第一楽章 第三小節

~風なびく田舎道を越えて~


その一撃のあと、またもや数回の攻撃が校舎を襲う。


 激しい爆発音や逃げ惑う生徒達の悲鳴、先導する教官達の声が渦巻く中、ルヴェンとオルスは共にいた。


「ルヴェン! コイツはヤバイぞ!? 取り合えず外に出ようぜ!」


 頭の上を腕で防御し、落ちてくる瓦礫から身を守りながらオルスが提案した。


「そうだね、この様子じゃ街にも被害がでてそうだ! 家にいるコリアが心配なんだ、一緒に来てくれるかい?」


 ルヴェンの言葉にオルスは、落ちてくる瓦礫から彼を庇う。



「だぁーほ! 今は俺達が危ないんだっての! このお人よしぃ、付いて行くからここから逃げようぜ!」

  

ルヴェンとオルスはココにいては危険だ、という結論にたどり着き砂塵舞う校舎からやっとの思いで抜け出した。


それからは二人でエスメラルダ邸まで一気に走る。


 走り去るルヴェン達の後にさっとロインが現れ歌い出した。

その背後には逃げ惑う人々や傷を負った人を運ぶ姿、火の手も上がり修羅場と化している。


 しかし彼はその光景に溶け込む様にメロディーを奏でている。



「魔石、心奪われし人、獣……


壊れる街、そして……、少年達は……」



 軽くハープを奏で、ロインは姿を消した……。




 ルヴェンとオルスが彼の家に向かう途中、何人もの人々が光の刃に襲われ、無残な姿を晒しているではないか。



二人はその光景を横目にやっとの思いでエスメラルダ邸に辿り着く。


「うう……、こんなのって……、う!」


 ルヴェンは今まで見たことも無い無残な死体やそれに付着する血液、尚も続く攻撃に精神的に追いやられ堪らず嘔吐した。


つい朝までは落ち着き、見慣れた街並が今ではただの瓦礫の山が並ぶ状態だ。


「おい! 大丈夫かよ!? 家だぞ? お前の家に着いたぞ?」



 オルスが背中を撫で、彼を宥める。


光の刃に襲われた家は、かつての姿を殆ど残していなかった。


「コリア……。コリアは?」



ルヴェンはふらつきながら瓦礫の山を探した。

と、その時、外れにある馬小屋からかすれた小さな声がする。



「兄様? 兄様なの?」


コリアの声だ。先に見つけたオルスは、


「ルヴェェーン! いたぞ! コリアちゃんいたぞぉ!」


叫びながらルヴェンの頬を叩き、気を取り戻させる。


「あ……、あ……」


まだ動転しているルヴェンは自分が何をしていいか分からない。



「兄様達……、よかった無事だったんですね?」


半分泣きながらコリアがルヴェンに抱きつき兄に甘える。



「とりあえず……、だ」



オルスが口を開く。



「こんなわけ解らない事態だ、とりあえず風塚へいこう、あそこにゃ父上がいる、なんとかなるだろ?」



 苦笑いを浮かべながらオルスが二人を励ました。


 色塚にはそれぞれ「塚守」がいて、オルスの父レグレントがその一人だ。



「あそこか、分かった行こう」


正気を取り戻したルヴェン達は風塚へ向かう。三人は走った。次々襲い掛かる光の刃を避け、街の中心部から離れた風塚への田舎道へと足を運ぶ。


その光景は目も当てられ無いほどだ。

街の人々は死に絶え、コレが栄華を誇ったビルデンの街並みとは信じがたい光景だ。




「ひどい有様だな……、殆ど死んでる」


オルスが呟く、逃げ遅れた人々が無残な姿を晒しているからだ。


「オルス……、おじさんは大丈夫なんだろうか?」


ルヴェンが心配そうに問い掛けたがオルスは何も言わなかった。


「兄様……、私、もう……」


コリアが疲れと惨劇に耐えられずに、息を切らせながらへたり込んでしまう。


「コリア、ダメだよ早くおいで……」


息を切らせながらルヴェンが彼女を軽く急かした時、風塚の近くではいつも頬に風を感じていたが、この時は何故か風が止んでいた。





「あれ…? オルス……、ここって風塚の緑(りょく)竜様の力で風がなびいてる筈じゃ……」


異変に気付き、


「色塚の周りには色竜からの属性の効果が有るはず、それが無い……」


言いかけたルヴェンにオルスが、


「言うな! 言わないでくれ……」


拳を握り締め、彼の言葉を遮る。


「コリアちゃん! オブってあげるよ、おいで」


ルヴェンよりも体格のしっかりしたオルスが動揺を隠すように言う。


「あ、はい……、ごめんなさい」


コリアは言われるがままオルスの背に乗り、


「オル兄様…? 大丈夫ですか?」


彼を心配したが、オルスは風塚に向かって歩き出した。



「さっさと……、いくぞ……」


その声のトーンは低く、焦りの表情が隠せない。



雨の様に降り注ぐ光の刃の中、三人は風塚に辿り着こうとしていた。


 すこし離れて、一人の騎士がこの後を追いかける。


風の無い道を、巻き上がる疾風の様に。

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