第一楽章 第五小節

~風のセレナーデ(後)~


父の傍らで泣きじゃくるオルスの後ろに、そっとロインが現れた。


ロインはハープを奏で、優しく唄い始める。


「どこまでいこう? 君と共に、優しい風の吹く丘で、


どこまでもいこう、君と共に、遥かな大地求めて、君と二人、


どこまで行っても、君と共に、心の中に眠る君の為に、


何時か夢見し、勇者さえも、何時か朽ち果て君の下に」


ロインが唄っている間、オルスは不思議な光景を目にした。


そこには少し大人びたルヴェンがこの歌を唄っていて、その周りには、幼い自分とルヴェンやコリア、それに、若き日のレグレントさえも風塚に集まっているのだ。


「な、なんだコレ……、何で、ルヴェン?」


大人びたルヴェンや自分たちに触ろうとしたが、体は不思議にすり抜けてしまう。



ロインが歌を唄い終わり、彼に告げる。


「『風のセレナーデ』、歌は永遠に歌い継がれる、永遠の時の中で、歌は、変わり継がれる」



ロインはそっとオルスに近づくと、


「な、何だお前!! コレは一体何だ!?」


オルスは困惑したが、さらにロインが口を開く。



「君の友人が、君に捧げた歌の二曲目だよ、もっとも、君は聞くことができなかったので、 私が代わりに聞かせてあげたよ。」


「あ……、ああ? あ?」


オルスは何が起こっているか判らないでいたが、ハッと気を取り戻し、剣を構え、


「お! お前が魔石の勇者か!?」


力強く言葉を投げる。


するとロインは、オルスに背を向けて一言。


「あんなのと一緒にしないでくれよ、私はロイン、遥かな時を旅する、時空の語り部……」


そしてロインは薄れて消え始めた。



「お……、おい? 待てよ?おい!!」


オルスは追いかけようとしたが、コレも不思議とすり抜けてしまう。


ふと、オルスは何かの気配に気付き、後を振り返る。


この瞬間、先ほどの対峙は嘘の様にオルスの記憶から消え去った。


……時空の狭間の、不思議な出来事だった。

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