匿名系イベントにおける得票機会の不均衡とその対処について(4)

 その後、旧Twitterでの「匿名超掌編コンテスト」を挟んで、再びカクヨムでの開催となった「匿名闇鍋バトル」では、ルール研究のための試験実施という名目のもと、後半投稿の作品の得点力を底上げする施策を打ち出しました。

 それが、最大20個のお題から任意の個数を選んで短編を書き、お題の使用数に応じて得点の倍率がアップするという方式です。開催期間を4タームに分け、タームごとに5個ずつのお題を募集・追加していくことで、後半になるほど使えるお題の数が増え、それだけ得点の倍率も上げられるという仕組みでした。

 お題使用数という作者自身でコントロール可能な要素と連動して配点が高くなり、その選択肢及び上限数が後半になるほど増えるというのは、我ながら画期的な発明であり、掲載順による得点機会の不均衡という積年の課題に風穴を開ける施策と期待されました。


 しかし、実際にイベントが始まってみると、確かに多くのお題を使用できる後半タームの作品群が、総合順位において前半タームの作品群より優位に立つことにはなったものの、各ターム内の順位については、投票者の少なさにも起因して、いつになく掲載順による格差が出てしまう形となっていました。

 群として後半組が強くても、その中で結局「掲載順ゲー」になってしまうのでは意味がありません。「四季の宴」のようにダミー作品を導入していれば防げた事態かもしれませんが、後悔先に立たずです。


 そこで、やや禁じ手といえる対応ではありますが、当初から試験実施と銘打っていたことを免罪符として、急遽、イベント開催中に新集計ルールを策定し、最終集計はそれによって行うこととしました。

 今思えば相当な無茶をやったもので、主催者の振る舞いに白けた方も少なくなかったかと思いますが、それを承知の上でも「テコ入れ」を断行しなければならないほどの格差が生じてしまっていたのは事実でした。


 格差の要因の最たるものは、序盤掲載の数作にだけ応援を押していく一般読者の存在です。

 しかし、全ての方に投票をオープンにしている以上、そうした投票を全く蔑ろにするわけにもいきません。好きなジャンルの作品だけをピンポイントに読んで投票してくれる方も実際におられ、それはそれで有難いことですから、最初のほうに偶然その方の好みの作品が来るケースを考えると、ノーカウントにはできません。


 その中での落とし所として考えたのが、一部の(=序盤掲載の)作品しか読んでいない人の投票を完全にノーカウントとするのではなく、その重みを限りなく小さくするという方法でした。ターム単位で一定の割合以上の作品に投票している人の投票のみフルの得点として扱い、そうでない人の投票分は重みを半分やそれ以下にするという形です。

 しかし、フルカウントになる条件を単純に作品数に占める投票数の割合で決めてしまうと、前半だけ読んで後半を読まずに去った人の分も結局フルカウントになり、システムが意図通りに機能しません。あくまで「後半の作品群まで満遍なく投票している人」だけを絞り込むルール設計が必要になります。

 そこで、各ターム内での掲載順をそのまま各作品の「掲載順ポイント」とし、投票者個人ごとに、投票した作品の掲載順ポイントの合計値を計算し、それに応じてその人の投票に「ノンブースト」「セミブースト」「フルブースト」の3段階の重みを付けることにしました(※詳細1)。「ノンブースト」及び「セミブースト」では、前半掲載の作品への投票は0.5点未満の価値しか持たず、「フルブースト」に至って初めて、通常通りの1票1点となります。

 当初、「ノンブースト」及び「セミブースト」の投票の重みは一次関数で処理することとしていましたが、それでは掲載順が末尾寄りの作品の点数だけが著しく大きくなり、不自然な結果となってしまうため、途中で対数関数を用いた処理に変更しました(※詳細2)。


〈※詳細1〉https://kakuyomu.jp/works/16817330652982673639/episodes/16817330654535045833

〈※詳細2〉

https://kakuyomu.jp/works/16817330652982673639/episodes/16817330654809782156


 このシステムの要点は、前半の作品への投票ばかりではなかなかブースト基準に達しないのに対し、後半の作品には少し投票するだけですぐにブースト基準を満たすことです。

 当イベントの第一タームを例に取ると、作品数は18作のため、各作品の掲載順ポイントの合計は、「1+2+…+18=171」点となります。通常通りの投票として扱われる「フルブースト」の条件を満たすには、その3分の2の「114」点分の投票を行う必要があります。1作目から14作目まで全てに投票しても「105」点にしかならず、「フルブースト」になるには15作目以降の作品に少なくとも1作は投票していなければなりません。


 なお、ここまでの調整をもってしても、なお序盤掲載作品が有利な立場にあることは変わりません。冒頭の作品群には無条件に他より多くの票数を得られる「地の利」があり、その重みを何分の一にしたところで0以上ではあるのですから。

 しかし、こうしたルールが存在することにより、参加者の多くが「後半まで満遍なく多くの作品に投票しなければ、自分の入れた票は力を持たない。好きな作品を本当に応援したければ、他の作品も沢山読んで投票することだ」という意識のもと、従来より積極的に後半作品に目を通し、投票したい作品を選ぶ動機が生じると考えられます。結果的にそれが、より多くの作品が公平に評価されることに繋がり、一部の作品にばかり突出して投票が集まる事態への抑止力にもなると期待されました。


 また、当イベントにおいては、投票者の少なさや好みの偏りに起因して、一部の作品になかなか票が入らないままという状況が続いていました。

 そこで、イベント終盤の第四ターム限定で、盛り上げ貢献賞の一つとして「最速コメント賞」を試験導入しました。各作品のコメント先着順に応じて「最速ポイント」が付与され、最もポイントを集めた人を称えるというものであり、これにより、まだ多くの投票を集めていない作品に積極的に投票する動機が生まれ、投票序盤から多彩な作品に光が当たるようになる効果が期待されました。

 この他、新集計ルールの導入に際して、カモフラージュ投票の扱いなどにも細かな調整を加えています。


 結論として、新集計ルールの導入は一定の効果を上げ、概ね多くの参加者が納得しうる集計結果を出すことができました。

 各タームの終盤掲載の作品が逆に有利になりすぎるとの懸念もありましたが、従来の集計ルールによる参考順位を算出して検証したところ、新集計ルールで上位となった作品は、従来の方法で集計しても概ね上位に入っていたことが確認でき、新集計ルールには一定の公平性を認めてよいとの結論をもって、当イベントは幕を下ろしました。


 しかし、今になって振り返れば、変更に変更を重ねて無理やり主催者の望む形に着地させた当イベントの運営は迷走の一言であり、その象徴たる新集計ルールもまた、到底わかりやすいとは言えないもので、取っつきやすさを旨とする匿名コンの信念に適うものではありません。また、その集計には途方もない手間が掛かり、今回の参加者数ならまだしも、より大規模なイベントでの採用は躊躇せざるを得ません。

 そもそも、当イベントの根幹である「タームごとに使えるお題が増えていくN題噺」というコンセプト自体、そう何度も実施できるものではなく、一般化は難しいと考えられました。


 かくして、ルールの改善について一定の研究成果は得られたものの、「ここまでやらなければ公平にならない」という諦観にも似た確信を得て、匿名コンはこの時を最後に1年半の沈黙に入ることとなります。


 今後、匿名コンが復活を果たせるかどうかは、公平性、透明性、盛り上がり、そして分かりやすさ(あと、できれば主催者の負担の軽さ)を兼ね備えた新システムを発案できるかに掛かっています。

 この度の「ミニ匿名コン・主催者の苦悩編」では、その一案として、コメント内で金賞・銀賞・銅賞の授賞推薦を受け付け、その重みを著しく高く設定する(応援・コメント各1点に対し、銅賞は+5点、銀賞は+10点、金賞は+20点)という施策を導入してみました。これならば、序盤の作品が無条件に得られる応援数の影響はほぼ無視できると思うのですが、果たしてどうなることでしょう。

 もっと良さそうな方法を思いついた方は、ぜひ知恵をお貸しください。


 また、このエッセイでは、今後も継続的に匿名系イベントに関する雑感を語っていく予定ですので、フォロー・★評価を頂けると幸いです。

 ここまでお読み頂きありがとうございました。

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