第一楽章 第七小節

~暖かい雨~




 「気付かれた! くっ!」


ガルブスは馬を左右に振り、うまく避け続けている。


「ガルブスさん……、あれ……」


ルヴェンが異常に気付き、雲を指差しガルブスに告げると、雲から翼の生えた魔物が多数飛び出しているのに気付き、



「実行部隊か!? くそ! もう少しなのに!」


ガルブスは焦りの表情を隠せず、唇を噛み締めながら言葉に出す。





魔物は徐々に近づいてきていた。



「ルヴェン、ここのままじゃ危険だ!付近に闇塚へ通じる洞穴がある、お前たちはそこからいけ!」


ガルブスは一つの考えが浮かび上がった様子で、ルヴェンに指揮を促す。


「はい! でも、ガルブスさんは……?」






ルヴェンが心配そうに問いかけたが、彼は一瞬瞳を閉じ、溜め息のような息を吐いたがゆっくりとした口調で話す。



「私の役目はお前たちを闇塚へ連れて行くこと、ここで共に朽ちては元も子もない。少しは……、足止めにはなるだろう……?」


その顔はとても優しく、決心に満ちていた。



「……分かりました……その洞穴は子供の頃、オルスとよく遊びに行ってました。道は、分かります」


ルヴェンがそう答え、近づいてくる洞穴に目を向ける。 


「闇は近づく、悪しき者も近づく


全てを葬る為、


生きる術を求めた人間達の、


儚い争いは続く……


どこまでも、どこまでも


そして……深い闇より出もの、


その力は、光か、闇か……」


3人を見下ろす高い丘の上で、ロインは奏でていた、未来を予測するような、激しい旋律を……。



誰にも聞こえない、魂の調べに乗せて……。


「さぁ! もうすぐ洞穴だ! いくぞ!」



ガルブスがルヴェンとコリアに伝え、体勢を整え叫ぶ。



「5から数えて、0で飛べ! 私は刃を避けて、丁度いい着地点まで運ぶぞ! いいな!?」




「分かりました! コリアいいね!」


ルヴェンが答え、妹に確認を取る。


「はい……、怖いですけど、頑張ります!」


コリアも決心を固める。


「さぁ……5!!……4!!……」


ガルブスが秒読みを始め、ルヴェンは集中し、疾走する大地を目を凝らして見つめ始める。


「ハァ……ハァ……ハァ…ハァ」


徐々に息が荒くなり、ガルブスの秒読みが遠く、耳から消えていく……。



そうしていると、徐々にルヴェンの頬には暖かい雨がつたい始めた。

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