第一楽章 第二小節

~魔石の勇者~


 





「えー、皆さんはこの授業の後、誇り高きビルデンの騎士試験を受けるわけですが、その前にー……」


いつもと変わらないルヴェン達が通う士官学校での授業中。




ここはビルデン騎士になるための剣技、法律や作法を学ぶ為の学校だ。



六歳から入学し、十五歳までの間みっちりとしごかれるのだ。



因みに国直轄の育成校の為、それなりの資金が掛かる。





「かったりーな、さっさと試験受けさせろっての」



オルスが小声でルヴェンに愚痴りだすと、



「こら! ゼディアーク! ビルデンの歴史も試験にでるぞ!」



何時気がついたのか、初老の教官シュバイルがオルスを怒鳴りつけた。



彼は年齢は六十代前の半白髪の男性。

体の線は細いが、姿勢がとても綺麗で、目つきはしっかりとした意志が溢れている。



さらに授業を進める。



「えー、竜に護られし国、このビルデンは、神竜メガイエル様の伝説によって築かれ、この広き台地を護るため、己が力をその風土に合わせた色、すなわち属性に力を分け、色竜(しきりゅう)として、各々色塚に奉られています」


何度も聞きなれた話に、周りの生徒は、次なる試験に精神を集中させ出し始める。


オルスもこれに気付き、


「ルヴェン、俺も精神集中だ、また後でな!」


と、目をつぶり静かに息を潜めたが、すぐに安らかな寝息を立て始めた。


「寝てるだけじゃん、はぁ……」


ルヴェンは呆れて窓の外を見上げてみる。


 空には、黒い雲が広がる。雨雲にしてはやけに暗く、低い位置に漂いながら異様な気配がする。




「えー、この世界には、『魔石の勇者』と呼ばれる魔物が存在する。まぁ通常の魔物とは違い、古代の王や、戦士、又大きな怨念を持って死んでいったものたちの心が特殊な石に取り憑き、ソレを手に入れた人間が魔物と化す、という順序ですな」



シュバイルが続ける、


「ワシも合間見えたこともあるが、ありゃーすごかった。色塚の竜様の力を借り退治したんじゃが、多大な犠牲を払ったのぅ……」



シュバイルはその歳故教官をしているが、すばらしい騎士だったとルヴェンは父から聞いていて、この授業も興味を持って聞いていた。


だが大体の生徒達にしては、『口うるさい歴史ジジイ』でしかなく、何度も繰り返される内容の話に皆、上の空の様子だ。




暫く授業が続き、先ほどの雲が近づいてきた頃、

大きな音と共に、爆発が辺りの建物を壊し始めたのだ。



 

その音は地面が縦に揺れる程激しく、雷鳴にしてはおかしい。



騒ぎになったところで、周りがあたふたし、目を醒ましたオルスが今まで眠っていたことを隠すかのごとく叫ぶ。


「おい! なんだこの騒ぎ!! 戦か? 戦なのか??」


辺りを見回し、半分寝ぼけ眼で焦る彼に、



「わからないよ! 僕もわからないんだ! ただ、あの雲から大きな光の矢みたいなのが……」


ルヴェンが言いかけたその時、矢の一本が隣の教室を襲う。



石と木材が崩れ落ちる音と、砂埃が舞う。

矢は教室を貫き通し、何人かの生徒達はその力に飲み込まれた。


「ぎゃああ!!」


「助けてくれ!!」



多数の悲鳴が聞こえ、押し倒された壁の向こうには、無残にも体をもがれた死体と、恐怖に震える生徒の姿があった。シュバイルは震えながら、大きな声で叫ぶ。





「勇者じゃ! 魔石の勇者じゃぁああ!!」




戦慄の始まりである。



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