第一楽章 第四小節

~殺シノ調ベ~



騎士が走り去った後、ロインが現れる。


「幼き日、勇者の夢、少年達はいつしか、


闇を葬る勇者になろうと誓いを立てる。


叶えぬ夢、遥かな夢、

そしてその夢は少年を変える……


それは、この過去の未来で……」


そしてハープを奏で、ロインは姿を消した。



3人はやっとの思いで風塚に着くと、そこにはあまりにも酷すぎる光景が広がっていた。



 「そ、そんな……皆……死んでる」


オルスが震えながら呟く。


少し小高い丘に、小さな祠と、4人程が常駐できそうな木造の宿舎があったその場所は、ものの見事に焼け落ち、血痕と肉片であろう物体が散乱している。



オルスは膝を落とし、脱力すると、


「きゃ!」


コリアが地面に落とされたが、オルスはそのことに気が付かないほどだった。


「オルス、これは……?」



ルヴェンが言葉を掛けながら、震えながら放心するオルスの近くに寄ろうとした時だ。


「ち! 父上!」



オルスがルヴェンをはじき返すかのように急に走り出した。


緑竜の眠る祠に、そこで目にしたものは。



崩れた祠のそばに、人なのか何なのか分からない血まみれのものが。


オルスは、辺りにこぼれ落ちた鎧の欠片で、ソレが自分の父親であった事に気付き、


「父上!! 父上!! うわああぁぁぁ!!」



泣きながら頬をこすりつける。




オルスにとってレグレントはたった一人の肉親だった。


そこに近づいたルヴェンとコリア、彼女が異変に気付き鼻を押さえながら口にした。





「この匂い……、なんですか? 酷く臭い……」


辺りには悪臭が漂っていたのだ。


「人間の……、血と内臓の匂いだよ……」


急に後から、太いが透き通った声がしたので、ハッと3人は後ろを振り返るとそこには、ルヴェンとオルスの剣術を教えていた騎士ガルブス=ジレンの姿が。


「ガルさん!」

「ガルブスさん!」


2人は声を揃え彼の近くに走り寄ると、彼はとても急いで話し掛ける。


「魔石の勇者が攻めてきている、ヤツはどうやら竜様の力を取り入れようとしてこの街を襲ったんだろう、緑竜様は堕ちたか……」


そして、


「さぁ闇塚へ行くぞ、そこに陛下やエスメラルダ卿もいらっしゃる。黒竜様の力で一気に叩き潰すんだ、最恐の力を持ってな」


さらに言い放つ。


「準備はいいな? さぁ馬に乗れ、子供3人なら何とかなる」


するとオルスが、ガルブスの余りにも業務じみた対応に疑問を感じ問い掛ける。


「って、弔いはいいんですか? 俺の父上ですよ? 貴方の上官でもあるじゃないですか!? そんな、あっさり? って……?」


淡々とガルブスが言う


「戦場では死者は付き物だ、お前たちもそうなりたくないなら……、さっさといくぞ」


言葉を投げるガルブスにオルスが言い返す。


「ひでー! そんなのアリですか? ねぇ! あんた騎士でしょうが! 風塚のみんなは兄貴達みたいなもんだ! んなことできないですよ!」


興奮気味のオルスにさらにガルブスが、


「わかった」


一言適当な返事の後に、剣を胸の前に掲げると、



「風塚の塚守、レグレント=マーク=ゼディアーク及び、その配下のものよ安らかに眠れ……、これでいいか?さぁいくぞ」



形だけの慰霊の儀式をオルスに見せつける。

その横柄な態度にオルスが怒りを心頭させた。


「ふっざけんな!行くなら勝手にいけ!俺は父上達を弔ってからいく!ルヴェン達をたのむぜ!騎士様よぉ!」


そう言い放ち父の遺体の傍に向かう。


「ふん、分かったじゃぁお前はここで朽ちるがいい、だが覚えておけ、それらはもう……ただの肉の塊だ……」



その言葉にルヴェンとコリアは驚きを隠せなかったが、この無常さを受け入れガルブスの馬に乗りこむ。

そしてルヴェンが、


「オルス……絶対後で会おう、絶対だよ?いいね?」


そう言うか言わないかでガルブスは馬を走らせた。


「オル兄様~絶対ですよ~!」


コリアの声は遠く離れていく。


残されたオルスは、



「父上、俺もココで眠ります……、一緒に母上の下に……」


涙を流し、レグレントの遺体の隣に腰をおとし空を見上げた。



光の刃はさらに辺りを飛び交う。

その空気を切る音が重なり合って、まるで殺戮を促す協奏曲のように。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る