匿名系イベントにおける得票機会の不均衡とその対処について(3)

 このように、既存の案のいずれも改善の決め手とはならない中、有志の皆様との意見交換の中で新たに浮上してきたのが、作品単位ないしグループ単位で公開期間を定め、期間の過ぎた作品を順次非公開にしていくというアイデアでした。

 確かにその方法なら、前半の作品ばかりに得票機会が集中することは防げます。しかし、短期間で早々に作品を非公開としてしまう仕様には、それはそれで不満が続出することが予想され、さりとて開催期間の最後に改めて全作品の投票期間を設けることにすれば、またしてもそこで前半組にばかり票が集まる問題が繰り返されます。


 そこで、この発想にさらに捻りを加え、新匿名コン第2回「四季の宴」では、第一の新機軸として、一つのイベント内で複数のテーマ(春・夏・秋・冬)を設定し、テーマ単位で公開期間を切り替えていく方式を導入しました。

 順位自体も各テーマ内でのみ競う形とすれば、テーマ間のPV格差も問題となりません。さらに、従来のように、日々投稿される作品をその都度公開するのではなく、事前の受付期間中に投稿された作品を各テーマの公開開始日に一斉公開することにすれば、各テーマ内での掲載順によるPV格差も可能な限り抑えることができます。


 それでも、実際に掲載順というものが存在する以上、各テーマ内において、やはり前半組が後半組と比べて有利となるのは否めません。特に各テーマ冒頭の作品群には、従来と同様、無条件に多くの投票が寄せられることが予想されました。

 そこで、第二の新機軸として、各テーマの掲載順の冒頭に、主催者および有志の執筆による「ダミー作品」を何作か配置することとしました。冒頭の作品群にのみ無条件に多くの票が入る現象を回避できない以上、その位置には応募作を置かなければいいという逆転の発想です。各テーマの冒頭にはダミー作品のみが並び、そのあとに真の応募作が並ぶ形となりますが、どこまでがダミーでどこからが応募作かは結果発表時まで誰にもわかりません。


 しかし、これだけでは、従来の匿名コンの楽しみ方に慣れた人には新たな不満も生じることが予想されました。

 第一に、この形式では投稿から公開までの空白期間が長くなり、間延びが懸念されました。第二に、一斉公開形式では、日々作品が増えていく楽しみや、既存作に対応して新たな作品を執筆するといった遊び方の余地がなくなり、参加者間の双方向性が削がれる形となります。第三に、最後に改めて全テーマの投票期間を設けるとはいえ、公開時期を過ぎた作品が一旦非公開となってしまうのは、単純に面白くないと感じる方も多いでしょう。

 そこで、これらの不満を解消する手段として、応募作を順次、カクヨムの「下書き共有機能」で閲覧可能な状態とし、投票期間に先立って作品を物色したり、感想を語ったりできるようにしました。

 投票は本公開まで不可能なので、従来のように、先に投稿された作品が後発組に比べて圧倒的に有利になるということもありません。また、テーマごとの公開期間を過ぎた作品も、引き続き「下書き共有」では公開を続け、いつでも読み直せる形としました。


 結論として、これらの施策は功を奏し、新匿名コン第2回「四季の宴」では、各テーマ内における得点機会の不均衡は統計的に無視できる程度に収まりました。特に「秋」及び「冬」の部においては、得点の線形回帰直線の傾きが正の値を取る(=掲載順が後の作品の方が得点が高い)結果となり、匿名コンの歴史における一つの快挙ともなりました。

 各テーマの上位入賞作も、概ね参加者にとって納得の内容であり、イベントとしては成功だったといえます。


 しかし、敢えて厳しい振り返りをすれば、これは当該イベントの参加作者が27名、作品数が各テーマ30~40作前後と、比較的小規模にとどまったことがメリットに働いた事例であり、より大規模となった場合の再現性は何とも言えません。

 春夏秋冬のように収まりの良い並列テーマがそう何度も見つかるわけでもなく、ダミー作品の準備にも事前に相当な手間と根回しが必要になります。各施策は勿論今後の参考にはなるものの、主催者の実感として「二度はやれない形式」というのが正直な感想でした。(続く)

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