)の寿命が尽きた。

暗い闇の奥にある、小さな惑星。

ついに、終わるのだ。

光が離れていく……


誰も見ていなかったが、惑星(かれ)の軌跡は、惑星(かれ)が消えるその瞬間、涙の形のエメラルドグリーンに染まって、光った。

           終

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惑星 世界の半分 @sekainohanbun17

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