第一楽章 第六小節

 ~父の手綱~


オルスが振り返るとそこには、父の愛馬、サルースの姿があった。


体の大きなレグレントの足となる大きな黒毛の馬だ。


「サルース! お前無事だったのか!?」


オルスは、彼が生き延びていたのが信じられず、目を丸く見開いて裏返った声で言葉を投げつける。


するとサルースは、オルスに近づき、つぶらな瞳で彼を見つめた後、その大きな鼻を彼に甘えるかの様に、オルスの顔に擦り付けたのだ。


「サルース、なぁ……、兄弟で父上のところにいかないか?」


オルスは涙のあまり震える声で呟き、父の隣に腰を落としたが、サルースは座る素振りも見せずに、彼を顔で激しく揺さぶるだけだった。


「おい? どうしたんだ? 父上だぞ? お前のご主人様だぞ?」


と彼に言い聞かせるが、尚もサルースはオルスを揺さぶり続ける。


「お前……、まさか……?」



オルスはもしかしたらサルースが自分をルヴェンのところ、闇塚へ連れて行ってくれるんじゃないかと思い、サルースに乗り、



「父上の手綱……、こんなにすす切れて……。こんなに太いのに……」


強く握った。ただひたすらに、涙を堪えるかのように。



そして……。



「いくぞ! サルース! 闇塚まで突っ走れぇ!」



声を高々と揚げ、サルースを走らせる。



疾走するサルース、風を切るようにオルスを運ぶ。


「いける! コイツなら追いつく! あっちは3人乗りだ! こっちはビルデン一の鈍足の父上の……、誇り高いビルデン最速のサルース! 追いつかないはずがねぇ!」


オルスとサルースは走る、田舎道を越え、荒れ果てた街を越え、荒野地帯の闇塚へ。


オルスが旅立った風塚に、またもロインが現れ、ハープを軽く奏でる。


「少年は走る、友の下へ、


友は待つ、少年が来ることを、


そして、尚も激しく雨が降る、


命を奪う、悪しき光の雨が……」


暫くの無音の後、ロインは煙の様に姿を消したのだ。


一方。




「ガルブスさん! 痛い!」


激しく走る馬の衝撃で、コリアは何度も頭を打ち、痛みで思わず声に出してしまう。



「がまんしなよ、仕方ないだろ?」


ルヴェンは優しくなだめたが、



「でも、ガルブスさん! 闇塚ってどこなんですか? ここ、街から離れすぎてますよ?」


耐え切れずにコリアがガルブスに訊ねた。


「もう少しだ、黒竜様は大きすぎる力のため、ビルデンからは離れて祀られている、ここにはヤツもきづ……」


ガルブスが言いかけたそのとき、背後の雲からルヴェンたちにむけ、光の刃が放たれた。


まるで、自らの狩場に誘い込むようだ。

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